ミミズの戯言112、 米大統領選。 ![]() 新聞やテレビのホットな話題は相変わらず新型コロナだが、最近の最も旬な話題は、 日本学術会議委員の任命拒否問題と米国の大統領選の話題だろう。 とりわけ米国の大統領選は連日テレビ視聴者を釘付けにしたトップニュースだった。 トランプ候補とバイデン候補という対照的な性格の2人の人物像、州の選挙人を総ど りする選挙方法で繰り広げられたデッドヒート、共和党と民主党の伝統的な戦いの構 図、バイデン候補がトランプ候補を追い上げ追い抜くというドラマチックな一喜一憂の 選挙戦は陳腐なドラマよりもはるかに面白い。 今回はコロナ禍を避けるために初の郵便投票を取り入れたので、トランプ候補優勢 を覆すバイデン候補の逆転が各州で続き、トランプ候補は郵便投票の無効を司法に 提訴する構えで、終盤に至ってもドラマチックな展開を見せている。 (この原稿を書いている今朝、アメリカの各放送局は一斉にバイデン候補の当確を 報じた。どうやら決着がついた模様である。当選が確定すれば、選挙人による正式 投票を経て、バイデン氏は来年1月20日、第46代米大統領に就任する。 ) 海の向こうの国のことではあるが、日本にも大きな影響のある大統領選である。 バイデン候補が大統領になるとどんな政策の変化が起きるのか私はよくわかってい ないが、少なくともトランプ大統領がオバマ前大統領の政策をすべてぶち壊したその 政策が息を吹き返し、新たな変化が起きるだろう。 新大統領はおそらく国際協調路線を取るとみられ、トランプ氏が離脱を進めてきた 地球温暖化対策のパリ協定やイラン核合意、世界保健機構(WHO)への復帰が図 られるだろう。TPP(環太平洋経済連携協定)再加盟も話題になろう。 バイデン大統領で心配なのは対中国の弱腰外交かもしれない。中国の横暴に対 抗する強硬な対中国政策をとるトランプ流外交は中国にとっては強敵だったが、バ イデン氏の穏健な中国政策では中国の野望と跋扈を許す懸念があり、東アジアの 安定の為にはバイデン新大統領では心もとない気がする。 強硬派のトランプ氏か去り穏健派のバイデン氏かどんな政策を掲げるか中国も じっと様子を窺がっているに違いない。日米貿易摩擦や日米韓の防衛ライン、ロシ ア、中国、韓国との領土問題にも少なからず影響があるだろう。 それにしてもアメリカ人の国民性だろうがあの熱気には驚く。熱狂する両派が繰 り広げた末に起きた世論の分断が果たして収束するのか、深い傷を残して分断が 深化し過激化するのかが懸念される。 180年前、リンカーンが新大統領になった時、奴隷制などを巡り、新大統領に反 発した南部の州は合衆国から離脱し、その対立がやがて南北戦争へと至った。 あの悲劇が繰り返されのか、アメリカの民主主義が問われることになる。 トランプ大統領もひとかどの人物なら開票結果が出た暁には、敗北を認める 「潔さ」があるだろうに。それが民主主義というものだ。昨日はゴルフに興じたよう だがもってのほかである。 今回の選挙はトランプ氏の1期目の4年間を問う信任投票の性格が強く、特に 新型コロナへの対応、人種差別への対応が争点だった。バイデン候補は「分断」 をもたらしたトランプ政治の終焉と米社会の融和を訴えていたが、必ずしもケネ ディ氏やオバマ氏のような歴代民主党候補の際立った明確なスローガンは見え なかった。 私流に解釈すれば今回の大統領選は、両者の政策論争というよりも、両候補 の人間力の選択という色彩が強かったとみる。 トランプ氏はアメリカファーストというよりもトランプファースト、行動力はあるが 野蛮で品性に欠け、常にディール(取引)を重視し、気に入った人は偏重し嫌い な人は敵とみなして徹底的に排除する人物だった。つまり下品な実業家だった。 、国際協調などには知識も興味もなく、常に自国の利益のみを主張する、いわ ゆる強硬な排他主義者で、強烈な個性と行動力がアメリカを救うと信じているトラ ンプ氏とその一派を、今後4年間再び大統領として信任するのか、つまりトランプ か反トランプかの選択の選挙だったと思うのである。 その結果は米国民はトランプ政権に「NO」の判定を下した。 私は今回の選挙結果はアメリカの良識がアメリカを救ったとみている。しかしバ イデン氏が当選したとはいえ、分断の後遺症は残った。 「分断」は米国社会の貧富・人種・宗教・教育などの構造に深く根を張り、大統 領の決意だけでどうなるものではない。しかし、分断が増幅した4年間のあと、 その克服を国家の目標にする意味は大きい。「分断」から「結束」へ、新政権の 重い課題は残っている。 なにより私が驚くのは投票率の高さだ。今回の米大統領選は約1億6千万人が 投票し、投票率が66%超と120年ぶりの高水準になったとみられている。なんと 3人に2人が投票所に足を運ぶか郵便投票をしたことになる。 2者択一という判り易い選択とはいえ、貧困層や低学歴者も、自らの意思で選 挙権を行使した。 翻って我が国を見ると、国政選挙の投票率は、平成29年10月に行われた第48 回衆議院議員総選挙では、53.68%、令和元年7月に行われた第25回参議院議 員通常選挙では48.80%だった。 米国よりも13~18%も低い投票率で、身近な地方選でも、小池知事が再選され た令和2年の都知事選が55%、今年の大阪都構想の是非を問う投票率ですら 62.35%と米国の投票率には及ばない。 日本は米国よりも平均的に高学歴者が多いが、投票所には足を運ばないいわ ゆる 高学歴で意識の高いサイレントマジョリティーが多く存在する。棄権をする 有権者が多い。アメリカの貧困層を含めた国民の関心の高さに驚く。 私は若い時からの信条として、「法を犯さない(遵法)」、「税金を正しく収める (納税義務)」、「選挙で棄権をしない(投票権の行使)」の3つを、ささやかだが 国民の最低の義務として守ってきた。選挙についていえば、共産党にも自民党 にも投票したことがある浮動層の一人だったが、判らなくてもとにかく投票所に は足を運んだ。 満83歳になって振り返ると、それが小さな私の勲章である。 明11月9日(月)入院、10日胆嚢全摘手術。入院期間は医者の言では2週間前後 となります。その間しばらくは休刊します。ご容赦ください。 |