研究所めぐり---AIT: 国際農林業協力AICAF, 3-4, p65-72, 1981


アジア工科大学院

小中俊雄 筑波大学農林工学系教授


バンコクから北ヘハイウェイ1号線を42km,途中にあるドンマン国際空港からなら北へ17km走ると,左側にアジア工科大学院(Asian Institute of Technology,略称AIT)がある。AITは,おそらく世界で唯一の国際的運営による大学院大学で、あの学生のいない国連大学と異なって,実際に500名以上(20数カ国からきている)の学生を有し,主として工学分野で修士課程および博士課程の教育研究を活発に行っており学問的水準も高く,その実績は国際的に高い評価を受けている。

私は,昭和54年5月から2年間の予定で,現在このAITの農業食糧工学部の教授として,日本政府(事務窓口はJICA)から派遣されており,その体験をもとにして,このユニークな大学院大学の全貌を紹介させていただきたいと思います。

AITキャンパス全景

生い立ち

AITのそもそもの起りは,1959年東南アジアの工科系技術者の養成のために.SEATO (South East Asia Treaty Organization)の工科大学院(Graduate School of Engineering)として,パキスタン,フィリッピン,タイの学生に水理学(Hydraulic)を教授したことに始まり,当時は,バンコク市内のチェラロンコン大学(タイの東大といわれる)の構内に建物を有し,米国のコロラド大学の全面的指導のもとに1961年に初の卒業生を送り出した。当時の教官は,米国,フランス,ニュージーランド,タイ,英国からきていで,次第に,ハイウエイ工学,構造工学などいわゆる土木工学の分野の大学院として成長してきた。

1966年,SEAT0埋事会は,本大学院を独立した国際的なものにすることを提案し,当時の米国ジョンソン大統領の来学をきっかけに,翌1967年,タイ政府の特別立法により,アジア地域の土木工学のための独立,自治の高等教育機関として,現在の名称Asian Institute of Technologyが正式に発足した。

ついで,1968年,第1回評議員会が開かれMaster Planが作成され,現在の場所に160へクタールの敷地を確保し,1971年,新キャンパスの建設が始められた。なお,1972年に初めで農業工学に関する授業が一部組み入れられた。

AITの組織・施設

ドンマン空港から北へ車で15分ほどで,左へ曲るとAITに着き,ゆったりとしたキャンパスの中はアカデミックな情景が展開し,いわゆる東南アジアとは全然異なる別世界であり,よく戦前の租界地にたとえられる。

私は,赴任前に不便な生活を大なり小なり予想していたが,キャンパス内のホテルに住み,レストランで食事し,空調設備の完備した研究室で仕事をしてすごすと,暑くて仕事ができないというようないいわけができなくてよわっている。また,水道の水(地下数百メートルから汲み上げている)がじや口から飲めるのは,タイ国ではここだけてはないだろうか。唯一の見込み違いは,タイ国へ行ったらタイ語がしやべられるようになると思っていたが,このAITですごしているかぎり英語が公用語であり,その上,私は英語のできるタイ人運転手をやとっているので,タイ語を使う必要がなく,1年以上たったにもかかわらず,いまだにニンソンサム(1,2,3)程度しかしやべれず,バンコク市内へ出たとき不便を感ずることである。

さで,AITの設立のねらいは,アジア各国の工料系技術者が著しく不足しているのに対処するため,アジア地域における工学分野の人材を育成・強化することであり,研究対象を「アジア地域」におき,アジアからの「頭脳流出」を防止する効果もねらっている。

AITには,現在つぎの9部門(Division)があり,その中に1−4のサブコース(field)がある。

 

1.農業食糧工学部(Agricultural and Food Engineering)

農業土木コース(Agricultural Soil and Water Engineering)

農業機械コース(Agricultural Machinery and Management)

食糧加工コース(Food Process Engineering)

水産学コース(aquaculture)

2.コンピュータ応用学部(Computer Applications)

