娘の誕生祝。    17,01,28

  近くに住んでいる長女夫妻には何かと世話になっているし、孫2人が毎週遊びに
 来るので、誰かの誕生日にはケーキとローソクを用意して”happy birthday to you♪"
 と歌ってささやかな誕生祝をしている。去年の長女の誕生日に誕生日プレゼントを
 せがまれたのは、葉山の老舗の天ぷら屋「葉むら」の天ぷらだったが、ついつい行
 きそびれていた。

  今年1月の誕生日に家内が思い出して、今年は2年分食べてもいいよと娘に約束し、
 あらかじめ店の予約を取ってくれた。娘は大喜びだった。約束の日に、亭主を会社
 に、娘二人を学校に送り出してから娘は車で迎えにやってきた。親子3人の久しぶり
 の会食だと話したら、子供達も喜んで送り出してくれたらしい。

  「葉むら」のランチはなかなかの評判で、予約しないと食べられない。私にとっても
 ほぼ10数年振りくらいの訪問である。久し振りに見た店主は頭が白くなり往年の厳
 しい顔付きが随分柔らかくなっていた。

  この店がオープンしたのは店主が鎌倉の名物天ぷら屋”ひろみ”での修行を終え
 て葉山に出店した時だから、ほぼ30年も前の事である。開店した年に食べに行き、
 美味しいので得意先の部長さんを連れて昼食を食べに来たこともある。

  思い出話だが、そのN部長さんはビールも日本酒も苦手で、ウィスキーが好みな
 ので、店主に水割りを注文したら、途端に店主は不機嫌になり、「天ぷら屋にはウィ
 スキーは置いていない。飲みたかったらべつの店に行ってください!と一喝され
 大いに面目を失した事があった。客にこんな無礼をいうのは、鎌倉の「ひろみ」の
 師匠譲りだと苦笑いして少々憤慨したものである。職人気質なのである。

  但し昔から天ぷらの味は一級品だった。後年、随分名の売れた高級天ぷら屋で
 天ぷらを味わったが、鎌倉の「ひろみ」と葉山の「葉むら」の天ぷらはこれらに勝る
 とも劣らない一級品だと今でも太鼓判が押せる。

  開店した店を5年ほどで畳み、衣笠に移転して10年、再び生まれ故郷の葉山の
 今の店に戻って15年になったと懐かしげに思い出話をしてくれた。昔はブスッとして
 話などしてくれなかった。歳を取って角が取れたか、随分こなれてきたものだ。

  30年前にオープンしたころには店のすぐ裏山で自生の「うど」を獲ってきて、揚げ
 たての天ぷらにして食べさせてもらった思い出があり、それを話したらよく覚えて
 いてくれた。私にとっても懐かしい天ぷら屋である。

  ランチコースを食べたが、家内も娘も”美味しい、美味しい!”と完食してくれた。
 カウンターから店主の天ぷらの揚げ方をじっと観察して、随分勉強になった。とに
 かく具材を油から引き上げる時のタイミングが絶妙で、野菜のみずみずしさ、魚類
 の新鮮さが決して損なわれない。素人では決してこうはいかない。

  店主曰く。「新鮮さを残すには衣が揚がればそれで終わり。」の呼吸だそうだ。
 それと家庭のコンロは火力が弱いので、具材は少しだけ入れて温度が出来るだけ
 下がらないようにし、揚げる直前に火力を高くするのがカラリと揚げるコツだと教え
 てくれた。具体的には160度で具材を入れ、揚げる直前に180〜190度にするのが
 良いそうだ。後は油だが、2種類混ぜていたが油の種類と混合比は企業秘密で
 教えてくれなかった。多少ごま油の香りがした。

  エビ、キス、ホタテ、ウニのイソベ揚げ、フキノトウ、タケノコ、山芋の青ジソ、アス
 パラ、そして最後にかき揚げのお茶漬け、兎に角すべてが絶品で食後の口当たり
 も爽やかで大満足だった。値段もランチだからそんなに高くはなかった。

  娘が気をきかせて娘の車で行ったので、心おきなく宮城県塩釜の銘酒「浦霞」の
 熱燗を飲んでほろ酔いになった。なんといっても天ぷらには日本酒の熱燗である。

  娘の誕生祝にかこつけて、自分が大満足した親子水入らずの昼食会だった。