ミミズの戯言81、ナショナリズムと壁。 ![]() 最近の世相を見ると不思議な出来事が続いている。物騒な出来事と云ってもいい。 あれほど不利と云われたトランプ候補がアメリカ大統領選で勝利し、公約を実行す る大統領令に次々にサインをすると、今度はマスコミも、欧米諸国も、閣僚までもが 懸念を示し、反トランプのデモまで起きている。 しかしこの野蛮な大統領を選んだのは他でもないアメリカ国民だからある意味自業 自得と云える。これが自由の国アメリカの民主主義で、図らずも民主主義のもろさを 露呈した。 英国でも昨年国民投票でECからの離脱を決め、その結果に英国国民は大慌てで ある。民主主義の先進国の英国ですら民主主義の危うさ、弱点、弊害を露呈した。 トランプ大統領の政策の特徴は、保護主義政策である。移民受け入れ阻止と雇用 の拡大である。その閉鎖的な自国第一主義は欧州各国にも蔓延し、オランダ、ドイツ、 フランスの極右政党が勢力を伸ばしている。彼等に共通する主張は、難民受け入れ の拒否と、ECからの離脱で、現政権に不満を持つ大衆の支持を伸ばしている。 経済が疲弊するとカリスマ的独裁者が出現する。独裁者の扇動は魅惑に満ちてい て、大衆が熱狂的に支持歓迎するのは歴史が示している。ユダヤ人殲滅を掲げた ヒットラーが国民の圧倒的な支持を得て独裁政権を確立し、第2次世界大戦に暴走 した過去が思い出される。あの時の再現かと思わせるナショナリズムとポピュリズム (大衆迎合主義)の台頭である。 アジアでは北朝鮮の金正男暗殺事件が起きた。独裁者はいつも疑心暗鬼で自分 にとって邪魔なものはたとえ自分の兄であっても抹殺する。 お隣の韓国では大統領の弾劾裁判の行方が注目されるが、さらにサムスンの献金 疑惑が報道されて政局は一層混迷を深めている。内政外交とも重大な政治空白が 生まれている。「権力は腐敗する」の格言通り、北朝鮮も韓国も共に権力が腐敗し、 いずれ「内部崩壊」して新しい秩序が形成されることになるだろう。 安倍首相の人気が急上昇している。安倍×トランプ首脳会談が成功したと概ね マスコミや識者が好意的に論評し、各紙の世論調査でも支持率が上昇している。 日米安保条約の堅持を担保したうえで、憲法を改正して積極的に防衛力を増強し たい安倍首相にとって、トランプ氏のアメリカ第一主義は好都合なことだ。2人は 好戦的な性格だからウマが合うのは当然だろう。 強行採決までして批准したTPPについて大議論も出来ずにトランプにひれ伏した 安倍首相の本質を見失ってはならない。安倍人気は虚構の人気取りである。 危険分子(安倍)の上にもっと大き危険分子(トランプ)がいて、アジアの危険分子 (安倍)の影が薄く見えるだけのことである。 トランプに代表される保護主義・排他主義の特徴は「壁」である。彼の掲げる壁に は、TPP拒否という「貿易の壁」、不法移民受け入れ拒否という「国境の壁」に加え て「心の壁」がある。権力者にありがちな、反対意見を封じる独善が齎す心の壁で ある。 社会学者の渡辺諦三早稲田名誉教授は、「成長欲求」と「退行欲求」という事を 述べている。成長欲求とは、コミュニケーションを求め、理念を追求し、負担を背負 う事を厭わず、物事を長期的に考える欲求であり、退行欲求とは、内向きになり、 壁を作り、敵を作って煽り、短期的な利益を求める欲求。と論じている。 トランプや英国ナイジェル・ファラージなどは後者の典型といえる。ナイジェル・ファ ラージは、イギリス独立党党首で、イギリスの欧州連合からの脱退と主権回復を目 指す欧州懐疑主義運動のパイオニア的存在で、.ドイツ、イタリア、フランスの極右 勢力の自国第一主義に大きな影響を与えている人物である。 人はなぜ「壁」を作ろうとするのか。得体のしれない不安に突き動かされた時、 人は「壁」を作ろうとする、と渡辺名誉教授は述べている。また「心に壁をつくること は、人とのコミュニケーションができなくなったということ、自分の価値を否定される のが怖いし不安だから、心の壁をつくり自分の世界に閉じこもる。」とも述べている。 金正恩などは典型的なこの種の人格なのだろう。 2月の始め、朝日新聞の「異論のススメ」に注目すべき投稿があった。京都大学 名誉教授の佐伯啓思氏の「グローバリズムの時代に保護主義は本当に悪か」とい う投稿である。自由貿易は善、保護主義は悪と決めつけるのは果たして正しいかと の問題提起である。要旨はこうだ。 米国製造業の衰退と白人労働者の失業をもたらしたものは技術革新とグローバ リズムである。先進国の製造業は新興国との激しい競争に敗れ、賃金は下方圧力 を受け、雇用は不安定化し、労働コストを引き下げる。次第に生産拠点を海外に移 し、グローバル化が進み、国内では産業空洞化が進む。 この状況下で自由貿易をやれば、安価な製品が競争相手国から流れ込み、この 種の産業は衰退を余儀なくされる。皮肉な事だが、アメリカが進めたグローバル化 と自由貿易がアメリカの白人労働者から仕事を奪った。 先進国は政府主導で資本や技術や情報に投資して新たに競争優位な産業を育 成する。後進国も国を挙げて追随する。こうなると自由貿易の正当性は崩れてしま う。グローバリズムのもとでは、自由貿易は決して穏やかな国際分業体制には落ち 着かない。激しい国家間競争が起き、政府による経済への戦略的介入をもたらす。 それが時には保護主義になる。 激しいグローバル競争によって衰退する産業から生まれる労働者の不満を掬い 取るには保護主義しかない。デトロイトで自動車の組み立てをやっていた労働者に ウオール街の金融ディーラーをやれといっても無理である。 保護主義をもたらしたのは、実はグローバリズムのもとでの自由貿易体制であっ た、という認識が大事だ。「トランプの保護主義は危険だ、自由貿易を守れ」といっ てもあまり意味がない。保護主義が危険なのではなく、敵対的で急激な保護政策 が危険なのである。節度ある保護主義をうまく使うべきだろう。 傾聴すべき論調であった。 |