3.エネルギー工学部(Energy Technology)

4.環境工学部(Environmental Engineering)

廃水処理工学コース(Wastewater Engineering)

環境工学コース(Environmental Technology and Management)

5.土質・運輸工学部(Geo-technical and Trans potation Engineering)

土質工学コース(Soil Engineering)

地質工学コース(Engineering Geology)

運輪シスでムコース(Transportation Systems)

輸送工学コース(Transportation Engineering)

6.社会工学部(Human Settlements Development)

計画開発コース(Planning and Development)

農村開発コース(Rural Development Planning)

7.産業工学部(Industrial Engineering and Management)

8.構造工学部(Structural Engineering and Construction)

構造工学コース(Structural Engineering)

建設工学コース(Construction Engineering)

9.水資源工学部(Water Resources Engineering)

水理工学コース(Hydraulic and Coastal Engineering)

かんがい工学コース(Irrigation Engineering)

水資源開発コース(Water Resources Development)

そして,図書館,語学センター(Language and Media Center),計算センター,研修教育センター(Continuing Education Center)がある。現在,学長は米国出身のR. B. Banks教授であり,教育研究担当副学長は,バングラデシュ出身のM. N. Sharif教授,渉外担当副学長はフィリッピン出身のR. P. Pama教授,事務担当副学長はオーストラリア出身のK. R. Long氏である。

教官陣は,大別して先進国からの派遣教官と,AITが給与を払っている教官とが半々で、あり,その出身地は第1表のように21カ国にわたり,日本からは常時6名で任期2年で派遣されている。総学生数は,1979年9月学期で516人で,第2表のようにその出身国は26カ国にわたり,アジア以外のブラジル,アフりカ,サウジアラビヤ,米国,英国からも若干名きており,日本からは4名で、ある。また,学部別学生数は,第3表のように各学部20−40名で,農業食糧工学部で、は37名であるが,1月になると新入生が35名加わって70名を越える。教官/学生比は約1:8で,教官はかなり忙しいことになる。

 

第l表 教官数

 

September Term 1979

 

Prof.

Assoc. Prof

Asst. Prof.

Inst.

Total

Australia

 

1

 

1

2

Bangladesh

1

     

1

Belgium

   

1

 

1

Canada

 

2

   

2

China, Rep of

1

     

1

Denmark

 

2

   

2

France

1

1

2

 

4

Germany

 

3

   

3

India

 

2

2

 

4

Israel

 

1

   

1

Japan

1

5

   

6

Khmer Republic

         

Nepal

   

1

 

1

Netherlands

 

2

   

2

Philippines

1

 

1

 

2

Sri Lanka

1

2

   

3

Switzerland

 

1

   

1

Thailand

3

4

10

 

17

U.K.

 

3

3

2

8

U.S.A.

3

 

1

 

4

Vietnam

   

1

 

1

Total

12

29

22

3

66

 

第2表 学生数

Country

Number Of Students

Country

Number Of Students

Country

Number Of Students

Afghanistan

6

Japan

4

Saudi Arabia

1

Bangladesh

41

S. Korea

9

Singapore

2

Brazil

1

Malaysia

33

Sri Lanka

54

Brunei

1

Nepal

16

Thailand

105

Burma

4

Nigeria

2

Uganda

1

Hong Kong

9

Pakistan

33

U.K.

2

India

36

Papua New Guinea

2

U.S.A.

3

Indonesia

43

Philippines

52

Vietnam

9

Iran

2

Republic 0f China

45

Total

516

 

第3表 学部別学生数

 

September Term l979

 

Dip.

