2010年今年の重大ニュース(国内外編)   10,12,31

    1960年、学生寮の寮祭で恒例の仮装行列をやった時のこと。200名の寮生を棟別に5か6グル
   ープに分け、統一テーマを”21世紀のユートピア”としてアイデアを競ったものだ。各グループそれぞ
   れ趣向を凝らして奇想天外な学生らしい夢を40年後のユートピアとして仮装に表現し、市内をパレ
   ードして人気を博した。
   政治風刺が多かったと記憶するが、「宇宙への夢」をテーマにしたグループがあった。あれから50
   年経った今年を振り返ってみると、金星の軌道探索や小惑星”いとかわ”からの砂の回収、国際宇
   宙ステーションなどの科学技術の長足の進歩をここまでは予想していなかったと思う。驚異的な人
   類の知能の進化だ。
    宇宙工学や自然科学の進歩に比べて社会科学、とりわけ政治力学のバランスを調整する仕組み
   は遅々として進まない。国際社会の政治・経済・環境などの枠組み作りの進化は各国が自国の益
   ・不利益に拘泥して牛歩のようだ。先進国と発展途上国の対立という構図も50年前と基本的には
   変わらぬ旧態依然たるものだ。安保改訂50年を経て世界の情勢は大きく変わった。東アジアの核
   保有国が増加し緊張が次第に激化拡大している。東アジアの緊張緩和が喫緊の課題になってき
   た。グローバルな世界同時不況も同様である。
    牛歩とはいえ直近のメキシコのカンクン会議のCOP16は各国の利害を超えた合意を目指す叡
   智と苦心が垣間見えた。希望は捨てたものではない。今年は枚挙に暇がないほど印象的な出来
   事があったが、なんと言っても基地移転に揺れた沖縄問題と、尖閣列島などの中国、ロシア、韓国
   との領土領海問題、外務省・防衛省の情報漏えい問題、民主党の凋落、が世間の耳目を集めた
   年だった。しかし50年前の安保経験者の学生が夢見た21世紀のユートピアには程遠い

 
1、ギリシャ発の金融不安と世界同時不況、未曾有の円高と株価低迷。
    ギリシャの財政破綻の懸念からギリシャ国債を保有する世界の金融機関に信用不安が走った。
   国債が暴落し金融不安が世界中に広がり世界同時不況に陥った。最も被害が大きかったのは
   日本だった。米国・欧州の基軸通貨のドルとユーロを売り、比較的安定した円を買う動きが加速
   した。米国・欧州各国はドル安・円高を意図的に誘導し、日銀のドル買いの市場介入にもかかわ
   らず10数年ぶりの未曾有の円高となった。財政赤字が深刻な日本の円が強い筈も無いのに、ド
   ル安誘導による円高の加速で、輸出産業を中心に大・中・小企業の経営悪化が深刻化した。株
   価は1万円割れまで落ち込んだ。世界同時不況の連鎖から脱却しての景気回復と株価回復は
   容易ではない。

 
2、苦悩するアメリカ経済、オバマ大統領の正念場。
    世界のあらゆる不況の元凶は根底にはアメリカ経済の低迷にあるといって過言ではない。景気
   回復と失業対策、低所得層の福祉の充実をスローガンに圧倒的な支持を得たオバマ大統領だが
   、大型投資による景気回復も雇用の確保と失業解消も思うような成果が挙がらず、低所得層へ
   の重点投資(医療保険改革法)もアメリカ流の伝統的平等主義者(Tea parties)たちの反対にあ
   って支持率は急速に落ち込んだ。中間選挙では民主党が惨敗し政策転換を余儀なくされている。
   米国の景気回復が世界の景気回復のカンフル剤であることは間違いない。まさにオバマ大統領
   の正念場である。
  
 
3、鳩山首相退陣と菅内閣の誕生、参院選惨敗と民主党の凋落。
    国民主導を高らかに掲げ衆院選挙に圧勝して成立した鳩山政権が、「政治と金」「沖縄基地の
   県外移転」で頓挫し、1年持たずに退陣した。代わって小沢氏との一騎打ちに勝利して国民の支
   持率を回復した菅首相も、指導力が見えぬままに公約実現から次々に後退し内政・外交面で頓
   挫した。連立を組んだ福島、亀井両党首も閣外へ去った。特に失望が深いのは中国、ロシア、韓
   国の露骨な領土侵略行為に強い姿勢をとれず軟弱外交に終始したことである。これは菅内閣が
   領土・領海問題や新たな緊張が生まれている安全保障問題について、揺るぎない世界戦略、基
   本スタンスを持っていないことを露呈したものといえよう。国民は失望し小沢氏の政治倫理審査
   会出席問題の未解決もあって支持率が急降下した。党分裂の気配濃厚である。期待した2大政
   党制はまだ我が国には根付かない。夢幻に終わるのだろうか。

