真夏の映画鑑賞。  13,08,30

   毎年、終戦記念日の前後になると戦争や平和を題材にした映画が上映される。
  今年も話題の映画が続々登場したので7月と8月に2本見に行ってきた。7月には
  「終戦のエンペラー」、8月には「少年H」を見た。天皇に戦争責任はないのか?と
  いう重いテーマは戦後随分議論されてきたが、このテーマを正面から問い直した
  日米合作映画が「終戦のエンペラー」である。

   開戦に果たした天皇の責任は遂に究明できなかったが、終戦決定時の天皇の
  意志と聖断が戦争終結と平和に決定的な役割を果たした過程を丹念に誠実に
  描写している。そして天皇の戦争責任を問わないこと、天皇制保持が日本の復
  興と日本人の精神的支えになるとの極めて常識的な結論を下している。戦勝国、
  敗戦国のいづれの側にも偏しない合作映画で好感が持てた。

   「少年H」は妹尾河童のベストセラーの映画化である。私より7歳年上の作者の
  神戸における少年時代の戦争体験を描いているが、年齢の差や都会と地方の
  差があるとはいえ私も戦中戦後の劇的な体験をしているので次々と当時の事を
  思い出し感傷にふけった。

   今の時代の人達には想像もつかない出来事が続いた。思想弾圧、一億一心
  のプロパガンダ、憲兵、奉安殿、警戒・空襲警報と灯火管制、防空頭巾と防空
  壕への避難、花火のような焼夷弾の雨、敗戦と玉音放送、極東裁判、戦後の
  闇市、食糧難、衣類等の配給切符、黒く墨を塗らされた教科書、突然の教師の
  変身と民主教育、復員兵、平和条約、新憲法、並木路子の「赤いリンゴ」、川上
  の「赤バット」、などなど、正に走馬燈のように次々に記憶がよみがえる。

   映画「少年H」は、物心ともに価値観が180度変わった激動の時代を過ごした
  少年Hが、実直な洋服屋の父親と熱心なクリスチャンの母親から「人としての生
  き方」を自然に学び、不条理な社会にあって健全な批判精神や感性を育ててい
  く多感な少年時代を描いた佳作だった。なんといっても戦前生まれの私にとって
  は、苦く、それでいて懐かしい経験と記憶をよみがえらせてくれた映画だった。