Masters

Doctors

Other

Total

Agricultural and Food Engineering

1

34

2

 

37

Computer Applications

1

27

 

2

30

Environmental Engineering

 

48

4

15

67

Geo-technical and Transportation Engineering

11

85

2

24

122

Human Settlements Development

2

58

 

3

63

Industrial Engineering and Management

 

49

6

 

55

Structural Engineering and Construction

 

47

1

 

48

Water Resources Engineering

2

61

4

1

68

Regional computer Center

     

26

26

Total

17

409

19

71

516

 註:Dip.は, 研究生, Otherは,短期研修生

 

キャンパス内の施設は,160ヘクタール中約3分の1の敷地に建物が集り,上図のように研究棟(1・2)を中心に,計算センター(3, IBM3031 Mode16),AITセンター(4),ブール(5),事務†れ(6)が東側にあり,その外側は9ホールのゴルフ場になっている。南側には,サーカー場(7),学生センター(8),教官宿舎(9),学牛宿舎(10,11,12),学生食堂(13),テニスコート(14),ホッケー場(15),クリケット場(16)がある。西側には,試作工場など(17),建設中の新図書館(20)がある。そして北側には,実験棟l(18),苗圃(19),エネルギー工学棟(21,22建設中),展示住宅(23).職員住宅(24)があり,全体の西側に実験圃場や未利用地が広々とつなかっているという配置である。学生宿舎からほとんどの建物までは,渡り廊下によって連絡しており,雨の日でも夜でも学生はいつでも自由に図書館や計算センターに通えるというめぐまれた環境である。AITセンターは,国際会議場(600席)を中心に,中・小会議室,本屋売店,ポスト,理髪店、クリニック、印刷所,旅行代埋店などかあり,ホテル60室はレストラン,広いロビ一を加えで一流ホテル並みである。また,学生はセンター内のビリヤード,卓球場,ピアノ室などを活用している。また,事務棟には銀行の支店か設置されており,全建物のうち,学生宿舎と一部の実験棟を除いて空調施設がととのっているので,学生はますます図書館,計算センターヘ通いたくなるという仕組みになっている。

 

運営および財源

AITの運営は37名からなる評議員会が行っており,議長はタイ国政府副総理のタナット・コーマン博士,副議長は英国のP.アイザック教授である。わが国からは,現在元東工大教授吉川秀夫博土,元アジア開発銀行総裁渡辺武氏,および、駐タイ国大使小木曽本雄氏の3名が加わっているが,1981年から前二者の代りに,筑波大教授椎貝博美博士および松下電器株式会社副社長原田明氏が評議員となる。

評議会の方針に基づいて,学長は,副学長の補佐を得で教授会(月に1回くらい全学で)にはかりなから運営を行っているが,日本の通常の大学とは異なり,学長や学部長の権限は非常に大きく,それなりの長所短所が見受けられる。例えば,副学長・学部長は学長の意向によって決められる。学部内の教授会も月に1回ほど開かれるが,予算・人事など学部長の意向で決められることが大部分である。

また,各部門の女性秘書は,非常に有能で、一日中忙しくタイプを打っており,事務処埋もてきぱきと片づけ,彼女らだけは明らかに日本人よりよく働くと感心させられる。その彼女らの給料は3−6万円で,タイの公務員の平均給料よりはよい。

ちなみに,副学長は2500ドル,教授は1000一25ooドル,準教授は800−15ooドル,助教授は550−1100ドルという月給で,バンコクの大学に較べると格段によいので,東南アジア出身の教官にとってはAITは非常に住み心地がよいようである。

さで,その給料などの財源は,みな各国政府,団体基金,企業などからの寄付によるもので、1979年予算は2150万ドル(約45億円)で,その国別内訳は第4表のとおりでオーストラリア,カナダ、タイ,台湾,日本の順で,最近,オーストラリアの進出がめたつ。

また,そのうち奨学金は361人分(内修士321)で,その内訳は各国政府から264(内,日本から12),国連から35,基金から44(内,日本経団連から10),企業から17(次年より久保田鉄工KKから1名分予定されている),個人からlという割合である。

修士の奨学金は,1人20カ月で・13,000ドルで・あり,そのうちl0,000ドルが授業料(5学期分)で,宿舎費200ドル,本代500ドル,食事費2,300ドルとなっており,食事費のみ月々2,300バーツ(約2万5千円)が学生に直接渡される。

