大山鳴動。     21,05,29

   いやはやこの半月ひどい目にあった。
  18日の火曜日の早朝、突然ひどい眩暈に襲われ体の平衡感覚が狂ってしまい、トイレにも
  家内の肩を借りる有様になった。

   さらに吐き気がひどくなり続けざまに5回もトイレで戻したが、黄色い胃液が出るだけ
  で一向に収まらない。しばらく床に伏せていたが全く回復の気配がないので、急遽葉山
  ハートセンターの救急外来にタクシーで連れ込まれた。

   この日の救急担当医は脳神経外科の医者だったが、眩暈,嘔気、嘔吐は脳の障害が疑
  われるというので、点滴による眩暈症状の対処のほかに、CT、MRI、心電図の検査をされ、
  思いがけず1泊を余儀なくされた。宿泊の準備などしていなかったので必要なものの準備
  に追われた。

   翌日、担当医から、MRIの結果は、脳梗塞などの心配はなく脳からくる眩暈ではないが、
  心電図に不整脈があり、これが原因かもしれないのでさらに24時間心電図で調べたいと
  いわれ、さらに1泊する羽目になった。

   私はワクチン接種の予定日があるので一時退院したいといったが、医者はワクチンが
  大事なのはわかるが、不整脈で突然の症状発生が懸念されるので、ワクチンよりも心臓
  優先、ワクチンは延期してほしい、と非常に切迫した言い方で翻意を促された。

   翌日24時間心電図の測定が終了したが、その担当医が休みなのでさらに1泊すること
  になり、遂に4泊の長逗留となってしまった。その間、何もすることがなく、不味い病
  院食を食べさせられ、無聊をかこつことになった。非常に不満な数日を過ごした。

   翌日出勤した担当医の診断は、不整脈がかなりあるので、治療方針を説明するから
  東京にいる息子や娘さん全員が来院するようにと医師から告げられ、子供たちには医者
  から直接電話すると言われた。我々夫婦は、東京にいる息子は忙しいので私たちが診
  断結果を子供たちに知らせますから、と申し出たが、頑として直接説明に拘った言い方
  をされた。

   さては相当に心臓の不整脈が悪く、末期患者の家族への通達かと覚悟を決めて、退院
  日の面接に長男を東京から呼び寄せて同席させた。ある程度の覚悟をしていたが、あに
  はからんや医者の説明は、不整脈の症状の説明とペースメーカー装着の可能性、突然
  の症状が出たときの緊急対応、家族の心構え、についての話だけで、後日循環器内科
  の不整脈の専門医の診断を手配するので専門医の指示に従うように、との話に終わっ
  た。

   この医者は少々大げさで、患者を脅かすような口調でしゃべる癖があると感じたが、
  家内も子供たちも同様に感じたらしい。この程度の話ならわざわざ東京から息子を呼
  び寄せることもあるまいにと思った。

   ただ、息子からは、次回の面談でペースメーカー装着と言われたら心電図のデータ
  とカルテをコピーしてもらって息子に届けること。息子は女子医大の同僚の不整脈の
  専門医師にデータをみせて診断してもらうなど、適切なアドバイスをくれたので呼び
  寄せたのはあながち無駄ではなかった。

   一時退院後、数度にわたり親子4家族のLINEリモート会議をして意思統一をしてか
  ら、27日に予約しておいた循環器内科の不整脈専門医の説明を受けた。家内と長女
  と3人で24時間心電図の診断結果の説明を受けたが、この医者は、嚙み砕いたよう
  に親切丁寧な口調で素人判りする説明をしてくれ、全く問題なしと診断してくれた。

   所々に不整脈があるが、加齢とともにままあることで、日常生活には全く支障はな
  く心配はいらないと太鼓判を押してくれた。有難かった。ただし、不整脈が進行して
  眩暈がひどくなったり、突然立ち眩みがひどくなった時にはペースメーカーを入れる
  必要があるので、当面は大丈夫だが、気をつけておいてくださいとのことだった。

   眩暈と吐き気は不整脈とは無関係で、低血圧による立ち眩みでしょう、とのことで
  水分の補充を十分にやってくださいとの指導だった。息子も私が飲んでいる9種類の
  薬を見て、そのうちの2種類が血圧を下げる作用があるので、水分補給を頻繁に行
  うようにと、医者と同じことを言っていた。

   これで天下晴れてしばらくは心配のない健康な生活をエンジョイできる。ゴルフも
  釣りもOKだ。ただし体力特に脚力にはまるで自信がないから元気にやれるかどうか
  は別の話だ。

   周りにいる沢山の人に心配をかけてしまった。結果的には大山鳴動、ネズミ一匹だ
  った。今後のこともあるので、カルテ一式と心電図の資料のコピーをもらって息子に
  送る手配をした。いつ何時再発して息子に世話になるやもしれぬ。

   医者に何故不整脈が起きたのか、予防策はないのか、と聞いたら「歳をとると顔に
  しわができる、頭の毛は白くなって禿げてくる。それと同じで心臓の細胞も加齢とと
  もに衰えてくる。それを防止する若返りの薬などはありません。」との明快な答えだ
  った。なぜだかすっきりして一緒に笑いあったものである。秦の始皇帝でも治す薬は
  ないという事だろう。

   心を和らげてくれるいい先生だった。脳神経外科の医者とは大違いだった。
  医者とはこうでなくてはならない。それでなくても不安な患者に安心を与える柔ら
  かな応対をすることが先ずは名医の第一歩だ。いたずらに脅かす医者は一流の医者
  ではない。

   入院中、塩分6グラムの不味い病院食にはほとほと参った。4泊した朝昼晩の食事
  は半分も食べなかった。退院した直後、飢えたような気持ちで馴染みの寿司屋に行き、
  思う存分寿司を食べてうっ憤を晴らしてきた。