芸術の秋。 
         19,10,02

   今月から消費税が10%に増税された。マスコミがあれこれ解説してくれるが、
  何がお得なのか老人にはさっぱりわからない。来年のオリンピックに備えて、政府
  はキャッシュレスを後押ししていて、どうやら「○○ペイ」などいう怪しげな媒体を通
  じてスマホ決済するのがお得らしいが、急激な変化にはなかなかついていけない。

   増税前に買いだめしたり、有利なポイント還元を選択したり、賢い庶民はいち早く
  対応しているようだが、どうやら私などはバスに乗り遅れた老人で置き去りにされ
  ているような気持ちになる。

   大分前からネットバンキングや、ネットでの株式売買、書籍や物品の購入もやっ
  ているし、プリペイドカードもいくつか持っていて、キャッシュレス決済はそれなりに
  一応やってはいるが、まだコンビニでの買い物に利用したことはない。店頭でスマ
  ホとiPadを駆使して、ポイント還元額に一喜一憂するのはまだまだ先の話だろう。

   2%up などついつい「はした金」だと思ってしまうが、政府の方針に迎合している
  ようで忌々しい限りではある。

   増税騒ぎもしばらくすれば何事もなかったように鎮静化するはずだ。日本人ほど
  過去に淡白な国民はいない。ある種”ノー天気”な人種なのである。韓国人のしつ
  こさは日本人にはない。鬼畜米英を叫んであれほど痛めつけられても、すぐにアメ
  リカ一辺倒に衣替えするお人よしの国民性なのである。

   3%の消費税を導入した88年の竹下内閣、5%に増税した97年の橋本内閣はい
  ずれも直後の選挙で惨敗したが、国民はすぐに増税慣れしてしまい、その後14年
  に8%、さらに今回10%に増税しても安倍内閣は一定の支持率を保っている。

   芸術の秋と銘打ってあちこちでイベントが開催されている。我々夫婦も芸術の香
  り豊かな美術展や音楽会に出かけたいとは思うが、なかなか機会がない。そこで
  手っ取り早く上大岡の映画館に出かけ、今話題の映画、三谷幸喜監督の「記憶に
  ございません」を見てきた。
 
   翌々日には横浜野毛の「賑わい座」で若手芸人の落語、奇術、声帯模写の大衆
  芸を見てきた。「賑わい座」は「笑点」でおなじみの横浜出身の桂歌丸が長らく座長
  を務め、若手芸人の登竜門といわれてきた劇場である。

  この二つの見物が今の私の身の丈に合った「薫り高き秋の芸術鑑賞」なのです。

   前評判通り、映画「記憶にございません」はとても面白かった。百戦錬磨の豪華
  な俳優たちのコミカルな演技はもちろんだが、三谷監督の演出の見事さには時間
  のたつのを忘れるほどだった。

   175分の上映中175回笑わせると豪語した監督の思惑通り、家内などは終始笑
  いっ放しだった。一国の総理がある日演説中に投石されて額に傷を負い、記憶喪
  失になるところから始まる一種の政治劇だが、政治の難しさなどはみじんも感じさ
  せない風刺劇にもなっている。

   消費税を増税して国民の反感を買い、第2国会議事堂を作ろうと画策して悪徳
  建設業者から賄賂をもらい、家庭を顧みずに女性の野党党首に手を出し、史上
  最低の支持率のまれにみる悪徳総理が、予算員会で野党党首から、「賄賂をも
  らったのか?」と追及されると、「記憶にねーんだよ!記憶にございません!」と
  不貞腐れて啖呵を切るシーンでは、観客がどっと沸いた。

  中井貴一の名演技と鬼才三谷幸喜監督の演出の息の合った名シーンだった。

  脇役陣の個性あふれる演技が光った作品でもあった。

     

   最近はシリアスな映画よりも、この映画のような肩の凝らないコミカルな映画の
  方が好みになっている。難しい話や面倒くさい話にはついていけない老人になった
  せいだろう。

   「賑わい座」でも肩の凝らない落語の笑いの世界にどっぷりと浸ってきた。久し
  振りに若手落語家の「目黒のサンマ」を聞いた。

   帰りに野毛の馴染みの焼き鳥屋に30分ほど立ち寄ってきた。アルコ ールを控
  えているので、焼き鳥オンリーという短いつかの間の憩いの時間だった。