 
4、沖縄普天間基地移転問題が迷走。
    沖縄知事選で県民は県内移転にノーを選択した。日米合意による県内移転を目指す政府との
   溝は深い。そもそも沖縄の基地容認は日米安保条約締結に始まる。沖縄を米国の世界防衛戦略
   のスケープゴートにする見返りとして、本土の安全と繁栄を担保したという性格を日米安保条約が
   持っていたことから沖縄の悲劇が始まった。この歴史的背景があることを忘れてはならない。
    日米安保が変質して極東全域の安全確保が前面に押し出され、沖縄の地政学的重要性がさら
   に増した。日米安保改訂50年の節目に改めて沖縄の存在意義が特に「本土の国民」に問われて
   いる。
    県内でも国内でもない「フロートアイランド」構想が脚光を浴びるかもしれない。自在な移動を可
   能にするこの構想には莫大な国家予算が必要だろうが、もし実現の暁には国民一人一人が喜ん
   で税負担をする覚悟をするべきだろう。それとも日本近海を脅かす東アジア海域の安全をわが国
   自身が守る気概を持ち、沖縄からの米軍完全撤退を主張すべきなのだろうか。

 5、国家機密の情報漏えい相次ぐ。
    尖閣諸島の中国漁船と警備艇の衝突映像がネットで放映された。警視庁の国際テロ関連内部
   文書がネットで漏洩した。アメリカでは民間告発サイトのウィキリークスによって外交公電という国
   家機密書類を世界中に発信された。国家機密の保護・管理と情報公開の垣根の議論はさておき、
   ネット配信と言うハイテク技術の登場が、瞬時にそして広範囲に世界中に情報を伝達するという
   「利便性」と「恐ろしさ」を知らせてくれた事件であった。

 
6、領土・領海問題で揺れる日本。
    今年は中国、ロシアから領土問題で立て続けに揺さぶりをかけられた年であった。
   @尖閣列島海域での中国船長逮捕と中国政府の強硬な報復処置。A実効支配中の北方領土を
   既成事実化しようとするロシアメドベージェフ大統領の突然のクナシリ島訪問。の2点である。中国
   の尖閣列島領有権の主張は、漁業権や海底ガス資源の将来にわたる確保という面にとどまらず、
   東シナ海全域の中国支配を目指す一連の動きと捉えられており、近年、急速に整えつつある海軍
   軍事力を背景に東シナ海から米国の影響力を排除する狙いを秘めていると解釈すべきだろう。
   その最中の中国漁船船長の拿捕だったので中国が強く反発したと考えられる。
    加えて歴史認識を異にする韓国との竹島領有権を巡る論争のくすぶりや、沖縄基地の国内外移
   転を巡る米国との確執という領土・領海問題で政府が揺れている最中、突然ロシアのメドベージェ
   フ大統領がクナシリ島を訪問した。まるで終戦直後のソ連軍の突然の侵攻を想起させる、日本の
   隙をついた訪問だった。
    中国、ロシア、韓国、はては米国までいずれの国も領土・領海の明確な国家理念・国家主張が
   あり、受けてたつ日本政府はたじたじの有様である。特に中国には東シナ海の覇権の確保、ロシ
   アには日露戦争以来の不凍港の確保という南下政策、明確な国家戦略がある。未成熟な国家観
   しかない民主党閣僚達とはいえ、他国の顔色を窺いつつ穏便な解決方法を探るだけの政府の姿
   勢には心もとないこと甚だしいものがある。東アジアの先進国としての明確な国家ビジョンを早急
   に持つべきである。それにしても、胆力があり外交交渉に冴えを見せる大物政治家がいなくなった
   のは情けない限りである。

 7、豊田社長米公聴会に出席、品質問題について表明。
    ブレーキの不具合などの品質問題で豊田トヨタ社長が米国公聴会に出席し、品質の維持向上
   に関する強い経営姿勢を表明した。社長の公聴会出席と宣誓など前代未聞の事である。ようやく
   巷間指摘されている品質問題については機能欠陥は全く存在しないことも明らかになりつつあり、
   トヨタバッシングは沈静化の方向に向かった。一方、存在する不具合については迅速なリコール
   対応をとることでトヨタ車の信頼確保に万全を期した。”災い転じて福と成す”であり、”雨降って地
   固まる”の喩え通り、トヨタで飯を食う一人一人がこの事を肝に銘じて欲しい。

