ミミズの戯言69、恩讐の彼方に。  15,12,03

   今暁にも英議会がイスラム国(IS)への空爆作戦を容認可決し参戦するとみられる。
  米、仏、露、に続いて英国が空爆に加わると、あたかも第3次世界大戦の様相を帯びてくる。
  いずれは地上戦に拡大する懸念もある。フランスで起きた連続テロ事件、ロシアで起きた
  航空機爆破事件など各地で起きているISのテロに対して各国が断固とした対応を取るのは
  至極当然であろう。

   しかし各国にはそれぞれの思惑が見え隠れしていて複雑な要素が混在している。
  シリアはアサド大統領派、反アサド派、それにIS、という3つのグループが睨み合う内戦状
  態にある。戦災を避けてシリアを去る難民は後を絶たない。

   シリアのアサド大統領派を支援するロシア、反アサド派を支援する英米が、共にシリア内
  で跋扈するISを空爆するという奇妙な構図になっていて、さらには攻撃側の仲間であるは
  ずのロシアとトルコがロシア機撃墜事件を契機に対立をを深めているという三つ巴、四つ
  巴の様相を呈して事態を一層複雑にしている。

   「テロに対する力による報復」はさらなるテロの拡大を招き、ISの思う壺にはまるという空
  爆慎重派もいるし、空爆により罪なき民衆の犠牲が増えるという反対派もいる。

   いまやISは固定された国境を持つ「国」ではなく、世界各地に見えざる拠点を持つ潜在テ
  ロ集団と理解すべきで、彼らの本拠地が空爆で犠牲が増えれば増えるほど世界中でテロ
  の反撃をするアメーバ組織となっている。

   過去の歴史的な「国」と「国」の戦争とは全く次元の違う戦争状態といえる。

   先日テロで妻を失った夫が 「憎しみという贈り物はあげない。それは彼らの思う壺に嵌
  るだけだ。」という趣旨の発言をしていた。実に尊い反テロリズムの宣言だと思う。

   しかし一方、テロによる民衆への無差別殺傷の銃撃を目前にした警官や兵士に対して
 、「撃つな!撃たれても撃つな!」と人道的な対応を要求するのは、あまりにも非現実的で、
  絵空事だと主張する識者もいる。これももっともな意見だ。

   「報復の連鎖」は所詮人間社会の持つ永遠の矛盾であり避けられない宿命にも思える。
  「愛による報復」が暴力と憎しみの連鎖を断ち切れるならばそれは最大の解決策には違
  いない。はたして矛盾に満ちた人間社会でそれは実現可能なのだろうか。ましてや「死刑」
  という刑罰を容認している国家・国民にそれを課する事が出来ようか。

   菊池寛の戯曲に「恩讐の彼方に」という短編がある。親の仇と狙う男を苦難の末ようやく
  発見したが、最後は憎しみを捨てその男の大慈大悲に心打たれて縋り付いて泣く。という
  大正8年の作品である。今から96年前の戯曲だが、菊池寛は憎しみと愛の交錯・葛藤とい
  う永遠のテーマに迫っている。

   テロに対する武力による果断な反撃、制圧行動を支持すべきか、ISの思う壺には嵌らな
  いとしてじっと耐えるべきか、菊池寛やガンジーの教える「愛」を高らかに叫び、世界中の
  IS支持者に平和的解決を呼びかけるべきか、又は他の方策があるのか、私にはどの方策
  がベストなのかを判断する識見を持ち合わせていない。ただただテロの犠牲者に黙とうを
  捧げるのみである。

   外を見ればテロの脅威、内を見ればいじめや老人の孤独死、不安だらけの中で声高に
  叫ばれる「一億総活躍社会」。80歳に近い私もその1億人の一人だからきっと社会に役立
  つ活躍の場があるらしい。