2003/08/25
八つ墓村 (渥美清版・ネタバレだらけ)

 中学生の頃に土曜洋画劇場で見てあまりの恐さにトイレに行けなくなった1977年の
渥美清版・八つ墓村(横溝正史モン)を久し振りに無性に見たくなってDVDを買った。
このパッケージのシーンが合成天国のこれの元ネタなんだけど、バックは竹林じゃなくて
桜並木だったか。まぁ細かいことは置いといて、このシーンがとにかく恐いのだ。
あと400年前の落ち武者惨殺シーンも凄まじい。

 ここであらすじを説明すると、まず400年前、毛利の追手から逃れてきた尼子義孝と
その家来合わせて8人が岡山の山奥の村の片隅でひっそりと暮らし始める。落ち武者と
村人が仲良くなってきた頃、毛利の詮議が始まって「尼子の落ち武者があれば差し出せ。
その中に尼子義孝があれば莫大な恩賞をとらせよう」という。村人達は相談し、夏祭りに
落ち武者達を招待し、酒に毒を盛って痺れさせたところをよってたかって皆殺しにする。

 この皆殺しのシーンが恐いのなんの。胸に鎌をつきたててそれを腹の方までズズっと
かっさばいたり、目ん玉に竹ヤリを突き刺したり、手に鎌をグサリと刺して数秒後に血が
ドローっと出てきたり、脳天を斧でかち割ったり、縄で縛り上げて首をはねたらその首が
飛んでいって村人の腕に噛み付いたり(その首は田中邦衛)、全身火だるまになったり。
最後に大将・尼子義孝(夏八木勲)が体に竹ヤリを突き立てられながら弁慶のように
立ち上がり、「騙し討ちとは卑怯な・・・!末代まで祟って祟って・・・!」と言って絶命。
雷雨の中、晒し物にされた8つの首。雷とともに尼子義孝の首の目がカッと見開き、
口を不気味に開いて高笑いする。そして数日後、この騙し討ちの首謀者が突然狂い、
村人7人を殺した後に「ひゃはは〜」と笑いながら刀を舐め、その刀を自らの首に当てて
首をはねて計8人死亡。これは尼子義孝の祟りだとビビりあげた村人は落ち武者達の
墓を作り、これが「八つ墓村」の由来となった。
 このほんの3〜5分のシーンだけで、四谷怪談と番町皿屋敷と牡丹灯篭の総恐怖指数を
超えると言えるほど恐い。そして時間は流れ、物語の時間から20年前の回想シーンへ。

 400年前の首謀者は祟られて自殺したが、一族には毛利から山林の権利を与えられ、
莫大な資産家になる。そして20年前、その一族の当主・多治見要蔵(山崎努)が突然狂い、
村人32人を殺しまくる。そのシーンの冒頭がこれ、もとい、これなんだけど、これまた恐い。
機嫌よく笑ってる赤ちゃんを刺し殺した時の断末魔の声とか、井戸に投げ込まれたあげくに
上から猟銃で撃たれるおばあちゃんとか、首をはねられたが胴体と皮一枚つながっていて
ちぎれそうでちぎれない兄ちゃんとか、そして頭に2本の懐中電灯をつけ、祟られて顔が
真っ白になっている山崎努とか、これらはもう間違いなくジェイソンやエイリアンより恐い。

(※)2009年7月追記:この文章をアップしたのが2003年8月なんだけど、6年の歳月の間に
youtubeなる便利なものができて、上記2つの超怖い動画もアップされていたのでリンク貼ります。
多治見要蔵32人殺し  ・落ち武者狩り  (どちらも、かなり怖いです。閲覧注意!)

 そしてその20年後(物語の中での現在)、八墓村でまた連続殺人事件が起こる。
この殺人は大半が毒殺で大して恐くはないが、そこらのサスペンスドラマのように
毒を盛られた人が胸を押さえて「うっ!」とか言ってバタンと倒れるというようなものではなく、
毒殺される人全員、口から胃液を出しまくってのたうちまわって死ぬので、
相当キモい。
 ここから先は横溝正史モンの常で、結局犯人を含めてみんな死んでしまう
のだが、
俺が古谷一行版でもなくトヨエツ版でもなく1977年の渥美清版を推すのはズバリ結末の違い。
俺は原作も読んだが、実は古谷一行版とトヨエツ版の方が原作通りの結末で、渥美清版は
結末が違っていた。

 原作では、400年前の落ち武者惨殺・そして20年前の村人32人殺しによって現在の
村人が「八つ墓大明神の祟り」を信じていることを利用して、犯人が財産目当てで8人を殺す
というようになっていた。でも7人までしか殺せなくて最後に犯人は死んでしまい、
ヒロインだの大判小判だのもあって「
めでたしめでたし」という終わり方。

 これが1977年の渥美清版では、一応犯人は八つ墓大明神の祟りを利用して殺人計画を
たててはいるのだが、この犯人の先祖を辿るとこれがなんと落ち武者の大将・尼子義孝(!)
そして20年前に多治見要蔵(山崎努)が狂ってしまった原因ともいえる主人公(ショーケン)の
先祖も、これまた尼子義孝(!!!) つまり主人公と犯人は、本人達も知らない間に
実は協力して400年前の首謀者の子孫・多治見家を祟り殺していたのだ。

 更に、原作では1人だけ生き残った多治見家の最後の1人。渥美版でも犯人はこれを殺す前に
洞窟内の落盤で死んでしまうのだが、その落盤で洞窟から外に出てきたコウモリの群れが
多治見家に群がり、そのうちの1匹に仏壇の火が燃え移り、それがもとで多治見家は全焼、
中にいた最後の1人も死んでしまう。燃え盛る多治見家を、村を一望できる山頂から見ている
人達がいた。誰あろう、400年前に「末代まで祟ってやる」と言った尼子義孝ら、
8人の落ち武者達だった・・・

 つまり原作やトヨエツの映画ではあくまで「祟り伝説を利用した殺人事件」だったんだけど、
1977年の渥美版は「殺人事件を介して尼子義孝の祟り達成」という結末になっている。
両方見た俺としては、断然後者の方が見終わった後に心がズシっと重くなって
しばらく呆然とするという映画鑑賞の醍醐味を味わえたな。

 これだけさんざんネタバレをしといてアレだけど、1977年・渥美版はマジで
お勧めなのでぜひ見ましょう。日本人ならば、ジェイソンのような訳のわからない殺人者よりも、
こういう「祟り」という日本人固有の感覚の方がきっと精神にくる恐さだと思う。 


神庭の滝

(※)2014年10月追記


中学生の頃に初めてテレビで見てから
およそ30年後、オープニングで落ち武者が
登っていた岡山県・神庭の滝に行ってきました。

←この崖の向こうが八つ墓村です。

う〜ん、登ってみたい!

(そばまで行くと写真以上に迫力満点です)








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