廿七年度東大教養学部 理二 六B 1953.5.28           戻る

追思  14p          復刻 by 林尚孝

ベストテン雑感     西林 忠幸

16p
ある私立大学の話であるが国文科の試験問題に、明治以後の文学作品からベストテンを年代順にあげ感想を記せという問題を出したそうである。教師の意図として、学生がどれだけ作品を読み、また自分の批判力を養っているか、又文学史的知識をどの程度たくわえているかを答案により知ることが出来ると思ったのである。教師はベストテンということ自体を知らぬ大学生がいるとは思いもしなかったのだ。作品の名を十七、八もあげている学生がいるので不思議に思ってよく見ると、彼はベストテンをベスト点と理解して、せっせと作品の名をあげているのだ。これにはその教師も唖然としたそうである。又ベストテンの真意を知らず、その結果、「本年度○○ベストテン五人をあげよ」なんていう傑作なる名言をはく人もなきにしまあらずなのである。このことと、新聞紙上の広告などにベストテンの名を冠せられた出版物の数が軽く十指を越える現象とを考えあわせたとき今日ではベスト十=ベスト点の感じである。ベストテンを選ぶことが世の中にはやっているとしても、ベストテンをベスト点と解する様な連中には何の害毒をも与えないことだけは確かだあろう。
 結論すれば、ベストテンにもよりけりで、名物投票、美人投票、景色ベストテンなどは手前ミソで信を置くに値せず、映画、出版のベストテンは、或る程度の便宜さを認め得るものの、それによる害もあり、内外十大ニュースは一ヶ年間に起った出来事を整理する意味に於て有意義ではあろうが、日本と外国のそれを比較してみて、ニュースの重要性なるものは国が変わることで変わるものだということを知るにとどまる。
 野次馬的な気分による頭を整理する一方法だと単純に思えば罪はない。真剣にその??、影響を考えることは馬鹿げている様な気もする。一般人にとって、害もなければ益もなしといった所が正鵠を得た処ではないだろうか。