ミミズの戯言96土用の丑の日。 18,07,22

  本稿の読者諸氏は今年の丑の日に鰻を食されただろうか。今年の土用の丑の日は
 7月20日(金)、8月1日(水)の両日。20日に食べ損ねた人はまだ8月1日がある。かくい
 う私も食べ損ねた一人である。

  とはいえ、うな丼が4000円と聞くとさすがにもったいなくて鰻屋に行くにも躊躇し二の
 足を踏む。今やウナギは庶民には手の出ない高嶺の花になってしまった。シラスウナ
 ギの稚魚が不漁で、絶滅危惧さえささやかれる始末だ。

  鰻の養殖技術が進まないと、あと数十年もすれば鰻は絶滅するか希少価値化して
 庶民の口には入らず、ウナギの代わりにアナゴが主流を占めるかもしれない。

  笑い話めくが、鰻を知らない子供たちが成人になると、うな丼ならぬアナゴ丼を人々
 は「うな丼」というかもしれない。あたかも、ウマズラの刺身を寿司屋で出されてもカワ
 ハギの刺身だと勝手に納得する関西人(?)のように・・・。

  平賀源内も罪なことをしてくれたものだ。本来ウナギは秋から冬のほうが脂がのって
 旨いというのがウナギ通の定説だから、秋と冬の土用の丑の日に食べるのが乙な食
 べ方かもしれない。今年の秋は10月29日(日)、冬は1月21日(日)、2月2日(金)が土
 用の丑の日である。

  もともと土用とは、四立(立春・立夏・立秋・立冬)の前の18日の期間を指し、その間
 の丑の日を土用の丑の日というのだから、今年は1年に6日も土用の丑の日がある
 ことになる。なにも鰻の旬は夏の土用丑の日だけの専売特許ではない。平賀源内も
 苦笑しているに違いない。

  今年はあちこちの老舗の鰻屋では質の良い鰻が手に入らず、値段を上げては客の
 足が遠のき、店じまいをするなど苦戦をしているが、片やコンビニやスーパーの格安
 ウナギは売れ行きが好調らしい。庶民の舌はそれでもなおあの蒲焼の味を求めるら
 しい.。

  私は昔からフアースフードガ苦手で、店で出される食べ物の味には食欲がわかない
 ので、この手の店には殆ど入ったことがない。贅沢かもしれないが格安のウナギを食
 べるくらいなら、ザルソバのほうがよほどうれしい。

  8月の旧盆には例年、東京にいる長男と次女が墓参りに葉山に帰宅する。
 墓参りの帰りには鎌倉の老舗うなぎ屋の「茅木屋」でうな重を食べる習慣があり、子供
 たちはそれを楽しみに墓参するようなものだ。この茅木屋のウナギは子供たちに大好
 評のお気に入りの味なのである。

  うな重の値段がどんなに高くなっても、子供たちの楽しみを奪うことは親の沽券にか
 かわることだから、やせ我慢をして財布のひもを緩めることにしている。

  鰻の肝和えと板わさとお新香をつまみにして、うまそうにビールと日本酒を飲み、うな
 重を食べる息子と娘の様子を眺めていると、こちらまで幸せになる。子供が幾つになっ
 ても代償を求めない無償の投資は親の喜びである。

  「どの社会にとっても、赤ん坊にミルクを与えるほど素晴らしい投資はない」とチャー
 チルも英国民に呼びかけている。

  うな重はあと1か月、子供たちの帰宅までのお預けか、それとも家内の催促でやはり
 馴染みの金沢文庫の老舗うなぎ屋「うな松」か「隅田川」、または地元の御用邸前にあ
 る「川正」に出かけることになるかもしれない。それともゴルフ仲間のYさん馴染みの平
 塚の鰻屋「川万」でゴルフ帰りの涼をとる
ことになるのだろうか。