廿七年度東大教養学部 理二 六B 1953.5.28           戻る

追思  48p          復刻 by 林尚孝

彼十題
建部 克昭

彼は与太者である。
何故ならば彼は弱虫で見栄坊で「没分暁漢」であるから。

彼は多くの人の熱狂している事に冷かである。
そして多くの人の冷たい事に熱狂している。
彼は天才か馬鹿かとちらかである。
しかし何れにしても彼は悪人でない。

彼は幸福である。
何故ならば彼は頭が悪いから。

49p
私は彼が羨ましい。

彼はクリスチャンで、音楽愛好家であるらしい。
彼はホラふきであるけれども、うそつきではない。
うそつきであっても、ホラふきでないのは多い。

彼は専門家である。
何故ならば彼は、彼の専門外のものは何もできないから。

彼は確固不動の精神を持っている。
しかし彼は、地球以外に星というもののあるを知らない。

彼は忠実である。
何故ならば彼は不忠実な行為をする事が出来ないから。人間は片輪であってはならない。
しかし大抵の人は、皆片輪である。

彼はいつでも苦虫をかみつぶしたような顔をして空間を見つめている。
彼は大きくなったら大人になると云っている。
彼の先輩は葉を喰いしばって地面を見つめていたのだ。

彼の座右銘
「急ぐものは疲れ、休むものは遅る。」