師走の銀座の散歩。  19,12,20

   年末になるといつも家内に催促されて、12月19日の結婚記念日にはどこかの美味しい店で
  食事をするのが常となっている。ホテルのディナーやお寿司屋もあれば懐石料理、洋食中華
  の店もあるし、勿論居酒屋もある。

   一昨年には柄にもなく六本木のサントリーホールで日本を代表するバイオリニスト大谷康子
  と、ウクライナのキエフ国立フィルハーモニー交響楽団が共演するクラシックコンサートを鑑賞
  して、お忍びでご来場された観客席の美智子妃にお目にかかれるという偶然にも出くわした。

   今年は48回目に当たるが、久し振りに新橋から銀座をぶらつき、日ごろの運動不足を補う
  ことにした。因みに「銀ブラ」とは銀座をぶらぶらすることではなく、銀座で「ブラジルコーヒー」
  を飲む「銀ブラ」のことで、その昔、キザな慶應の学生が言い始めたのが言葉の起源らしい。
  今日の散歩コースは次のとおりである。

   ①新橋4丁目の和菓子店「新正堂」で「切腹最中」を買う。

   「新正堂」は浅野内匠頭が切腹した田村右京大夫の屋敷跡に建つ和菓子屋で、新橋駅烏
  森口から歩いて10分の柳通りの一角にある。客が行列をなして人気の「切腹最中」や小判の
  形をした「景気上昇最中」を買っていた。

   「切腹最中」はサラリーマンが企業訪問の手土産にするお詫びの品として、また「景気上昇
  最中」も同様に縁起の良い手土産として重宝されるそうだが、なんとも商魂たくましい売れ筋
  商品である。


     

   店から50mも歩くと、「浅野内匠頭終焉の地」と書かれた石碑が建っている。いわずと知れ
  た一関藩主・田村右京の江戸藩邸の跡地である。たまたまこの石碑の真ん前に「中村碁盤
  店」という看板があったので中を覗いてみた。


     

   新正堂と同じ田村邸の跡地にあるこの店のご主人は大変親切で、店の最高値のつく本榧
  (かや)の碁盤を見せてもらった。厚さ六寸二分、きめ細かい柾目が実にきれいな「天地柾」
  で、表面と裏面が全く同じ柾目をしている。値段は一千万円だそうだが、今は日本のどこにも
  ない幻の名品なので店の看板商品として非売品にしているそうな。

   様々な素材の碁盤・将棋盤があるが、誰もが一度は手にしたい逸品といえば、やはり本榧
  (かや)。打ち味・打音・美しい木目・色ツヤ・特有の香気など、すべてにおいて本榧に勝るも
  のはなく、碁盤・将棋盤の最高峰として古くから愛好家に賞用されている。

   逗子の今は亡き96翁の秘蔵の碁盤が本榧(かや)天地柾の逸品で、石を置くと得も言われ
  ぬ上品な石音がして自然に背筋がピンと伸びたものだった。思いがけず目の保養になり、私
  にとっては今回の散歩の一番の収穫だった。

      


   ②銀座3丁目の「煉瓦屋」で名物のオムライスを食べる。

   銀座和光の裏通りにある煉瓦屋は、貧乏学生にとっては高級に見える入りにくい店だった
  が、今は大衆受けする洋食店になっている。中は3階になっていてひっきりなしに客が出入り
  しているので少し落ち着かない。

   名物はオムライスとハヤシライスだが、エビフライやハンバーグも美味しい。我々はハヤシ
  ライスとハンバーグ、それに単品としてカキフライを注文した。煉瓦亭の人気メニューだけあ
  って、ハヤシライスは玉ねぎと牛肉が丹念に煮込んだのだろう、具はみな溶けていて形が見
  えない。味は濃いめで今まで食べた事のないいい味だった。ハンバーグも同様にタレが美味
  しかった。目映りして3品も頼んだが、カロリーが高いのでそれぞれ少し残してしまった。

   レジで精算の時、レシートを渡してくれないのが不思議だった。安倍首相の「桜を見る会」
  のホテルのレシートではあるまいし、税務署で問題にならないのだろうか。

    


   折角の銀座なので、あちこち散歩してから、和光とミキモトに立ち寄り、数百万から数千万
  もするダイヤの装飾品や高級時計を見て回り目の保養にした。派手なスーツとドレスで身を
  まとい、一見して金持ちに見える貴婦人とエスコートする紳士がさっそうと店内を闊歩してい
  たが、我々とは住む世界の違う人種たちなので羨ましくもなんともない。時間の無駄だった。

   ③泉岳寺参拝、又は「おばあちゃんの原宿」こと巣鴨の地蔵通りで「赤パンツ」を買う。

   浅野内匠頭が切腹した旧田村邸に来たついでに、泉岳寺も予定していたが、生憎朝から
  どんよりした曇り空、時折小雨がぱらつく寒い日だったので、取りやめにした。
   
   また、かねてから家内と娘にせがまれていた巣鴨の赤パンツも同様の悪天候なので取り
  やめにして早々に帰宅した。日頃足腰が痛いといって散歩をサボっているが、こうして江戸
  のど真ん中に来ると不思議にシャンと歩けることに気が付いた。

   来年の記念日、50年目の金婚式を迎える再来年の記念日にはどこに行こうか、早くも宿
  題を突き付けられている。