鏝絵(ko-te-e) ![]() 鏝(こて)という文字を知っている人はそう多くはあるまい。かく言う私も恥ずかしながら始めてお目に かかる文字である。左官屋さんが使う壁塗りに使うコテのことを漢字で鏝(こて)と書く。その昔、腕に 覚えの左官屋さんが、漆喰の壁にこの鏝で漆喰を何度も塗り重ねて盛り上げ、動物や人物をあたか も立体彫刻のように浮き彫りにしたのが鏝絵である。名人気質の左官屋は何年もかけて寺社の白壁 に彫刻のような鏝絵を描き、署名をしてわが名を後世に伝えた。鏝絵は左官屋の名人芸であり、手の 込んだレリーフである。また寺社にとっての名誉ある装飾であり、また庶民の大衆芸術でもあった。今 から200年ほど前の江戸時代に盛んになった鏝絵は、伊豆・松崎の天才左官、通称「伊豆の長八」に よって考案・確立されたといわれ、その技術が弟子達によって全国に広まったといわれている。描か れた場所も室内や神社仏閣といった風雨に曝されにくい場所が選ばれていることが多いようだ。今で は大分県付近と神奈川県の浦賀付近が現存する数少ない場所らしい。 やや小雨の週末、葉山町の文化財研究会のイベントで横須賀・浦賀の8ヶ所の神社仏閣を訪れ、 初めて鏝絵を見ることができた。浦賀の鏝絵は外壁に施されたものが大部分で、外来者や通行人か らもよく見える場所で現在も生き続けていた。残念だがカメラを忘れてしまい、その見事な鏝絵を紹介 できないが、関心ある方のために8ヶ所の寺社を紹介しておく。 それにしても、鏝絵という文字といい鏝絵の実物といい、世の中私の知らないことが実に多い。 @西叶神社。・・石川善吉作、「瓶割り小僧」。 A東福寺。・・岩田辰之助作、「鶴・竜・虎・飛天」。 B常福寺。・・石川善吉作、「虎・竜・獅子」。 C大六天榊神社。・・石川善吉作、「昇り竜・降り竜」。 D川間町内会館。・・石川梅尾作、「鳳凰」「松竹梅と鶴亀」。 E法幢寺。・・岩田辰之助作、「魔除け の神獣・唐獅子」。 F東耀稲荷。・・剥離して現存しない。再現できる職人はいない。 G八雲神社。 ・・石川善吉作、「向背の竜」。 |