1. 遺言とシステム工学

テレビドラマにでてくる遺言は、劇的であり、かつ現実味もある。
しかし、遺言で全財産を或特定の人にあげられるのだという誤解を与えかねない場面が多い。

相続法の制定にあたっては、「被相続人の意思の自由」と「相続人の権利の平等性」の相反する二つの理念の統合に苦心したと聞いている。「忠ならんと欲すれば孝ならず、孝ならんと----」、相反する命題を含むシステムの最適化は、システム工学の重要なテーマの一つである。

前者のみの理念で施行すると後者の理念は消し去られ、その逆に、後者の理念のみでは、前者の生かされる場所はなくなる。

その結果、相続法では後者に重点を置き、全部を平等にしてもよいが、前者の余地を残すべく、その中間点を限度とする方法を採用した模様で、いわゆる「足して2で割る」方法、システム工学的にいうと「両者の重みをともに50%」にしたものを限界にしている。

くわしく表現すると、後者の重みが、100-50%のとき、相続法の満足度は100%である(システムは最適化された)。前者からみると、その重みが0-50%のとき、システムは最適化されていることになる。

例えば、1000万円の財産を持っている人は、その50%の500万円の範囲内で、自由に遺贈、贈与でき、残りの500万円は相続人(単純のため、嫡出子かつ寄与分等が等しい複数の兄弟だけの相続の場合)で平等に分割する。

具体的には、被相続人の意思の表示が無ければ、1000万円を等分にすることになる。逆に、もっとも極端に1000万円を相続人の一人に全部相続させようとしても、それは有効であるが、遺留分(通常2分の1の500万円)の減殺される可能性が残る。

それでは、遺言で、全財産1000万円を3人兄弟のAに460万円、Bに370万円、Cに170万円を遺贈したら合法であろうか、一見被相続人の意思が100%であり、遺留分の問題があるように見えるが、法の趣旨からいえば、そのまま有効(合法)といえよう。なぜならば、この遺言は、Aに290万円、Bに200万円、Cに0万円を遺贈することと同値であり、残りの510万円を3等分して170万円ずつ平等に配分することになり、その額510万円は全体の50%を上回っているからである。


戻る