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 生物生産が人類にとって最も重要な生産活動であることはいうまでもない.その生物生産について,現在地球規模では食糧生産システムのアンバランスにより飢餓の地域が生じ,一方わが国では米の生産コストの引下げなど解決すべき多くの問題が生じている.また、近年の工業生産の発展や生活レベルの向上による消費増大の落とし子として、人類の生存環境は,地球レベルから身近な日常生活まで,広く汚染問題が生じている.

 生物生産システムは,生物を対象とし自然環境のもとで生産活動を行う非常に複雑多様なシステムであり,その問題解決には多くの要素や条件を考慮した総合的な対応が不可欠である.また,遺伝子工学やバイオテクノロジーなどの先端技術は、将来の生物生産に大きく寄与するものと期待されるが、十分なテクノロジーアセスメントを欠くことはできない。当面の環境汚染の問題解決には,生産のみに重点をおくのでなく,生産と環境のバランスに配慮することが重要である.

 そこで,物事を総合的に評価・判断・設計するシステムアプロ−チ,あるいはシステム工学を有力な手段として活用することが極めて重要となる。

 著者は, 近年「農業システム工学」「生物生産環境情報学」「生物圏システム制御論」などの授業を担当し,生物生産へのシステム工学的手法の応用を講述してきた.また生物生産機械施設のシステム化や農業機械化作業計画などにシステム解析的手法を適用した研究を行ってきた経験を生かして、未熟ではあるが1989年に「農業システム工学」を刊行した。今回はそれらを大きく改編して「生物生産システム工学」にまとめたものである.

 内容は,大学の学部学生を対象としているが,生物生産に関する行政・研究・普及等の関係者や生物生産用コンピュ−タプログラム作成の担当者にも大いに活用していただけるよう考慮した.主として,1〜2章で生物生産システム工学の概要と基礎を理解できるように努め,3章はその応用例,4章は農業機械化計画について詳細に解説し,演習問題も多く用いて応用に重点を置いた. 

第1章では,生物生産システム,システム工学,情報,デ−タベ−スなどの基礎的な考え方について,専門的知識がなくても理解できるように解説した.

 第2章では,生物生産システムの基礎理論について,モデル化の手法と,数理解析手法,シミュレ−ションなどの基本的な考え方をくわしく説明し,

応用例をあげて解説した.

第3章では,生物生産システムの分析と最適化について,シミュレ−ション,線形計画法などの手法の生物生産への応用例を示した.

 なお,生物生産機械施設のシステム化の重要な手法であるシ−ケンス論理制御について,論理代数やディジタル回路などの入門レベルから,応用レベルまで一貫して,くわしく例示した.

 第4章では,農業機械化システムについて,主として作業計画,機械利用コスト,営農計画の最適化などのいわゆるソフトウェアについて解説した.

第5章では,補足説明や演習問題解答などを収録した。

 なお,本書全文をハイパーテキスト型CAIソフトウェアとしてまとめたものと関連のデ−タベ−スをCD-ROMに集録し,別途刊行する予定である.

 本書は、平成8年度文部省科学研究費補助金研究成果公開促進費(一般学術図書)の交付を受けて刊行するものである。

 また本書の原稿作成には,筑波大学野口良造助手および池島茂子さんなど多くの方々に御協力をいただき,出版に際しては,(株)新農林社および(株)イセブに絶大な御支援をいただきましたことに深く感謝の意を表する.

    199612

                   研究室B419にて

                      小 中 俊 雄


 

妻へ感謝を込めて

頑健とはいえなかった体力にもかかわらず、これまで楽しく仕事に打ちこめたのは、ひとえに、妻・よ志子による健康管理によるものである。

 本書を完成するにあたり、これまでのあらゆる意味での声援に心から深く感謝の意を表する。

 ありがとう。


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