ミミズの戯言83、認知機能検査。17,04,30

   最近、朝日新聞に4日間にわたって「高齢者ドライバー」の特集記事が掲載された。
  今年の3月に道路交通法が改正されて、75歳以上のドライバーの運転違反のペナル
  ティがより厳しくなった。近年、高齢者の違反や交通事故が続発しているのがその理
  由である。

   75歳以上のドライバーが信号無視や一時停止違反、通行禁止違反、などなど18項
  目の違反項目のうち何れかに該当する違反をした時、所定の罰金の他に、直ちに臨
  時認知機能検査を受けることが義務づけられ、1か月以内に所定の試験場に出頭す
  るよう呼び出し状が来る。

   臨時認知機能検査の内容は、従来の高齢者の免許証更新の時の認知機能検査と
  全く同様の検査である。つまり、今日の年月日と曜日を答える質問、16枚の絵を記憶
  させ、他の質問を挟んで先程見た絵が何だったかを答える質問、最後は時計の文字
  盤を書かせ、例えば10時15分を文字盤に書かせる質問である。

   正常な感覚の高齢者なら極めて屈辱的な検査と感じるはずである。検査官は子供
  をあやすような馬鹿丁寧な優しい言葉で試験方法を説明する。高齢者の人格など顧
  みない小馬鹿にしたような上から目線丸出しで、官僚体質がプンプンと匂う。

   おまけに呼び出し状には親切にも免許証返上の方法まで記載されている。まったく 
  「小さな親切、大きなお世話」である。誘導されなくても返上する気になれば自分で判
  断して返上するというものである。思うに今回の道交法改正は高齢者ドライバーから
  如何にして早く免許証を返上させるかの一点に目的があるように思われる。

   道交法が改正されたほやほやの3月末、私は娘と孫を娘宅に送り届けた帰り道に、
  葉山のとある三叉路で不用意にも一時停止違反でパトカーにつかまり、罰金7000円
  の切符を切られた。パトカーの警官と、「停止した、いや車輪が動いていた、」とひと
  悶着したが、所詮勝てない警官相手なので観念して罰金を払ったが、1週間ほどして
  県警から追い打ちをかけるように、4月15日9時半に二俣川(横浜市)の運転免許試
  験場に出頭せよと通知が来た。

   道交法改正など何も知らないので不審に思っていたら、この呼び出しは3月の道交
  法改正による高齢者対策の通知だったのである。正に私は不名誉にも、道交法改正
  による呼び出し・認知機能検査の第一号となった。

   認知機能試験は、総合点76点以上が第一種の「記憶力、判断力に心配ありませ
  ん」 に分類され、76点未満49点以上が第二種で「少し低くなっている」 49点未満が
  第三種で「低くなっている」 と分類される。第三種になると医師の診断が義務づけ
  され、認知症と診断されると免許証は取り消しになる。

   幸い私の検査結果は76点で辛うじて第一種の最低点でセーフだった。しかし同時
  に検査を受けた10数人の違反者の中には、この人が運転をしているのかと驚くほど
  の老齢ぶりを見せる人が数人いた。

   耳が聞こえない、目が不自由でよく見えない、杖をついて歩くのもおぼつかない、
  筆記もままならない、失礼だがこの人には免許証を返上して欲しいとつくづく思う人
  たちだった。かと思えば、金縁の眼鏡をかけてセンスの良い高級な背広を着こなし
  て颯爽と歩く紳士もいた。

   75歳以上の違反者、高齢者といっても、確かに千差万別、年齢で一把一絡げで
  危険ドライバーと決めつけられない。やはり人それぞれだと思い知った。

   私もそんなに遠くない将来、免許証を返上するだろう。事故が起きてからの返上
  では意味がない。起きる前でこそ返上の意味がある。要は決断の時期である。
  家族に背中を押されてからの返上か、自分で決断しての返上か、目下まだ決めか
  ねている。

   しかし、最近とみに瞬間的な反応や動体視力が衰えてきたと自覚しているので、
  もしもしばらく健康だとしても、どんなに遅くとも85歳には車の運転からおさらばする
  だろうと覚悟は決めている。免許証返上後の移動手段を考えるとぞっとするのだが
  ・・・。

   その時にはゴルフや釣り、旅行などの趣味を楽しむ移動が激減して、家に閉じこ
  もる事の多い老人特有の生活になるのだろう。誰でも行きつく先は同じである。