ミミズの戯言91、報復の連鎖。 18,04,03 遠い昔のことと忘れてしまった方も多かろうが、2015年2月、日本人ジャーナリストの 後藤健二さんが「ISIL」に公開処刑されるという衝撃的な人質殺害事件が起きて からまだ3年しかたっていない。 当時中東ではテロと報復が繰り返され、この小欄でも「報復の連鎖を憂う」と ミミズの戯言61で懸念を表明した。その後トランプと金正恩の「核のボタン」を めぐる激しい口撃の応酬が起き、今年になってから今度は経済問題で報復の連鎖 が起きている。 米国第一を標榜するトランプ大統領が、貿易不均衡の是正と称して鉄鋼・アルミの 関税を大幅に引き上げる大統領令にサインをした。世界各国は直ちに反応し、ECは じめ特に中国は農産物の輸入品に大幅な関税引き上げで対抗し、米国は報復として 追加品目を検討し、中国もこれに対抗して飛行機など第2段の報復を準備している。 仮に米中貿易戦争が本格化すれば、日本経済は円高株安に振れ大打撃を受ける のは確実。株式市場は神経質な動きを見せ、一喜一憂して連日乱高下が続いている。 世界に貿易戦争の再現の懸念が広まっている。日本の鉄鋼・アルミも米国の関税 引き上げの対象になっているが、決定的な打開策がなく、韓国の巧みなロビー外交と は対照的な違いを見せた。米政府は韓国を関税引き上げの対象外、日本は引き上 げ対象内と言明した。図らずも日本外交のお粗末ぶりを露呈した。 鉄鋼とアルミの関税引き上げは、日本経済にとっては大打撃となるので、遅まきな がら巻き返しを図るのだろうが成果はあまり期待できない。安倍外交の明らかな失敗 である。トランプからはゴルフの誘いはあるが、首脳会談で関税問題を話し合う予定 はなさそうだ。舐められたものだ。 関税問題で報復の連鎖が続く一方で、外交面でも報復の連鎖が始まっている。 英国で起きた元ロシア軍スパイ暗殺未遂事件で、英国はロシア外交官の国外退去 を命じ、これにEC諸国と米国が呼応した。英仏独などのEC諸国18か国、EC以外では 米国・カナダ・オーストラリアなど9か国、の合わせて27ヵ国がロシア外交官150名の国 外退去を命じた。さらにはアイルランドやモルドバもロシア外交官の国外追放を表明 した。 これに対する報復として、ロシアは同数に及ぶ150名の英欧外交官を追放したほか、 米英両国の在サンクトペテルブルク総領事館を閉鎖するよう命じた。 第2次大戦開戦前や戦時中をほうふつさせる、冷戦終結後で最悪の事態が起きて いる。 外交官の大幅削減により、双方の情報交換や信頼醸成の機会が減ることの影響 は深刻だ。ロシアは米英両国の総領事館閉鎖なども命じたので、人的交流にも大き な障害が出ることになる。日本への影響も少なくない。 「テロの報復の連鎖」「関税の報復の連鎖」に次ぐ「外交官追放の報復の連鎖」が進 行している。世界は混沌の様相を示し、「信頼と協調」 「安定と秩序」という国際的な 連帯の絆は遠い昔話になりつつある。 「報復の連鎖」が「憎しみの連鎖」になってはならない。その隘路打開の道を 示し世界の橋渡しに貢献するのも唯一日本外交の独自路線なのかもしれない。 今年中に予定されている米朝首脳会談で、 北朝鮮との対話が「報復の連鎖」から 「雪解けの連鎖」になることを期待したいが、トランプ・金正恩というしたたかな両首脳 の思惑は常人にはわからない。 しかし核の問題、拉致被害者の問題の明るい進展の兆しぐらいは期待したいもので あり、口汚い「罵倒の連鎖」だけは御免こうむりたいものである。 いみじくもテロで犠牲になった後藤健二さんは述べている。 「憎むは人の業にあらず、裁きは神の領域。」 今国会は、陸自の日報隠ぺい問題、財務省改ざん問題、さらには厚労省の是正勧告 などで紛糾しているが、国民も森友問題への関心だけではなく、少しは今にも崩れ落ち そうな世界秩序の動向にも関心を持ち、目を向けては如何であろうか。 |