廿七年度東大教養学部 理二 六B 1953.5.28 戻る
追思 28p 復刻 by 林尚孝
Tさんへ
森川 昭
Tさんには、さぞ良き年をお迎へなされし事とお慶び申上候。正月も早二日、羽根つきの音のガラス戸越しに聞ゆるも、まことにのどかなる一日、筆とれば物書かるとやら、徒然なるままに一文を綴りて候。御覧下されば幸甚。
窓辺に射し来る夕陽は赤くして、天高く鱗雲の片々たり、書を読みさして景を賞づるの楽しさよ。見よ窓?なるもろこしの葉に一個の怪物住みたり。?、彼も又此の夕景を楽しむなるべし。
カマキリの動かぬままに日は沈む
◇
月は東に日は西に、今宵は中秋の名月、??に飾りたるススキ、はた又カキなど、いかにも??????なり。
名月に影踏んで行く子供かな
名月を照り返したる鬼がわら
相模野は遠く動く砂利船のひびきに今明け行くなり。昨夜の月の清さを残せる霜の白さよ。
初霜や炊煙からむ高ひさし
枯川に湯気三尺や霜の朝
◇
師走の寒風漸くにして止みぬ
寒々と月に日の暮る年の暮
◇
松の木の間を白帆が通る。相模野に夏の風をば送るなり。
相模川初夏の風あり白帆あり 2001/1/1
30p
空もあり浮標もありけり秋の水
思い出に幼心や秋の水
◇
三年ぶりの正月。一陽来復して正月又たのし
歌留多よし、追羽音もよし、酒もよし
◇
読み返すに、まことに夢者?夢言するには似たれども、才拙きは如何せん。まづは御勘弁被下度候。