 

第4表 1978−1979年の寄付国

オーストラリア

17.7 %

カナダ

17.6

タイ

13.4

台湾

7.8

日本

5.1

オランダ

3.5

英国

2.5

西ドイツ

2.5

米国

2.2

デンマーグ

2.1

ノルウエー

1.5

ニュージーラント

1.3

ベルキー

1.3

スイス

1.2

フィリッピン

0.6

フランス

0.3

インドネシア

0.2

 

写真: 卒業式風景(ガウンを着で重々しい)

 

日本との協力関係

AITへの日本からの協力は,1970年から教官を派遣したことに始まり,現在,日本人教官は,長期(任期2年)6名と,短期(2一3カ月)2−3人か毎年派遺されている。現在長期では,梶(東工大・社会工学),大田(京大・土質工学),小川(東北大・建築構造),渡辺(宮崎大・衛生工学),阿部(東北工大・水理学)と私の6人,短期では西野(東大・構造工学),熊谷(名工大・経営工学)の二教授か来ておられる。昨年までは椎貝教授(筑波大学・海岸工学)がAIT副学長の要職をしめておられた。

また,1971−1973年に,総額8億7千万円でAITセンターを建設した。本センターは前述のように,国際会議場,ホテル,クリニック施設等を含む総合施設で,現在キャンパス機能の中心となっている。昼食時など,近くの日本企業の方など多くの人々が利用している。そして現在,再び8億7千万円の予算で,新図書館メデアセンターを建設中で,未年度完成すると,アカデミック施設の中心として活用されることになる。なお,研究機材費として毎年2干万円,連営費1千万円が外務省から,日本人教官の研究費その他がJICAから数百万円支出されている。

 

農業食糧工学部

本学部は,1977年,地域開発学部を改組して新たに発足した。現在,準教授G.シン博士(農業機械・インド・カリフォルニヤ大)が学部長で,準教授S.E.オルスン博士(土壌物理・デンマーク・王立農業大学コペンハーゲン)が副学部長として運営に当り,教授はコーウェル博士(農学機械・イギリス),二一ルスン博士(作物・デンマーク)が帰国したので・私1人,準教授はP.エドワード博士(水産学・イギリス),W.エッペンドハー博士(作物・デンマーク),D.ジークラフ博士(農業機械・イギリス),V.ジンダ・ル博士(食糧工学・インド),助教授としてA.アヌクラパイ博士(農業水理・タイ)の8人か常勤メンバーで,2人の非常勤教官とで・教官陣を構成している。

そのほか,研究教育助手が7人,秘書3人,技宮2人で,合計約20人が本学部に属している。

学生は博士課程か2人,修士課程が36名,研究生が7名の計45名で・あるか,入学時期が1月で、卒業が8月であるので,来年1月になると約35名の新入生を迎える。

学生は,主として3コースに別れて修士論文研究を行う。現在農業土木コースが16名,農業機械コースが23名,食糧工学コースが6名である。

1月に入学した修士の学生は,1月学期,5月学期,9月学期の3学期で、30単位以上を修得し,つぎの1月学期,5月学期の2学期間で修士論文研究を行って,8月に卒業するというのが通常のコースである。入学者中,9割ぐらいが無事,修士の証書を手にすることができる。というのは,進級制度が日本に較べで非常にきびしく,最初の1学期に平均点2.5以下をとると自動的に退学となる。成績はA(4),B+(3.5),B(3),C+(2.5),C(2.0)D(1)で評価され,全学生の平均点が3.2ぐらいであるから,30歳以上の年配の学生や基礎の弱い学生は進級するのが大変むずかしい。

