2002/2/11
小公女セーラ

 小学生の頃、毎週日曜日の夜7:30から、ハウス名作劇場というアニメ番組があった。

トム・ソーヤーの冒険でトムとハックが洞窟内でインディアン・ジョーと鉢合わせになった

ところで「次週に続く」になったときには1週間気が気ではなかった。エイリアンや

ジェイソンと遭遇するのなんか楽勝だと感じるほどの緊迫感があったもんだ。

 牧場の少女カトリの寂しげな終わりの歌にしみじみとし、南の島のフローネを見て

のび太くんのように無人島暮らしにあこがれ、とりあえず裏山に行って木を繋ぎ合わせて

いかだもどきを作ったりしたっけ。

 そんな、時にはしんみりとし、時には血湧き肉踊る興奮を子供に与えてくれた名作劇場

だったが、小学6年生〜中学1年生にかけて、恐るべきテーマのアニメが放送された。

小公女セーラである。

 これ、すごかったよ。序盤、セーラがお金持ちのお嬢様だった頃は、先生も同級生も

セーラをちやほやしまくるんだけど、(放送の)3月頃にセーラのお父さんが死に、財産全てを

悪い人に騙し取られてしまう。するとセーラは学園のメイドになるんだけど、これがまた

半端じゃない待遇。屋根裏の汚い部屋に押し込められ、食べるものもろくに与えられず、

なによりミンチン校長・同級生のラビニア・料理番の男と女に尋常じゃなくいじめられる。

そりゃもう、3月〜12月まで10ヶ月間、徹底的にいじめられます。どれぐらいすごかった

かと言えば、当時家族で見ていたのだが、夏頃には妹が「かわいそうすぎて見てられない」

と言って脱落し、両親も「どうせ今週もセーラがラビニアにいじめられる話だろ」と言って

クイズ・ヒントでピントにチャンネルを変えてしまったほど。

 セーラの味方は同級生のアーメンガード・ガキんちょのロッティ・メイド仲間のベッキー・

あと教頭がいたのだが、アーメンガードは番長のラビニアと比べてあまりにも弱いし

ロッティは泣き虫の役立たずだし、ベッキーは料理番にこき使われてるし、教頭はミンチン

校長に頭が上がらないし、とにかく役に立たない。それにしても俺、あれから15年以上

たってるのによく脇役の名前まで覚えてるなぁ。あの料理番の名前もここまで出てるん

だけど・・・と思ってgoogle検索したら、思いも寄らない所ですばらしい一文がHITした。

ココの真ん中ぐらいの所を見て下さい。

名作通の俺から言わせてもらえば今、名作通の間での最新流行はやっぱり、
小公女セーラ、これだね。
セーラの不幸な境遇に同情する。
ミンチンやラビニアの執拗ないじめは多め。そん代わりは心暖まるシーンは少なめ。これ。
で、ジェームス、モーリーのセーラに対する仕打ち。これ最強。
しかしセーラに同情しすぎると、気分が鬱になってしまうという危険も伴う、諸刃の剣。
素人にはお薦め出来ない。 まあお前はピーターパンの冒険でも見てなさいってこった。

 これ作った人はすばらしい。見事に俺の世代の心を鷲づかみにしたよ。多分この作者も

俺と同じく、子供の頃に小公女セーラですばらしい教訓を得たんだろうな。

すなわち、最初の方で書いた「このアニメの恐るべきテーマ」とはずばり、

世の中金だ。金が全てだ。金をつかまなきゃクズだ。

そう、今なら福本伸行のカイジの「金は命より重い。そこの認識をごまかす輩は生涯地を這う」

という素晴らしい人生哲学に通じるテーマだったのだ。問題なのは、カイジは青年誌の漫画で、

小公女セーラは子供が見るアニメだってこと。

 セーラは決して、「どんなに辛くても正直に頑張って生きていればいつか報われるから頑張れ」

というテーマではない。もしそういう肯定的なメッセージだったら、最終回で我々視聴者ももっと

すがすがしい気分になったはずなのだ。しかし実際の最終回はどうだったか。

 最終回の1話前、セーラのお父さんの共同事業者が現れ、全て騙し取られたと思っていた

財産が戻ってくる。(ウロ覚えなので、この経緯には間違いがあるかも)

ここからが問題だ。ここから先は何年たとうとも鮮明に覚えている。

まずはセーラが大金持ちになったと知って崩れ落ちるミンチン校長。ここまではいい。

しかし、今までは温和でどちらかと言えばセーラの味方だった教頭先生(ミンチンの妹)が

突如鬼の形相と化してミンチンにつめより、

「お前があんなにセーラをいじめたから、せっかくセーラが大金持ちになったというのに

寄付金などビタ一文くれるはずがないじゃねぇか、おら、どうしてくれるんじゃぁああ!!」

と口を極めての罵倒!!子供の俺は、ミンチンがやりこめられている様子に溜飲を下げつつ

「結局この教頭も金が欲しかっただけなのか?」と素直に思った。

 それよりも当時の子供の怒りがおさまらなかったのがラビニア。

いや、こいつの今までのいじめは本当に尋常じゃなかったんすよ。俺がセーラだったら

間違いなく3ヶ月以内にはラビニアを殺していたね。で、ラビニアの子分2人は半殺し。

当然視聴者も、大金を手にしたセーラがどのようにラビニアに復讐するのか固唾を飲んで

見守っていた。すると最終回・・・

ラビニア「(今までのいじめに対する謝罪は一切無しに)私たち、友達よね」
セーラ「えぇ、友達よ」

ぐがぁぁぁああああ!!それで視聴者が納得すると思っとるんかぁぁああ!!

セーラ!!ラビニアを刺しちゃらんかい!!サクっと刺さんかい!!

お前がやらんのならワシがやっちゃる!!仁義なき戦い・代理戦争じゃあ!!

しかし、全国1000万のセーラ視聴者の期待を裏切り、セーラとラビニアの友情の握手!!

こ、こうなったらミンチンが無様に落ちぶれていくシーンだけで我慢するか・・・と思ったら、

セーラ、何をトチ狂ったかミンチン女学園への多額の資金援助を申し出る!!

とたんにセーラにやさしい言葉をかけるミンチン!!(やはり、いじめに対する謝罪はなし)

そして、かつてセーラに鉄拳制裁を喰らわせていたジェームスとモーリーまでいい人に!!

お、俺はどうやって今まで1年間の溜飲を下げたらいいんじゃぁあ!!

かつてここまで後味の悪かったアニメがあっただろうか?いや、ない!!

 ・・・ここまでの文章を冷静になって読み返してみると、上の段落でやたら「!!」を使って

しまってるな。でも実際、当時の子供には「!」マークを1億万回使っても使い足りない衝撃が

あったのだ。

 あのアニメを作った大人は、「どんな状況になっても優しい気持ちを持ち続けなさい。

そして、あなたをいじめた人を憎むのではなく、許しなさい」というキリスト様の教えのような

ことを言いたかったのだとは思うが、翌日の学校では、

「やっぱ世の中金だよ。金が全てだよ。金をつかまなきゃクズなんだよ」

という議論が熱く交わされていたのだった。

いやぁ〜、為になるアニメだったなぁ。

 

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