ミミズの戯言56、真実はいつも薮の中(その2) ![]() 14,07,29 朝日新聞に興味ある記事が載っていた。 憲法解釈変更と集団的自衛権の容認の是非に関して各新聞社の社説を比較した記事である。 反対が朝日、毎日、東京、賛成が産経、日経、憲法改正をして集団的自衛権容認が読売だ った。特に朝日と産経の対立は顕著だがこれは今に始まったことではない。中道的左派の 朝日と雑誌「正論」に代表される右寄りの産経はもともと立ち位置が正反対で、それぞれ の論客は錚々たる面々ばかりである。 私は朝日に組する考えを持っているがこの欄ではその主張は控えておく。言いたいのは人それ ぞれ、また新聞もそれぞれの立ち位置によって意見が異なり、その主張を堂々と述べて読者の判 断に委ねるという健全な報道の民主主義が日本には深く根付いていると言いたいのである。 中国・南北朝鮮のような言論統制された国にはない健全さが喜ばしい。そして新聞の使命の第 一は重箱の隅をほじくって大衆受けのする追っかけ記事を書くのではなく、事の本質をいつも読者 に提示する啓蒙にあるという事を忘れて欲しくない。「重箱の隅」か「事の本質」かを見極めるのは 記者の見識というものだ。 政治には隠蔽や機密や妥協がつきものである。時の権力者にとって都合の悪いことを国民に知 らせたくないことが多々ある。それを国民目線で明らかにして正邪を問う姿勢が往々にして必要に なる。国際社会における外交交渉でよく外交機密が発生するが、特に悪質な機密はこれを追求で きるのは新聞だけの特権といって差し支えない。 古くは沖縄返還時の日米密約。糸(繊維)と縄(沖縄)の双方の妥協で決着した繊維交渉と沖縄 返還には多くの密約が存在した。佐藤首相とニクソン大統領の命を受けた国際政治学者の若泉 敬とキッシンジャーが交わした「非常時の沖縄への核持ち込み」の密約。最近最高裁で結審した 元毎日新聞社記者の西山太吉氏が特ダネスクープした米軍沖縄撤退時の1部費用の日本肩代 わりの密約の存在。その他核持ち込みに関しては多くの日米密約が存在すると云われている。 一昨日、朝日の特ダネスクープとして関電トップが長年にわたり歴代首相に多額の裏金の政治 献金をしてきた過去が明るみになった。政治家を巡るKい金はロッキード事件やリクルート事件な ど枚挙にいとまがないが、国民から徴収したいわば税金のような電気料金を原資にした裏金の 提供は極めて悪質で、政官業の長年の癒着構造は徹底的に追及されるべき性質を持っている。 電力を巡る阿吽の密約があった疑いが濃い。 表面に現れない薮の中の真実を赤裸々にあぶりだす努力は並大抵ではないが、透明性のある 政治を実現するためには不断の努力は欠かせない。 薮の中の真実といえば古く南京大虐殺、従軍慰安婦、歴史問題も諸説紛々で真実は薮の中で ある。友人に紹介されて今読んでいる角田房子の「閔妃(みんび)暗殺」は下手人は日本人だとし て韓国では誰一人知らぬものはないようだが、暗殺の首謀者は当時の日本軍なのか朝鮮人なの か真相は定かではない。 今年に入ってマレーシア航空機2機が立て続けに行方不明と撃墜されるという事件が起きた。 原因解明はまだ謎のままである。果たして真実は何か。 中東が激しく燃えている。イラク・シリアにまたがって突然現れた「イスラム共和国」、ガザへの 地上侵攻が続くパレスティナ、ロシアへの帰属を求めるクリミア半島ー。世界を揺るがすアラブ紛 争の事態は、いずれも100年前の第一次世界大戦後にイギリス、フランス、ロシアがオスマン帝 国崩壊後の領土分割と「列強の国境」を勝手に定めた悪名高き秘密協定(サイクス・ピコ協定)を アラブ人が否定した事を意味している。 紛争の種は100年前にさかのぼる。クリミアはオスマン帝国の領土だったが、帝国崩壊後ロシ アはクリミアを併合し、多くのクリミア人を中央アジアに強制移動させ、ロシア人が住み着いた。 このロシアの南下政策によって、その後ソ連の崩壊で独立した現在のウクライナは西のウクライ ナ系人種とロシア語を話す東のロシア系人種という人種構成・言語構成になった。実質的に東西 に対立の種を宿すウクライナの悲劇は、つまるところオスマン帝国崩壊後のイギリス・ロシアの領 土政策が遠因といって間違いない。秘密協定(サイクス・ピコ協定)がもたらした悲劇である。 翻って北方領土問題を見るとクリミアと極めて近似していることに驚く。ロシアの不凍港を求めた 南下政策が実効を現わし、北方4島を占拠し既にロシア人が多数住み着き彼等の祖国になって しまった。まるでロシアの領土が既得権化したような有様である。北方4島を祖国にする日本の老 人達が絶えたとき返還問題はいかなる決着を見るかは火を見るよりも明らかである。 北方領土問題を東郷和彦元外務省条約局長は「領土問題」ではなく「歴史問題」ととらえている。 日本民族がソ連から受けた歴史的恥辱を「裏切り・残虐・領土的野心」の3つに分けて主張してい る。「裏切り」とは怒涛のように満州に攻め入った日ソ中立条約違反であり、「残虐」とは満州居留 民を襲ったソ連兵の残虐な行為でありシベリアへの抑留である。「領土的野心」とは1855年の 日露通好条約で相互確認した帰属領土に90年間も何らの異議も呈しなかったにも拘わらず、北 方4島を自国領土として不法占拠したことである。 戦後日ソ間で秘密裏にいくつかの解決案が模索され外交交渉が行われたが、結局日の目を見 ずに現在の硬直状態が続いている。ロシアにはもはや秘密交渉など不要であとは時間稼ぎのよう にも見受けられる。 外交交渉は互いに秘密であるべきだが、法的側面、政治的側面、歴史的側面の3つの視点に たって両国の早急かつ大所高所からの解決が望まれる。 それにしてもソ連の突然の満州侵攻の大義は何だったのか、侵略戦争がすべてで大義なき宣 戦布告だったのは間違いなかろう。私のロシア不信は決して消えることはない。 7月中旬、朝日新聞社主催、岐阜県高山市共催の短歌コンクール「八月の歌」の入選作に、 中高の部で高3の生徒の次の短歌が入選していた。 「憲法の 行間読みなどあるものか 素直に読もうぜ九条の意味」 若い高校生らしい未熟だが直線的で素直な考えに共感を持った。小難しい理屈で法解釈をする 学者・政治家の100の説明よりもこの高校生の純真さに私は軍配を上げたい。 憲法第9条をみんなでもう一度読み直してほしい。そして冒頭に記載した憲法解釈変更と集団的 自衛権の是非に自分なりの立ち位置で意見を持ってほしい。 健全な高校生に万歳! |