ミミズの戯言75喧騒の陰に。 16,08,10

  連日、新聞やテレビは、リオ五輪、高校野球、イチローの3000本安打に
 加えて陛下のお言葉の報道で賑わっている。どの記事も一面を飾るビッグ
 ニュースばかりだから、記事にする報道各社もさぞ慌ただしい事だろうが、
 読者の方も新鮮な記事を見落とさないよう目配りが大変だ。

  気温は38度を記録する暑さだから、極力外出を控えて家の中でクーラー
 を効かせて熱中症予防をし、新聞とテレビで一日中を過ごしている。

  高校野球はわが母校は岩手県の地方予選で敗退したので特に贔屓はな
 く、神奈川代表の横浜高校に注目している位で、もっぱら漫然と注目チーム
 や選手を見守っている。

  リオオリンピックは、連日メダル獲得の報道に振り回されて一喜一憂して
 いる。あまりにもメダルに特化した報道ばかりなので、視点を変えた報道が
 出来ないものかと疑問に思うが、新鮮なニュースの報道競争が視聴率を上
 げるのだから仕方がないのだろう。市川 崑監督のドキュメンタリー映画の
 「東京オリンピック」が描いた競技者の内面に迫った名作を懐かしく思い出
 している。

  開会式で、わずか10人の「難民選手団」が入場して開催国ブラジルに次
 ぐ万雷の拍手で迎えられた。母国における迫害のため他国に逃れ、受け
 入れ国でまだ国籍取得に至っていない難民や国籍の無い者にとって、オリ
 ンピックは遠い存在だったが、今回IOCの特別処置で参加が可能になった。
  この英断は賄賂やドーピングで揺れるIOCにとって五輪始まって以来の
 大金星というべきで、マスコミはメダル報道だけでなく、こうした報道にもっ
 と力を入れるべきだろう。

  陛下のお言葉には感じることが多かった。新憲法が定めた象徴天皇とし
 て、ひたすら「象徴とは何か」を追い続け実践してきた完璧主義者としての
 側面を初めて知った。高齢になるにつれ、象徴天皇としての役割を充分に
 果たせなくなる、との懸念を淡々と正直に述べた。

  実業界でもスポーツ界でも加齢とともに「勇退」という花道が用意されて
 いる。しかし憲法に規定されて、生涯、私的な時間を持つことを制限され、
 高齢になっても「現役引退」を許されない「生涯現役」を任務とする天皇が、
 心に秘めていた「生前退位」の意向を、政治的発言を避けるという憲法の
 制約の下で、慎重に言葉を選びながら吐露したのは、まさに昭和天皇の
 「ポツダム宣言受諾」に匹敵する人間天皇としての重いビデオメッセージ
 だった。

  憲法と皇室典範の根源に自ら一石を投じた天皇自身の問題提起だった。
 歴代の憲法学者や為政者は、新憲法制定以来、一度もこうした課題を持
 たなかったのだろうか。天皇の疑問に素直に共感した。

  老いが進み自分が亡き後の遺族のことを心配する気持ちは、立場こそ
 違え我々と全く同じだと心打たれ、微笑ましくさえ感じられた。

  8月9日は長崎に原爆が投下されて71年前にあたる。この日、見逃しが
 ちな記事だが、紙面の片隅に長崎で開かれた2つの原水爆禁止世界大会
 の閉幕を告げる記事が載っていた。1つは総評系の「原水禁」、もう一つは
 共産党系の「原水協」。

  永年反目しあう2つの大会だが、目的はただ一つ。世界中から核兵器を
 廃絶して恒久平和を実現する事。分裂してほぼ50年、政党色の強い両
 団体は、未だに自らの正当性を主張し反目しあい、和解の道を全く開こう
 としない。純粋に核廃絶を願う国民目線で見ると、政党色丸出しのふたつ
 の団体の活動には疑問を抱かざるを得ない。

  ところで、ご覧になった方も多かろうが、長崎の原爆資料館には原爆の
 悲惨さを伝える1枚の写真 「黒こげの少年」 が展示されている。
 衝撃的な写真だが、長らく身元不明だった黒焦げの少年の身内と思われ
 る妹さん二人が名乗り出たと10日の紙面は伝えている。これを機に原爆
 被害の悲惨さを世界に訴え、核廃絶のアッピールがさらに進み、共感の
 輪が広がることを切に願う。

  折しも甲子園では、同じ9日に長崎西高校が山梨学院に惜敗した。
 奇しくも原爆投下と同じ日という因縁である。長崎を知る日本中の高校野
 球ファンがこの因縁に気づいただろうか。野球記事も五輪記事も、単なる
 勝敗の報道だけでなく、こうした多面的で厚みのある報道に心掛けてほし
 いのだが・・・。

  終戦記念日が近づく。あの日もセミの鳴き声が甲高く響き、灼熱の太陽
 が照りつける真夏の暑い日だった。あの日を知る人も少なくなった。