ミミズの戯言93、シンギュラリティ。 ![]() 今日は少々お硬い話題の提供。 将棋の藤井新7段誕生が話題になったが、彼は幼少の時から将棋AIと一緒に切磋琢磨 してきた最初の世代だといわれている。藤井プロの対局相手が「なぜこんなところに打つの か、頭が混乱した。」とよく言うそうだが、それは彼が将棋AIと長く親しんできたからで、つま り藤井プロとAIの頭脳が将棋の着手を選ぶ上ではほぼ融合していることの証左だろうとい われる。人間の脳とAIの融合はこれから述べるシンギュラリティと大いに関連がある。 「シンギュラリティ」とは高齢者には耳慣れない単語だが、PC、特にAIに詳しい最近の若者 には比較的常識的な単語だろう。判りやすく言えば、「人工知能(AI)が人類の知能を超える 転換点(技術的特異点)。または、それがもたらす世界の変化のこと。」と理解されている。 近年みられるようにテクノロジーが年々倍々の速度で進化すると、その進化の度合いは、 エクスポネンシャル(指数関数的)に急激に上昇する。下の図は一般的な指数関数のグラ フである(y = ax )。 X軸を時間、Y軸を技術進歩の度合いとすると、テクノロジーの進化(Y軸)は時間(X軸)の 経過につれて急速に(指数関数的に)上昇する。遂にはある瞬間で進化は無限大に上昇す る。この時点では時間(X軸)は意味をなさず、緩やかな人間の能力の進歩の度合いをはる かに超える技術進化の世界に突入する。 例えば自動車の例をあげれば、最初のガソリンエンジン自動車が発明されたのが19世紀。 その後現在まですでに100年以上経ち、今や電気自動車、自動運転の時代になってきた。 エクスポネンシャルに技術が発達すれば、今後10年で、これまでの100年以上の変化が起き る可能性がある。つまり最初のT型フォードから今の自動運転車まで、これまで100年かけた 変化の、それ以上の変化が、次の10年で起きるとしたら自動車会社はどうするのだろうか? これまでの歴史でもシンギュラリティ現象はあった。それは過去の世界では、今まで我々が 生きて動いてきた速度に比べて、技術の進歩が驚くほど速かったわけではなかった。つまり y = axの指数関数ではなく、リニアな一次関数Y=aXの関係にあった。 しかし、これから先の技術の進歩の加速は、これまで人類が経験したことのない未知の世界 の領域に入る。 あらゆる技術的発明が1日のうちに起こる、人間の能力は完全にAIに支配される時代の到 来が2020年だといわれる。指数関数のグラフで言えば、Yは直線的に垂直に上昇し続ける。 現段階でもすでに囲碁や将棋やチェスの世界ではコンピューターが完全に人間の能力を 凌駕した。これが医療や農業、土木建築、金融、サービス業、物流、介護、果ては料理や作 詞・作曲、作家業、弁護士検事などの法曹専門家、編集出版、株取引などのソフト・ハードす べての経済行為が人間よりも優れたAIに取って代わられる? 人工知能(AI)全盛の到来と人間社会の融合の姿を想像できるだろうか。 2020年にはAIが人類の知能を超え、2045年までには人類とAIが融合する「シンギュラリティ」 が到来する。「シンギュラリティ」とは先が予測できないほどの劇的な変化が起こる臨界点、と いう意味を持ち日本語では「技術的特異点」と訳されている。 これはアメリカの未来学者レイ・カーツワイルの衝撃的な予言である。彼の大胆な予測は 「進化は加速する」という考え方に基づいている。 地球上に生命体が現れたのが約38億年前、最古の人類が現れたのが700万年前、農耕 と文明の発祥は約1万年前、文字の誕生は約5000年前、産業革命は約150年前、と進化か ら次の進化までの間隔はけた違いに短縮されてきた。 1940年代にコンピューターが開発されて以来、技術の進化はさらに加速、パソコン登場か らスマホ登場までわずか10数年で劇的に世界中に普及した。こうした進化の延長として人類 とAIが融合する「シンギュラリティ」は避けられないと彼は予測した。 しかしこれに異を唱える識者も多い。アメリカの言語学者ノーム・チョムスキーは、AIが人 間の知能を超えるというアイデアは完全な夢、AIは知識を量的に拡大できてもそれは知能 の本質とはかけ離れていると述べ、車いすの天才物理学者のスティーブン・ホーキング博士 はシンギュラリティに疑問を持つ一人、「AIは自ら発展し加速度的に自身を再設計していく。 進化の遅い人類はAIと競合できず、いずれAIにとってかわられる。完全なるAIの開発は人 類を滅亡させかねない。」 とAIの危険性にたびたび警鐘を鳴らしている悲観派である。 マイクロソフト社のビル・ゲイツも同様にAIの危険性と脅威を訴え、ホーキング同様かなり 悲観的である。 果たしてカーツワイルの予測のように、2020年にはAIが人類の知能を超え、2045年までに は人類とAIが融合する「シンギュラリティ」が到来するのか、そもそも将棋の藤井7段のように 人類とAIとの知能の「融合」が可能なものなのか。私には「融合」という姿を理解することはで きない。 それともホーキングやビルゲイツの警鐘どおり、人類はAIに従属し、滅亡の危機に陥るの か、私は2045年にはこの世にいない。「2045年問題」といわれる難問の解決は、若い青少年 の英知にゆだねるしかない。 |