ミミズの戯言115、愚者の楽園。
  21,03,02

   「東北新社」。最近にわかにマスコミを賑わしているこの会社は、総務部長である
  菅総理の長男正剛氏が、総務省の高級官僚や内閣広報官を接待したとして脚光を浴びた。

   総務省官僚と同氏との会食が、利害関係者との会食を禁じた「国家公務員倫理法」に
  抵触することが明白になった。何故双方が緊密な関係を続けてきたのか、菅総理の影が
  見えてきた。

   同社は3年前にCS放送業務を総務省から認可され、同社の傘下にある「囲碁将棋チャ
  ンネル」は多くの囲碁ファンに歓迎されて飛躍的に業績を伸ばした。

   東北新社の創業者とその子息は秋田の出身で、2012年から同郷の秋田出身の菅義
  偉氏に500万円以上の個人献金をしており、加えて同社に菅総理の子息が入社してい
  ることから、同社と菅総理親子とは密接な親しい関係があったと推測される。

   これでは総務省の官僚たちは菅総理のご子息からの接待攻勢を断れなかったであろ
  うことは容易に想像できる。同社と総務省高級官僚との頻繁な会食は、「囲碁将棋チャ
  ンネル」が他チャンネルよりも優先的にCS放送の認可を受けたことと無関係ではあるま
  い、とのきな臭さを強く感じさせられる。

   違法な会食は総務省だけではない。農水省の省幹部と秋田県の鶏卵生産大手の「秋
  田フーズ」トップの会食が、国家公務員倫理規程違反にあたるとして、事務次官ら省幹
  部6人が処分の対象になっている。おそらく総務省や農水省だけではなくまだまだ隠れ
  た違法な会食があるのだろう。

   かっては大手銀行のMOF担と旧大蔵省幹部の、度が過ぎる接待漬けの癒着が明る
  みに出て、「ノーパンしゃぶしゃぶ事件」として世間の糾弾を浴びた。
  政・官・業の癒着が明るみに出た1990年代、これを防止する目的で「国家公務員倫理
  法」が制定されたが、未だに癒着の構造は根絶されていない。

   「越後屋、おぬしも悪よの~」で有名な悪代官と悪徳商人の癒着の構造は江戸時代
  から連綿として現代まで続いている。

   いかに「国家公務員倫理法」が制定されても、「守らない、守れない」のでは法制定
  の意味はない。

   つまり「仏作って魂入れず」で、政治家や官僚が遵法精神に欠けるならば、ざる法に
  過ぎなくなる。現代の政治家や官僚には、しばしば国民に奉仕する理念と倫理観に欠
  ける人物が登場する。法の制定に当たっても抜け穴を用意しているし、違反しても隠
  ぺいや法を潜り抜ける事にたけている。ばれたらおなじみの光景で陳謝すればいい。

   官僚主導から官邸主導に代わってから、各省庁の官僚に忖度をはびこらせ、特に
  上役の顔色をうかがう口舌の徒が多くなったのではないだろうか。
  怖くて官邸にものを言えない政治が進み、行政がゆがんでいるのではないだろうか。

   有能な若者の間ではそれに幻滅を感じて公務員志望が減少している傾向にあるら
  しいが、それもうなずける。

   かって沖縄返還交渉で佐藤栄作首相の密使としてキッシンジャーと返還の密約を
  交わし、「核抜き本土並み返還」にらつ腕を振るった国際政治学者の若泉敬氏が、
  国政を預かる日本の政治家と官僚を「愚者の楽園」と酷評して、国を思う志の低さ
  を痛烈に批判した。

   国家観に欠け、選挙と忖度にうつつを抜かし、癒着と隠ぺいがはびこる政治と行政
  の世界は、若杉敬氏が「愚者の楽園」と慨嘆した50年前と少しも変わっていない。
  否、越後屋の時代から変わっていないのかもしれない。

   話変わって、私は永年CS放送スカパー「囲碁将棋チャンネル」と、You Tubeの
  「日本棋院囲碁チャンネル」、それに日曜日放送のNHK杯を見て、囲碁のプロ棋士
  のリアルな対戦を楽しみにしている。

   名人戦,棋聖戦、本因坊戦、NHK杯などでの当代一流の棋士の息詰まる熱戦を見
  ていると時間のたつのを忘れるほど熱中する。私の生きる栄養源のようなもので、
  これらのチャンネル無しの余生は考えられない。

   その「囲碁将棋チャンネル」が「愚者の楽園」の癒着の産物だと知ると実に慚愧
  の念に堪えないが、それでも好きな囲碁の番組なので、複雑な思いで番組を視聴
  している。こんな事情など知らなければよかったとつくづく思う。