さで,授業科目は,各コース別で・第5表のように必修科目6,選択科目22が用意されており,科目番号のAEは農業食糧工学部開講のもの,WRは水資源工学部,MA‐CAはコンピュータ工学部の開講が示すように,他学部の授業も自由にとれるようになっている。授業時間は,1時間,14週が1単位となっており,朝の7時45分に始まり,午後3時15分で終る。授業は正味1時間ずつ行われ,宿題や中間試験,期末試験で,きびしくしごかれる。一方,見学旅行やスポーツデーにはみんなで愉快にすごすという学園生活である。

 

第5表-l 農業土木コース

 

必修料目

l.AE.01 Introduction to Tropical Agriculture(3)熱帯農業

2.AE.21 Soil Physics(3)土壌物理

3.AE.25 Soil conservation(3)土壌保全

4.WR.52 Irrigation Engineering(3)かんかいl学

5.MA.01 Mathematical Techniques for Engineering(3)工業数学

6.MA.25 Statistical Methods and Experimental Design(3)統計および実験計画

選択科目

7.AE.02 Agricultural Development in Asia(3)

8.AE.03 Aquatic Food Resources(3)

9.AE.11 Instrumentation and Measurement Techniques(3)

10.AE.13 Agricultural Systems Engineering(3)

11.AE.22 Plant Nutrition(3)

12.AE.23 Soil Science Laboratory(3)

13.AE.24 Soil and Land Classification(3)

14.AE.32 Agricultural Mechanization and Management(3)

15.AE.34 Land Development Machinery (l)

16.CA.01 Computer Technology I(3)

17.GT.12 Airphoto Interpretation(3)

18.HS.42 Integrated Rural Development Workshop(3)

19.WR.01 Fluid Mechanics(3)

20.WR.04 Fluid Mechanics Laboratory (l)

21.WR.17 Ground Water Development(3)

22.WR.53 Drainage Engineering(3)

 

第5表-2 農業機械コースの授業科目

 

必修科目

l.AE.13 Agricultural Systems Engineering(3)農業システム工学

2.AE.31 Theory of Field Machinery(3)圃場機械学

3.AE.32 Agricultural Mechanization & Management(3)農業機械化

4.AE.42 Food Process Engineering(3)農産加工学

5.MA.01 Mathematical Techniques for Engineering(3)工業数学

6.CA.01 Computer Technology I(3)コンピュータ(I)

選択科目

7.AE.01 Introduction to Tropical Agriculture(3)

8.AE.02 Agricultural Development in Asia(3)

9:AE.03 Aquatic Food Resources(3)

10.AE.11 Instrumentation and Measurement Techniques(3)

11.AE.12 Control Theory(3)

12.AE.25 Soil conservation(3)

13.AE;33 Agricultural Machinery Laboratory (l)

14.AE.:j4 Land Development Machinery (l)

15.AE.41 Physical Properties of Food Materials(:3)

16.HS.42 Integrated Rural Development Workshop(3)

17.IE.01 Management Concepts and Methods(3)

18.IE.11 Introduction to Operation Research(3)

19.IE.24 Management Economics(3)

20.MA:12 Numerical Analysis(3)

21.MA.21 Applied Statistics(:3)

22.MA.25 Statistical Methods and Experimental Design(3)

 

研究テーマを昨年のリサーチサマリに見てみると,「太陽エネルギ一利用の冷凍機」「太陽エネルキー利用のポンプ」「ハンマーミルと穀粒の物理牲」「安価なドライヤー」「廃水池における養魚」「デンマーク式施肥法と稲作」「バナナ土産のシスでム解析」「フィリッピンの小流域における水収支」「連続地形における水収支」「さとうきび・切断におけるシミュレーション」「パキスタンにおける蒸散水シミュレーション」「各種条件下における去勢牛の作業能カ」「畑作体系の評価」「三連プラウの牽引抵抗」「総合精米施設のケーススタディ」「とうもろこしの栄養制御」「溝かんかい法の評価」「降雨模型実験装置」「廃水のとうもろこしへの肥料効果」「もみ乾燥のシミュレーション」「土壌のPHコントロール」「トラクターのスリップ制御シスでム」「東北タイにおける漏水問題」「浸透モデルの研究」「東北タイにおけるエロージョン」「もぐら暗きょの設計」「各種土壌・気候と作物水分需要」「総合農場」「下肥の再循環」「タイ中央平原における小規模養魚」「東北タイにおける小規模かんがい」など,広い分野をカバーして行われている。