 8、大相撲界に度重なる激震が走る。
    話題に事欠かない今年の大相撲異変であった。貴乃花親方の理事当選がまず相撲界を揺さ
   ぶった。続いて横綱の品格を問われた朝青龍引退、野球賭博の露見で親方・力士が角界を去っ
   た。理事長の辞任・NHKの報道中止という異例の名古屋場所があり、その不祥事のさなか双葉
   山の69連勝に迫る白鵬の63連勝が光った。双葉山の記録を破ることに国民の間に賛否両論
   あったことが白鵬の凄さをあらわしている。

 
9、家畜伝染病・口蹄疫が宮崎を襲う。
    宮崎県内で発生した口蹄疫の感染拡大で、29万頭の牛豚が殺処分された。宮崎ブランドの種
   牛が根こそぎ根絶やしになる危機は免れたが畜産農家に大打撃を与えた。公的支援が急がれ
   たが農家の畜産経営の回復には多大な費用と年月が必要とされている。

 
10、人類の叡智、宇宙への挑戦が続く。
    小惑星探索船”はやぶさ”が7年ぶりに地球に帰還した。注目された小惑星”いとかわ”の砂の
   回収に成功し、太陽系の誕生メカニズムの解明が期待されている。一方金星探索船”あかつき”
   が金星軌道に入る事に失敗し次の機会に挑戦が持ち越された。女性飛行士山崎直子さんがス
   ペースシャトルディスカバリーから帰還し様々な実験成果を挙げて話題になった。日本の面目躍
   如である。

 
11、前代未聞の検察庁ぐるみの隠蔽事件発覚。
     担当検事のフロッピー改竄という朝日新聞の大スクープが引き金になって、組織ぐるみの隠
    蔽事件として大阪地検特捜部長と副部長が逮捕され、遂には検事総長の引責辞任まで発展
    した。エリート中のエリートの信じ難い密室の犯罪であり、司法制度の根幹を揺るがす犯罪だ
    った。徹底した事件の全貌解明と再発防止を検察庁の名誉にかけて進めるべきだ。密室の
    談合と隠蔽が蔓延る昨今、”嗚呼検察庁よ、お前もか!”である。

 
12、韓国と北朝鮮、武力衝突で緊迫化。
     北朝鮮の韓国警備艇爆破に続き延坪島の砲撃という紛争が勃発した。報道によればいずれ
    も北朝鮮の一方的攻撃・一方的挑発という。報復として韓国の延坪島での射撃訓練、黄海で
    の米韓軍事訓練と続き、北朝鮮を脅かし武力衝突の危機が迫っている。6カ国協議は暗礁に
    乗り上げ、国連安保理事会の非難決議も常任理事国の意見対立で強い決議はおぼつかない。
     核の保有を背景に”弱者の恫喝”で揺さぶり続ける北朝鮮に新たな指導者が登場した。金正
    日の息子の金正恩が後継者として表舞台に現れた。硬軟何れかと注目されるが延坪島の砲
    撃は彼の意図によるものとの報道もある。北朝鮮ペースで進む6カ国協議の無力振りを見ると、
    議長国をアジアの大国の中国に委ねた米国の思惑は完全に失敗だったことが判る。イランと
    北朝鮮の2正面外交を推し進める力が無くなった米国の、東アジアにおける相対的な影響力
    の低下がここにも見られる。

 
13、その他今年はごらんのように選ぶのに苦労するほど話題豊富な出来事があった。
    世界と日本の異常気象(大寒波と猛暑)。中国甘粛省で大規模土石流発生。チリ大地震。
    日本航空倒産。爆弾低気圧で八幡宮の大銀杏倒木。タイのデモ激化。スー・チー女史解放と
    ミャンマー総選挙。TPP参加是非で揺れる日本農業。高齢者所在不明の多発。Wカップサッ
    カーベスト16。上海万博。COP16開催。チリ鉱山落盤事故33名無事救助。ノーベル賞日本
    人2人が化学賞受賞、劉暁波氏へのノーベル平和賞授与。冬季オリンピック開催。メキシコ
    湾海底で重油噴出。参院選挙で新党ブーム。イチロー10年連続200本安打達成。