急性胆嚢炎。  20,06,05 

   去年の10月に、胆嚢にできた胆石が時々胆管に詰まって起きる激痛で、深夜に救急車で
  病院に運ばれ3日ほど入院して治療を受けた。病名は「胆石症」と診断され、いずれは胆嚢
  を摘出しなければならないと診断されたが、今まで小康状態を保っていた。

   5月22日深夜、再び去年と同じ激痛が起き、我慢できずに遂に救急車で近くの葉山ハート
  センターに運ばれた。点滴で痛み止めの応急治療を受け、去年入院した横須賀市民病院
  に転院させられ、当直の専門内科医の診断を受け、病名は「急性胆嚢炎」と診断された。

   胆嚢にできた胆石が去年よりも大きくなり、胆管を圧迫して胆嚢が大きく腫れ上がり炎症
  を起こしているとのことだった。治療としては、すぐに切開して胆嚢を除去する方法、これは
  20センチも腹を切って胆嚢を切除するので、多少の痛みと術後のケアが必要だという。

   もう一つは、今回は点滴で腫れた内臓の痛みを治療して、後日内臓の腫れが引いてから
  腹腔鏡手術で胆嚢を切除する方法があるという。内臓が火事場の焼け跡のように荒れて
  いるので直ちに腹腔鏡手術は出来ないとのことだった。

   腹腔鏡手術は内臓の腫れが引いてから、おなかに小さな4つの穴をあけて内視鏡で胆嚢
  を切除して穴から抜き取るので手術の体の負担が少なく、術後は2日もあれば元気になる
  という。

   魚料理を知っている人はご存じだろうが、「鮎のツボ抜き」という内臓の抜き方がある。
  2本の割りばしを鮎の口のなかに入れて、グルグル回して抜くときれいに内臓が抜け、鮎の
  表面はきれいなままに残る技法だが、医者の話を聞きながら、「ははあ、人間のツボ抜き
  だな!」と素人なりに納得したものである。

   医者からはどちらを選択するかは患者次第だという。いつものことだが医者は選択肢を
  提示してあとは患者に選ばせるやり方を取ることが多い。知識のない患者は困ってしまう
  が、医者にとってはある種の責任回避なのだろう。臆病者の私は、負担の大きい手術は
  極力避けたいので、今回もまた手術はあと送りにした。

   点滴で痛み止めと化膿止めを続け、9日間も入院してようやく今月初めに退院できた。
  退院時の医者との面談では、退院後3か月以内に腹腔鏡手術をしたいという。放置して
  また激痛が起きると、今度は胆嚢の壁が肥厚して腐り始め、壊疽性胆嚢炎になったり、
  ときどき腹膜炎や敗血症を合併し重篤になることがあるという。

   医者と相談の結果、7月中旬に腹腔鏡手術で胆嚢を切除することにした。問題は私が
  心臓病で血液サラサラ剤を毎日服用していることで、手術前数週間はサラサラ剤の服用
  は一時停止する必要がある。手術に備えてこれらの事前準備を手術1か月前から始める。

   胆嚢は胆汁を一時ストックしておく役目を持っている臓器で、切除しても日常生活に支
  障はないと医者は太鼓判を押してくれたが、臆病な年寄りにはやや半信半疑で疑心暗鬼
  である。

   先日亡くなった拉致被害者の父の横田滋さんは高齢で胆嚢除去して以来体調がすぐ
  れずに過ごしたと聞くと、ますます不安になるが、ここは一番、医者を全面信頼するしか
  ない。覚悟を決めたらあとは行くだけである。

   思いがけず9日間の入院生活になったが、最初の5日間、何も食べず点滴だけで生き
  てきたので、6日目に初めてお粥の食事が出たときにはとても美味しかった。病院食は
  不味いものと相場は決まっているが、なんと完食してしまった。もっとも翌日からはいつ
  ものように半分しか食べなかったが・・。

   退院後、無性に美味しい日本そばが食べたくなって、ほぼ毎日来院してくれた家内と
  一緒に葉山で一番おいしい日本そば店の”わか菜”に行き、ざるそばを食べた。
  店の庭先からは、「日本の里100選」に選ばれた葉山の名所の「棚田」が緑濃く田植え
  の準備をしているのが見え、めっきり日射しが夏めいてきた葉山の風景を見る喜びに
  浸った。

   9日間の入院中、味気ない無機質な部屋のベッドでやることがないので持ち込んだ本
  を3冊も読んだ。小松左京の「復活の日」、高嶋哲夫の「首都感染」、カミュの「ペスト」。
  3冊とも病原菌ウィルスと戦う人類の苦闘と克服の物語である。

   驚くべきことに、3冊とも今年大流行した「新型コロナウィルス」と人類の戦いに酷似し
  ている事である。「ペスト」が書かれたのは1947年、今から73年前の作品であり、「復活
  の日」は1972年、「首都感染」は2010年、今から10年前の作品だが、いずれも今日の
  ウィルスとの苦闘を予見させる迫真の描写となっている。クラスターとかパンデミックと
  か最近流行の言葉はすでにこの昔から登場している単語だと知らされた。

   ウィルスは死滅することなく変異を繰り返し、新たな耐性を作り、人類がようやく開発
  した治療薬やワクチンを無能にし、ジッと潜んで次の出番を待っている。ウィルスと人類
  の戦いは永遠に続く。いずれこの3冊の読後感を書こうと思う。