ミミズの戯言66、風評被害。 ![]() 昨日の土曜日、箱根CCの開場記念杯招待ゴルフ大会に家内同伴で出掛けてきた。 関東地方は37度を超える気温で熱中症対策が必要だが、ここ箱根CCは標高700m だから下界よりも4〜5度気温が低く、心地よい涼風の下で快適なゴルフを楽しんで きた。スコアは相変わらず100越えの平凡な成績だった。例によって家内は所狭しと 並ぶ和洋中のバイキング料理を心行くまで食べまくって満足げだった。 箱根CCは仙石原に位置し、今噴煙が上がっている大涌谷から3キロと比較的近い が、プレー中にコースから見える大涌谷は平常と何ら変わりがなく見え、危険を知ら せる連日のマスコミ報道がまるで嘘のような平穏な景色だった。箱根湯本〜宮ノ下 ・強羅周辺は箱根の定番の観光コースで、いつもは観光客でにぎわうのだが、繁華 街をたむろする観光客も車の出入りも極端に少なく、商店街はまるでさびれた田舎 町の通りのように閑散としていた。旅館組合では宿泊費を大幅に割引して集客キャ ンペーンをしているらしい。 権威ある気象庁にケチをつける気はないが、風評被害という言葉が頭をよぎる。 箱根には本当に危険が迫っているのだろうか。細川護煕理事長名でクラブのメン バー全員に手紙を送り、箱根CCは危険がないので大袈裟な風評に惑わされない よう呼びかけているが、現地に実際に立ってみると、大涌谷の一部を除いては町 民の生活に変化がなく、風評被害の払拭に躍起になるのも尤もだと納得した。 因みにクラブの説明によると、大涌谷の地下構造は、地下約8`辺りに 「蒸気 溜まり」があり、その下約10`辺りに「マグマ溜まり」がある。マグマの熱で「蒸気 溜まり」に蒸気が溜まり続け、蒸気は間断なく一定量噴出し続けていわゆる噴煙 になっているのだが、溜まる量が多くなり10数年溜積して残留分が多くなると、一 定期間(3〜4か月)通常の噴出量より多く猛烈な勢いで蒸気が噴出する。 今がその時期で、現在は2001年以来10数年ぶりに通常の何倍かの量が激しく 噴出しているが、しかしこれはマグマの噴出ではない。従来からの高熱の蒸気が 大量に噴出しているにすぎず爆発の心配はまずない。 過去の水蒸気爆発は詳細の地質調査の結果、2000年前と3000年前に起こって いるが、マグマの爆発ではない。今回もおそらく数か月後には沈静化するであろ うとの事だった。 今箱根は、商店街、旅館組合、ゴルフ場共に風評被害の真っ只中にある。 ところで風評被害と云えば思い出が数々ある。近くは去年タイを訪問した時の バンコクの町の様子。日本のマスコミ報道では、反タクシンVS反インラックのデモ 合戦がオーバーヒートしていて町の散歩は危険だと報道され、それなりに身構え て出掛けたのだが、広場の一部で騒いでいる程度のデモで一般市民はデモの存 在すら知らなかった。拍子抜けしたものである。 最近では東日本地震発生直後にスーパーやコンビニから一斉に食料品が消え た事や、古くは石油ショック時のトイレットペーパー品切れ騒動、また今も引き続く 福島原発事故による福島野菜の汚染報道などがある。また記録に残っているの は関東大震災時の朝鮮人暴動のデマの流布と、その恐怖でパニックになった民 衆があちこちで起こした朝鮮人虐殺がある。いずれもマスコミの過剰反応が風評 被害を助長したと云える。その他、例をあげれば枚挙にいとまがない。 報道が真実か過剰反応かを見極めるのは極めて難しい。云えることはマスコミ 報道を過信する過ちを常に意識する習慣をつけることだろう。 トヨタ自動車中興の祖の豊田英二当時社長から受けた訓示、「本質は何か」を 思い出す。本質を見抜く力を養えば、浮き草のような現象面に一喜一憂することも なく、ごまかしの三百代言に惑わされることもない。私の人生で頭から離れない哲 理なのだが、凡人の悲しさ、なかなかその域には到達できない。 先日テレビで田中秀征氏が、安保法制のごまかしを1枚ずつ剥ぎ取って「本質は 何か」に迫り疑惑を赤裸々に暴けばいい。60年安保の再現に近い広範囲な世論 の盛り上がりが期待できる環境にあると述べていた。 時あたかも反骨の哲学者鶴見俊輔氏が亡くなった。「声なき声の会」を組織して 60年安保改定に反対し、「べ平連」と「9条の会」を動かした行動の人は明白な「違 憲」法案に何を語っただろう。朝日の天声人語によれば「器量と遊び」を大切にし た鶴見さんは「正義という言葉の危うさ」と、「失敗した時には躊躇せずに後戻りす る」事の大切さをいつも説いていたという。 「違憲法案」との声に耳を貸さず、後戻りの声にも一顧だにしない今の政権に、 「安倍首相の本質」を見極めるのはそんなに難しい事ではない。 風評被害はパニックの連鎖を生む恐ろしい現象だ。賢明なわが国民でさえも いったん事が起きれば、いち早くトイレットペーパー買い占めに走り、地震が来 ればスーパーの食品を買いあさる逞しい生活能力と危険予知能力を示した。 私がスーパーに走ったらとうの昔に棚から食品が消え、コンビニではお結びや 食パンはじめ惣菜類に至るまで綺麗に空になっていた。乾電池さえ消えていた。 これでは主婦との生存競争には到底勝てぬと驚嘆したものである。 違憲に近い法案に本能的に危険を感じる有権者が日に日に増えているのは 主婦のあの時の過敏な行動を見れば不思議でも何でもない。 逆説的な発想で共感は得難いかもしれないが、違憲法案の危険を察知した主 婦を中心に危険回避の行動が燎原の火の様に拡散する、そんな風評被害パニ ックが起きるなら、風評被害もまんざら捨てたものでもないなどとニヒルな夢想を する昨今である。 |