ミミズの戯言108、電子書籍。  20,04,20

   毎日が暇なので、本を読む時間が増えている。机の上には読みかけの書籍が数冊
  積み重ねられている。

   先日読み終えた大佛次郎の「天皇の世紀」数冊、ドナルド・キーンの「明治天皇」、
  小松左京の「復活の日」、司馬遼太郎の「峠」、波多野澄雄の「日中戦争」、それに最
  近の新著、和田春樹の「韓国併合110年後の真実」、他に囲碁の本数冊である。それ
  ぞれの書物は和田春樹を除いて以前読んだ本ばかりである。昔のような乱読ではな
  いが、読み返している本が多い。

   「天皇の世紀」が病気休載となる最後のくだりは長岡藩家老河合継之助が北越戦争
  で重傷を負う場面だが、この河合継之助の生涯を書いた司馬遼太郎の「峠」の最終章
  は奇しくも「天皇の世紀」と同様に継之助の最後の場面、下僕松蔵が重傷を負った継
  之助の命により庭先で薪を燃やす場面で終わっている。

   そんなわけで今、司馬遼太郎の「峠」を40数年ぶりに読み返している。
  昭和45年刊行の新潮社版(上下)で表紙も各ページもセピア色にくすんでいる。本の
  表紙や裏面、ページをめくると至る所に赤や黄色の色鉛筆の落書きが書いてあった。
  これはたしか長男が3歳ごろの落書きだったと記憶している。懐かしかった。
  上巻を読み終え、今、下巻の北越戦争直前のくだりを読んでいる。徳川慶喜に対する
  大佛と司馬の評価がまるで違うのが興味を引く。

   これと並行して読んでいるのが、和田春樹の「韓国併合110年後の真実」 と小松左
  京の「復活の日」。「復活の日」は昭和45年の早川書房の新刊本で、読み終えてから
  数十年たっているのでやはりセピア色の古本になっている。内容はかなり忘れている
  が、人類がインフルエンザと戦う内容は、現在のコロナとの戦いに酷似している。

   これと関連する本が欲しくて、ネットのアマゾンで、カミュの「ペスト」と高島哲夫の
  「首都感染」の2冊を注文した。

   「復活の日」も「ペスト」も「首都感染」も、どの作品も「ウィルス」を克服する人類の
  戦いを描いていて、現在の新型コロナ菌との戦いを彷彿させる作品である。特にカ
  ミュの「ペスト」はペスト菌を克服した苦闘を描いた古典的名著である。

   ところで読者諸氏は「Kindle本」という本をご存じだろうか。

   上記の2冊をいつも購入する文庫本のつもりで注文したが、本の種類を軽視して
  無造作にKindle版(新潮文庫)とKindle版(角川文庫)の文庫本をクリックしてしまっ
  た。注文は受け付けられ、代金引き落としの手続きが取られたが、本がいつ配達さ
  れるのか、配達料はいくらなのかなど、いつものような知らせが届いてこない。

   不思議に思ってネットで検索して調べたら「Kindle本」とはアマゾンが発行している
  「電子書籍」の一種のことだと知って驚いた。これでは配達されるはずがない。恥ず
  かしいことだが、「Kindle 」とはペーパーレスの電子本だとは全く知らなかった。

   私は今まで「Kindle本」(電子書籍)を買ったことも読んだこともない。スマホやPCで
  読めるらしいが、今更電子本を読む気にもなれない。だいいち手続きが判らない。

   慌ててキャンセルの手続きをしようとしたが、今までの購入キャンセルの方法と違
  ってキャンセルの方法がわからない。娘と孫の協力を得て、PC,スマホ、iPadを駆使
  して悪戦苦闘の末ようやくアマゾンのカスタマーセンターの担当者にたどり着いた。
  電話連絡で購入キャンセルを依頼し無事にキャンセルと返金の手続きが完了した。

   その担当者にPCでの注文のキャンセルの方法を聞いたら、通常の本のキャンセ
  ルと違って「Kindle本」のキャンセルは手続きが煩雑なので、今回のようにカスタマ
  ーセンターに電話して手続きをした方が早いと教えられた。うっかり安いからといっ
  て「Kindle本」の購入をクリックするものではないと、もう懲り懲りの教訓だった。

   改めて「Kindle本」(電子書籍)の利用方法を調べてみたが、利用方法さえ習得で
  きれば、料金は格安だし、読みたい本はアマゾンの「Kindle本」で図書館並みに数
  万冊もあるらしいし、古い本でも旬の本でも検索すれば簡単に手に入るようだ。

   これでは図書館や本屋に行かなくても自宅ですぐに購入できるので、漫画本など
  を欲しがる若者には人気のアプリだ。利用するには電子書籍リーダー(約1万円)を
  購入する必要があるらしいが、月々のレンタル料も掛からないし、特に電車などの
  移動中にも手軽に読めるのが人気のようだ。

   私は案外好奇心が強いので若干興味をひかれたが、電車に乗る機会もほとんど
  なく一日中在宅しているので特に必要性は感じない。むしろ習得するまでの紆余
  曲折を思うと尻込みする。やはり老人は読み慣れた紙の本がよいと思い、自分に
  は適さないとあきらめた。

   しかし読書の世界にも新しいペーパーレスの世界が厳然として存在し、伸び続け
  ていることを実感した。時代の変化は激しい。もう本を買う時代から情報を買う時代
  に変化したことを意味する。

   無知なるが故の失敗が新たな知識をもたらした今回のハプニングだった。
  時々電車の中で中年紳士が電子書籍をiPadで読んでいるのを見かける事がある
  が、その時にはきっと今回の事件を思い出すだろう。

   本稿の読者にはあるいは電子書籍などとっくにマスターしている人がいるかもし
  れない。その人たちには羨望を込めて敬意を表したい。