廿七年度東大教養学部 理二 六B 1953.5.28           戻る

追思  69p          復刻 by 林尚孝

『新グラニット』
三神正人

 この物語は、我々6Bの人達の名字を組み合わせ、更にシュティフターのグラニットを真似て作ったものです。
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 「チン、チン」かねの音がします。あの音を聞くとワタしはあの事を思い出すのです。
 そう、この子よりミツダケ小さい時、あの音を聞きつけて外に出てみると、近所のかかアタチがイリマヂって、ヤスイ油をオオツボにもらっているのです。私も、母親の云いつけで、父親のテツカぶとを持ち出し、一杯もらいました。オダちんをもらおうと急いで家に入る時、つまずいてヨコタおしになり、油をひっくりかえしてしまいました。マツイ事になったものです。これを見た母親は、タダではおかぬとオノを振り上げたのです。私は一目散に逃げ出して、家の裏で泣き倒れていました。すると、やさしいおじいさんが来て、「タテ、べそをかくな。裏のカミヤマに一緒に登ろう」と云いました。ウメバヤシを過ぎ、モリカワ沿いに上がると、ニシバヤシの中からヤギの鳴き声が聞こえて来ました。やがて頂きに着くと、そこにはミカミ様を祭ったタカミヤがアリマした。それは、二坪カミツボのお宮で、年取ったオキナガ一人住んでいました。その傍には高イシイの木があり、その梢でハットリが楽しげに鳴いて居りました。
 そとは、又、素晴しく眺めのよい所です。おじいさんは色々説明してくれました。
 「ほら、すぐそこの谷がオケタニで、その向こうがシバオカだ。その丘の向う側に、キタムラとナカムラがある。あのシバオカの左の方に、オオ(きな)クボ地が見えるだろう。」
 「ヤー、グロースファーター」
 「あれは、アサミると素晴しいんだよ。そこのスケマツの枝の間から見えるのが、ササキのハヤシさ。そこの林の中には、又、素晴しく沢山沢があってね。イサワ、クロサワ、トミサワ、……」。はゝあ、坊主、こんな話はアキタか。それじゃ、昔流行した伝染病の話をしてやろう。わしのおじいさんが子供の頃、こゝら一帯に、大風邪と大飢饉がやって来た。ツカハラにあるノムラではフジタからは米が殆ど取れず、マツダの田で、シオヤきじいさんの作ったホリゴメという代用米と、ヒロッタ桜の花ビラオ食べたそうだ。風邪の勢いも又格別で、イトウりのおじさんなんか、食べ物をあさりに家を出たサイ、トウとう家ノモトり道で死んでしまった。所があな恋しヤ、マダセキが止まらないのだ。そこで人々は、死体を
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カジヌマから流れ出るウチカワに棄てゝしまったそうダ。ナカなか事はうまく行かぬものさ。その夜から毎晩糸売りの化物が出る様になった。人々は、コウノろわれてはかなわぬと、フロ(ル)ヤの花コ、ナカコ、ミヤさんの三人娘を生けにえにして、やっと糸売りの呪いを解いたということだ」  (完)
                                 2003/1/25