また,本年度の学生研究テーマをみでみると,「パイナップル廃棄物の飼料化」「ハンマーミルのシミュレーション」「去勢牛の作業能カ」「フィリッピンにおける機械化体系」「農業シスでム別エネルギー」「ココナッツの熱帯性」「呼吸によるもみの劣化」「トラクタ性能の計算モデル」「かご車輸の設計」「稲作機械の浮力についで」「田植機の設計と改良」「タイ製トラグターの性能」「マイクロコンピュータによるデータ処理」「フィリッピンにおけるエロージョン問題」「タイにおける風力エネルギー」「排水の研究」「雨量のシミュレーション」「とうもろこしへの肥料効果」「かんがい効果の研究」「水路網の適正化」「用水の適正化」「主要作物への水管理」「しろかき土壌の物理性」などと,これまた非常に多くのテーマについで研究が行われている。

これらの研究のための実験器具,測定器についでみると,日本の通常の農学部にある程度の装置は大体所有しているが,記録用紙やストレンゲージなどの消粍品の入手に手間がかかることが多いのは不便である。ちなみに,農用トラクターは,5台保有している。

また,エレクトロニックショップ,金属加工工場,木工場などを有し,測定器具,装置類の製作は一通り可能である体勢が作られている。しかし,日本と同しような能率をそれらに要求するのは少々無理で,かなりの時間を要すると思って仕事のスケジュールをたでる必要かある。

また,教官の研究発表を論文数でみると,昨年l年で・48編(8人)と,1人、l{均6編と多いのは,AIT内の教官の評価の問題とかかわり,質より量という感しがないではない。しかしなから,タイのほかの大学の研究状態に較べると雲泥の差で,AITの研究内容は高く,国際的にも通用する内容も少なくない。

 

AITの将来

このような教育研究機関の成果は、数十年を経てみなければわからないのが普通である。AITの卒業生は,主として母国へ帰ってエリート官僚,大学教官,会社幹部として活躍している人が多く,タイの石油公団総裁トンチャット,H博士や,農林副大臣アナット,A.博士は,AITの第l期生(1962年)である。

土木工学中心の大学院から,近年,農業工学,コンピューター,エネルギー.環境工学と,あらゆる工学枝術をカバーする方向にあり,あわせて社会工学や社会科学,医学等にも拡大していく意図を持っている。とくに農学部門では,キヤンパス内に水田15ヘクタール,畑地l0ヘクタールの実験圃場を整備し,工学と農学の両面からの研究に意欲を示している。日本の熱帯農業研究センターや各大学農学部との協力が望まれる。

また,国連大学は現在,活動していないようであるが、このAITを国連大学工学系大学院とし,さらに農学系大学院に発展させていきたいものである。

その理由は,現在、日本はいろいろな形で技術協力を国際的に行っているが,最も効果のあるのは,人材養成,とくに途上国においては修士号,博士号を持つエリートの影響力がいかに大きいかということを体験しているからである。

〔主な参考責料〕

l. 竹宮宏和: アジアの高等教育・研究機関としてのAIT。土木学会誌。9月号1977。

2. 椎貝博美: AIT副学長の体験から,土木学会誌8月号1979

3. 原口紘: タイ国学術調査団に参加して。化学の領域 343,1980。

4. Research Summary AIT. 1978-1979.

5. AIT Annual Report. 1979.

6. Asian Institute of Technology 1959-1979.

7. Prospectus for l980. AIT.

8. Catalog of courses. 1979-1980.

9. Facts about AIT.パンフレット

10. AIT Campus Guide. パンフレット

11. AIT Center. パンフレット

12. AIT Review. 季刊


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