廿七年度東大教養学部 理二 六B 1953.5.28 戻る
追思 71p 復刻 by 林尚孝
騎士(ないと)
有馬孝昌
快晴だった。武蔵野は春の日を浴びて無限に広かった。新芽は麗らか、小鳥の声は楽しい。小川に走る水ぐもと手をくんで私は土手を歩く。
私の後から中年の婦人とその娘であろう。赤いスェターと青い帽子が印象的だ。辺りには、私、二人、水ぐも、そして春風−−−。
突然、「あゝ」という叫び声に振り向く。娘の帽子がとんで小川の水の上に。
私はす早く引返して帽子を取ろうとする。足がすべるはずみに川の中に落ちてしまった。帽子を渡す。ぬれた服。二人は全くすまながって、礼を云ってくれる。満足。服をぬいで乾かす。乾き方がいやに遅い。寒いじゃないか!
私の掛けぶとんがベッドから落ちて居た。
ドンキホーテは楽しかったろうとねぼけた頭で考える。
終
2003/1/26