ミミズの戯言3。−明鏡止水ー ![]() 葉山町の役場はおよそ町の役所とは思えないモダンな建物で、なんでも豪華客船クイーン エリザベス号を模して建てられたらしい。役場前の広場には満々と水をたたえた大理石風の 貯水槽があり、正面に「明鏡止水」の文字が彫りこまれている。 いまでこそ明鏡止水の4文字熟語はポピュラーになったが、もともとは荘子の言葉で、今脚 光を浴びている鳩山民主党代表の祖父、鳩山一郎が戦前の斉藤内閣の文相時代に、収賄 容疑事件連座の疑惑を受けて大臣を辞した時に、「明鏡止水の心境」と辞任の心情を吐露し たので、一躍流行語になったといわれる。 曇りのない鏡と静かな水、何のわだかまりもなく澄み切った静かな心の状態をいう言葉だが、 私も7年前に一度だけ明鏡止水の心境になった経験がある。一切の後事を後輩に託して、 きれいさっぱりと企業の第一線から立ち去った時に味わったすがすがしい心境を今でも思い 出す。 鳩山一郎は「友愛」という言葉も好んで使ったと記憶している。吉田茂との政争、首相就任 直前の公職追放、脳梗塞、寝業師三木武吉らとの自由党脱退と分派自由党結成、保守合同 と自由党総裁、首相就任、吉田の対米一辺倒に抗したロシアとの国交回復、など激動の政局 を華麗に渡り歩いた政治遍歴をもつ鳩山が、自らを支えた政治信条が「友愛」だったのだろう。 孫の鳩山由紀夫が死語となった「友愛」を復活させたのは過去を知るものには微笑ましい。 吉田茂の孫・麻生太郎と鳩山一郎の孫・鳩山由紀夫。戦中戦後の因縁の政治家が3代目に なって再びあいまみえるとは、これ以上の劇場型の政治舞台はなかろうというもの。 政策論争は勿論だが、政局の帰趨に否が応でも関心が集まる。政権交代をめぐる戦いは 祖父の時代からの因縁である。 そして2大政党時代を経て保守大合同まで、祖父たちの残した足跡を追って歴史を繰り返 すのだろうか、野次馬の私には興味が尽きない。当面この世界的難局にどのように対処する のか、判官びいきからいえば、たとえ心もとなくとも一度は野党連合と鳩山4世にやらせてみ たら如何かと思うのだが・・。変化とか改革というのは、まずやって見なければ判らない事なの だから・・・。 鳩山由紀夫を評して「なまこ」のようだという評論がある。掴まえ所がないということらしい。 一方、「猛獣使い」とも言われはじめているようだ。いわずと知れた猛獣は「小沢一郎」だ。 古来、鳩が猛獣を御したという話は聞いたことがないしイソップ物語にも出てこないので、これ からの猛獣使いぶりが見ものだ。 岩手県人待望の小沢一郎が6人目の首相目前で失脚したのは止むを得ない事とはいえ、 世間の目は突如冷たくなるものだ。一時は太郎を凌駕する人気を得た「小沢的なもの」のす べてが悪であったとして、マスコミの好餌にされたのでは、さすがの猛獣もまた猛獣使いも たまったものではなかろう。清濁併せ呑む政治家はやはり過去の政治家で、清い水だけ飲 んで生き残るのが現代の政治家なのだろうか。”水清くして魚住まず”はもう死語なのだろう。 鳩山由紀夫が「なまこ」なら麻生太郎は何に喩えられるだろう。政治家を評する時に思い出 すのが日経新聞連載の中曽根康弘著「私の履歴書」である。 富蘇峰が青年将校中曽根に語った政治家評論が実に面白い。 ・緒方竹虎;悪いところがないのが悪いという男。引っ張る力はないが押せば進む。この点 中野正剛よりあてになる。金にもきれいで人物は緒方竹虎と松村謙三だろう。大きな太鼓の ようで、大きく叩けば大きく鳴り小さく叩けば小さく鳴る。 ・重光葵;長い間ロンドンにいたので霧がかかっていて晴れだか曇りだか分からない。外交 文書を書かせておくには最適任。官僚で気が小さいからあまりいじめなさんな。 ・吉田茂;黒白をはっきりさせる男だが、近頃は灰色になって存在感を失った。もう年だね。 ・鳩山一郎;父の時代からの自由主義者。温室のお坊ちゃんで、吉田のお坊ちゃんの方が 面の皮が厚い。根が善人で人にだまされる。 ・三木武吉;大野伴睦が弁護士になったような男。一世の勝負師だ。性は善。大麻唯男と同 じで敵を崩したり足がらみをやったりすることに没頭する。君はそんなことをせずに専門家に 任せなさい。 ・大麻唯男;手を叩けば最初にお茶を持ってくる。うなぎのようにどこかへもぐりこんで、ひょ っと頭の上の石垣の穴から顔を出す。喧嘩を止めたり、人のやりくりに適任。カネに近いが カネにきれいで蓄えない。苦手な相手の懐に飛び込んでくるから、中曽根さんあたりも狙わ れるよ。 人物の表裏を知り尽くした評論とはかくあるものか。蘇峰面目躍如の人物評論である。 現代の政治家たちを蘇峰先生ならどのように評論するのだろう。また大宅壮一ならどう評論 するのだろう。現代の徳富蘇峰、大宅壮一の評論を聞きたいところ。 魚釣りを趣味とする私が大胆不敵に丸腰で迫るとすれば、 ・鳩山由紀夫=駄洒落ナマコ;ふにゃふにゃして優柔不断。聞くところによれば最近強面に 脱皮したらしい。 ・小沢一郎=虎フグ;味は絶品だが猛毒があって気をつけないと命取りになる。プッとふくら んだ顔が面白い。 ・岡田克也=頑固ハナダイ;小骨が硬くて油断するとのど仏に刺さる。姿も味も負けないの に何故か真鯛には勝てない。ほかの魚の群れから離れてなかなかえさに食いつかないとこ ろは用心深いのかそれとも頑固一徹なのか。 ・菅直人=鬼カサゴ;見てくれは華やかだが、体中トゲがあって油断がならない。味は一級 品で値も張るがなぜか人気はいまいち。この鬼カサゴのトゲに刺されて痺れた被害者の数 は多い。 ・麻生太郎=失言メバル;目玉をきょろきょろさせて愛嬌がある。さながら海のやんちゃ坊主。 鯛のようには用心深くない。こませを撒くとすぐにえさに食いつき失言してはついには身を滅 ぼす。食いついたら離さないしたたかさを持っている。 観察力・表現力の乏しい私の寸評はさだめしこんなもの。一流の辛口評論を聞きたいところ だ。現代の政治家連中も、昭和の一時代を築いた豪傑政治家の器には及ばないが、結構 話題も多く、切り口次第で面白い素材の山ということになろう。 |