ミミズの戯言50、ー内憂外患。ー ![]() 「何が秘密なのか」 「今の秘密保持の法律では何が足りないのか」 「今なぜ稚拙な法 律を急いで成立させる必要があるのか」 こうした疑問を残したままとうとう 「特定秘密保 護法」が本国会で強行採決されて可決成立した。 72年前の1941年(昭和16年)12月8日、突然ラジオでNHK臨時ニュースが流れた。 「臨時ニュースを申し上げます。大本営陸海軍部12月8日午前6時発表、帝国陸海軍は 今8日未明西太平洋においてアメリカ、イギリス軍と戦闘状態に入れり。」の放送だった。 私は当時4歳だったから戦争勃発を告げる突然の大本営発表放送の事は知る由もない が、後日繰り返し聞かされたのでよく覚えている。当時この戦争は大東亜戦争と呼ばれ、 大東亜共栄圏を英米から守る聖戦だと喧伝された。戦争の正当化だった。 あれから72年、当時の言論統制を正当化した悪法、治安維持法や軍事機密法を髣髴 させる「特定秘密保護法」が12月6日国会で強行採決された。マスコミや学者、知識人は 勿論、心ある一般大衆までこぞってこの法案の危険性を指摘して反対行動を起こしたが、 その声は政府自民党には届かなかった。国民の知る権利は守られるのか、秘密指定の 恣意性をどう防ぐのか、一般市民が巻き込まれることは本当にないのか、などの国民の 懸念は総理の懸命の弁明にも拘わらず払拭されずに不安と疑惑だけが根深く残った。 過日の選挙で「決められない政治」からの脱却を掲げた安倍自民党に大多数の国民が 「イェス票」を投じた末の多数党の横暴がこの結果を生んだ。冒頭の戦争開始前後、知る 権利と言論の自由を奪われた国民がどんな仕打ちを受けたか、そしてどんな悲惨な犠牲 者が生まれたかは歴史が教えている。防衛・外交の秘密保持を口実に、再び情報秘匿と 言論封殺の拡大解釈の危険性が極めて高い法律が生まれた。 秘密保護法の最大の特徴は、社会の中に自主規制が拡大し、言論を委縮させる効果を 持つことだ。戦前の軍機保護法においてはたまたま撮った写真に機密施設が映っていた というだけで逮捕され、旅行中の見聞を知人に話しただけで有罪とされた。効果は絶大で、 人々は権力者のまなざしに怯え、口を閉ざした。 永井荷風は 日記「断腸 亭日乗」で戦争当日の浅草は何事もない平穏な日だった。と書 いている。都合の悪い情報は国民に秘匿し虚偽の情報を流すのが戦時中の当然の国策 だった。真実を知ろうとする者は罰せられた。それは戦後政治・外交でも一貫した政策だ った。沖縄返還時の日米の密約や、日中国交回復交渉での尖閣棚上げなどは代表的な 秘匿の例だった。情報の秘匿が正当性され、秘密の入手や漏洩が罰せられる法の網の 目が広がった。 治安維持法など昔のかび臭い時代の再現など非現実的で有り得ないと現代の若者は 思うだろう。国民生活に直接関係がないから関心はないと高をくくってはいないだろうか。 そもそも「知る権利・言論の自由」の制限といっても多分ピンとこない人が多いのではな いだろうか。危険性を指摘する人は神経質に過ぎると思っていないだろうか。 安倍政権は経済政策のアベノミクスが「富国」を、今回の特定秘密保護法や、11月に 成立した国家安全保障会議設置法(日本版NSC)が「強兵」を担い、明治時代の「富国強 兵」を目指しているように見える。とある学者は述べている。 次に見えるのは集団的自衛権の容認であり、武器輸出3原則の見直しだろう。そして 来年成立を目論む国家安全保障基本法の制定によりアメリカとの強固な軍事連携が完 成するだろう。平和憲法の精神は次第に蝕まれていく。 多数派による「決められる政治」への移行が進んだ一方で、「政権を取ったからには自 由にやる」と云わんばかりに、少数意見を受け入れる寛容さが失われた。権力者が忘れ ていけないのは包容力だ。「排除の論理」をかざす者の行く末は暗い。 法律成立直後も自民党一党独裁と強行採決に賛成する国民がまだ50%もいることに 驚く。法案の危険を訴える声が多いが、賛成を述べる国民の声が聞こえないのはいかな る訳か。 そもそもテロやスパイが世界中で暗躍している現在、国家間の最高機密情報の交換と 共有は必須だが、その前提は秘密漏洩の完璧な防止体制が整っていて相手国の信頼 を得ていることにある。今の日本にそれが欠けているならば、法制整備には納得性があ る。一方憲法に保障された知る権利は何人もこれを犯してはならない。この2つを相反す ることなく整合させる知恵が賛成派と反対派の双方に求められる。 国際情勢には、安全保障上の様々な脅威が存在している。その対抗措置に関する物 的、人的、戦略的情報が特定秘密(国家機密)で、政府がその保全を図ろうとするのは 原則として認めるべきだ、というところから議論を進めるべきだろう。 論点は安全保障上の必要性と、国民の知る権利と報道の自由の保障という憲法上の 権利をどう調和させるかである。この点行政府の意思決定をけん制する立法府と司法府 の役割を明確にすべきであろう。 秘密指定の妥当性は、最終的には国民の代表である国会の秘密会で議論し決定すべ きだろう。秘密指定の合憲性は最終的には裁判所が有し、立証責任は政府側にあると 見るべきだろう。 行政や官僚主導の運用の危険性を排除するためにも、こうした三権の関わり方を建 設的に国会で議論して欲しいものだが、今の国会でそれが期待できるであろうか。 秘密保護法は民主主義の危機だとか、戦前に逆戻りだとかいう情緒的な議論主張だ けでは、国民の一部に反発を招くだけで、政府・与党の思うつぼではなかろうか。 時あたかも、論客の猪瀬東京都知事が徳洲会からの5000万円の献金で追及指弾 され、みんなの党が分裂した。世界に目を転ずれば、中国が一方的に防空識別圏を設 定して日本・韓国の防空識別圏と衝突し、中国や北朝鮮では突然政府要人が相次いで 失脚した。 北朝鮮NO2の張成沢国防副委員長の突然の解任は3代目の独裁者金正恩の恐怖 政治の始まりを予感させ、独裁者の底なしの孤独と疑心暗鬼が民衆を苦しめる。 シリアの内戦は泥沼の様相を示し、タイの政情不安も例年のこととはいえ見逃せない、 一方、アパルトヘイト(人種差別)の撤廃を成し遂げた不屈の英雄・故マンデラ元南ア フリカ大統領の訃報が全世界中を駆け巡った。 「家の内も外も嵐だ。」 ・・・・ 島崎藤村 「嵐」より。 ー 「内憂外患。」 なにかと忙しい年の瀬である。ー |