葉山町・まちづくり展。   11,07,10

   7月8日から3日間、福祉会館で「まちづくり展」が開かれた。葉山町に登録しているボラン
  ティア団体は30数団体あり、この1年間の活動を町民にPRし、より積極的に活動を推進し
  ようとする目的で開かれている。町民の関心度も高く、地球環境戦略研究といういかめしい
  団体や、三浦半島活断層の研究、葉山のメダカやホタルなどの生物観察、里山愛好会、自
  然保護研究、山歩き同好会、長柄・桜山古墳を守る会、オーシャンファミリー愛好会、郷土
  史と古文書研究、はては詩吟の会やコーラスの会など、地域に根ざした多様なボランティア
  活動が多いので沢山の町民が興味を持って集まってくる。
   私の所属する文化財研究会の今年の出し物はなんと、古色蒼然というか最も地味な「石
  塔」の写真展示と、会の活動写真の展示に決まった。「石塔」とは、言ってみればお寺にあ
  る供養塔の類である。こんな地味な展示に客が集まるかどうか心配だったが、会長の指示
  なので否も応もない。ほやほやの新幹事の私は鎌倉・逗子・葉山のあちこちのお寺に行っ
  て「石塔」の写真を撮り、文献を調べて「石塔」の解説文を作り、幹事連と展示会場の指定
  されたコーナーに大童で展示の準備をした。
   何事につけ体と頭を使って動き回ることはまことに健康的である。日頃のんびりしてばか
  りなので、多少緊張してイベント対応に当たるのは久し振りの事で、とうに失せた筈の本能
  が呼び覚まされたような張り切った数日間だった。たとえ抹香くさい調査であってでもである。
   見物客が自由に持ち帰れるように私が作って席上に重ね置いた「石塔」の拙い解説文を
  紹介しておく。展示した石塔の写真は14枚。「五輪塔」と「宝篋印塔(ほうきょういんとう)」と
  「無縫塔(むほうとう)」の3種類である。

  


        石塔 ―極楽浄土への祈りのかたち―       11,07,08

  1、  はじめに
    石塔とは石で造られた卒塔婆のことで、中世人の信仰のあり方をよく示している。
  石塔を造る造塔という行為は、造寺・造仏・写経とともに、極楽往生をとげるため
  に有効な供養と考えられていた。武力によって政権を握った東国の武士達は、死に
  直面する機会が多かった。彼らの死や死後の世界に対する畏れや祈りを形にしたも
  のが石塔といえる。

    欧州の古い都市の建物や舗道を見ると「西洋は石の文化、日本は木の文化」と実
  感することが多いが、古来、日本には信仰にまつわる多くの種類の石仏や石塔が造
  られており、死後の極楽往生を願う貴族や武士や庶民の間に石の文化が根強く息づ
  いていたことを発見できる。

 2、    石塔の種類
   (1)     層塔(そうとう)
    木造建築の五重塔は寺院の伽藍建築のひとつとしてよく知られているが、この五
  重塔の形を石塔にしたものを層塔と呼んでいる。仏教伝来とともにわが国に伝えら
  れ、このため石塔の中でも起源が古く、奈良時代からの遺品が残っている。

   (2)     宝塔(ほうとう)
    層塔と同じように木造建築の塔形を石造りで造立したものである。宝塔は全国的
  に見て平安時代から現れている。構造的には一重の塔で、基礎・塔身・笠・相輪
  から成り、関東形式では最下部に反花座(かえりばなざ)がかならず入っている。
  中世後期には日蓮宗寺院で多く造立されている。


   (3)宝篋印塔(ほうきょういんとう)
    中国の呉越王が舎利塔の塔内に「宝篋印陀羅尼経」をおさめた故事にならって宝
  篋印塔という。日本では鎌倉時代からこの石塔が造られるようになった。構造的に
  は、基礎・塔身・笠・相輪の四つの部分から成り、関東形式では宝塔と同様に反花
  座(かえりばなざ)が必ず備わっている。笠は四隅に隅飾突起が立つ独特の形をし
  ており、塔身には梵字を刻むことがある。また相輪は下から伏鉢(ふくはち)・請
  花(うけばな)・九輪(くりん)・請花、最上位に宝珠、の五つで構成されている。

 (4)五輪塔(ごりんとう)
  五輪塔は仏教とくに密教の宇宙観を図形化したもので、仏教の先進国のインド、中
  国にもこの塔形は確認されていないので日本独特の塔形といえる。平安時代に造り
  出された塔婆の形である。仏教によれば地・水・火・風・空の五つが宇宙を構成す
  る五大要素なので、これを図形で表し、四角形の地輪・円形の水輪・三角形の火輪
  ・半月形の風輪・宝珠形の空輪の五輪によって構成される。石塔の場合、風輪と空
  輪を一石で造るため、空風輪と呼び、従って四つの部分で構成される。この塔形は
  現在墓石の後にたてる板塔婆の祖形になっている。


 (5)板碑(いたび)
   これまで紹介した四種類の塔は、四方どの方向から見ても同じ形をしているのに対
  し、板碑は正面の一方向から拝むように造られている。他の石塔は複数の部分を積
  み重ねたのに対し、板碑は一枚の板石で造られているので、崩壊したり欠失するこ
  となく当初の姿を保っていることが多い。塔身の正面には梵字が刻まれている。

 (6)無縫塔(むほうとう)
   他の石塔類が卒塔婆として造立されたのに対し、無縫塔は初めから墓塔として造ら
  れたものである。鎌倉時代、禅宗とともに禅僧の墓塔の塔形として伝わり、はじめ
  は禅宗の開山塔として用いられた。基礎・笠・中台・請花・塔身の各部分から成り、
  塔身が最上部に置かれるのが特色である。塔身が卵形をしているところから卵塔と
  も呼ばれる。

    参考文献    ―かまくらの石塔 1999年―
                    神奈川県立歴史博物館資料 


    ※なお、会場には6種類すべての石塔の「ポンチ絵」と14枚の実物写真を掲示した。

  宝篋印塔の一例。

  鎌倉光明寺にある北条経時の墓。
  (鎌倉時代)

  笠の四隅にある隅飾突起(すみ
 かざり)がやや斜め上側に開い
 ている。

 宝篋印塔の特徴は時代が古いほ
 ど
隅飾突起が垂直に立っていて、
 この墓は鎌倉時代の特徴をよく
 あらわしている。

 時代が新しいほど隅飾突起は開
 いていて江戸時代になるとほと
 んど平に開いている。