![]() The Last Dance Of Mr X 1997年発表 |
アンディー流ジャズ/フュージョンの過渡期に発表された傑作 |
アルバム紹介:パラダイス&ランチ アルバム収録曲に目を通すと一目瞭然だが、 アンディーが次々と発表したフュージョン作品の中にあっても最もフュージョン/ジャズ色の強い作品と言えるだろう。 収録曲9曲中ジャズのスタンダード・ナンバー6曲を取り上げている。 これまでの経緯からジャズへの更なる傾倒は予測できたことだが、 本作はアンディー流フュージョンの総決算的な側面と、更なるジャズへの傾倒が色濃く表れている、 ミュージシャンとしての過渡期に当たる作品と位置づけられるだろう。 収録中で最も異色?と思われるのは、冒頭に収録されている「ビック・シング」と言える。 この楽曲は90年の作品『Charmig Snekas』に収録されていたナンバーである(アンディーのフュージョン作第一弾)。 サマーズ(Guitar)、ハービー・ハンコック(Keyboards、Piano)、ヘンチェル(Keyboards)、 チャッド・ワッカーマン(Drums)と言ったそうそうたるメンバーで演奏されアルバムの中核的をなす楽曲であった。 『Charmig Snekas』に収録されていたヴァージョンはハード・コア・フュージョンと称されたアルバムの象徴でもあったが、 今作に収録されているヴァージョンはアンディー、ジェリー・ワッツ、バーニー・ドレセルの3人によるシンプルな構成で、 アンディーのギターをより全面に出し、リズム隊の思いリズムと拮抗させる感じに仕上がっている。 この楽曲はアンディーのフュージョン/ジャズの流れで語るよりも、 アンディー流のギター・インスト(ロック・インスト)を代表する楽曲として捉えるのが良いだろう。 中間部でアンディーが奏でるクリームのヒット曲「サンシャイン・オブ・ユア・ラブ」のリフがそれを物語っている。 この曲に続く「ザ・スリー・マリアス」(オリジナルはウェイン・ショーター)のギターの多重録音を行ったナンバーで、 ショーターの浮遊感のある楽曲をアンディーは流暢なリードでメロディアスに奏でている。 『Charmig Snekas』の路線上にあるスタイルと言えるだろう。 又、この曲に続く「ストレンジ・アース」(アンディーのオリジナル)や、「アフロ・ブルー」(原曲はアフリカ民謡)などに見られる、 ギターもメロディーがこの世の物とも思えない美しく、ロマンティック、エモーショナルとしか言い表せない、 切ないメロディーが敷き詰められた色彩豊かな作風は、 91年に発表された『World Gone Strange』の際だってメロディーの美しい世界を踏襲した物と言えるだろう。 前半に収録されているこれらのナンバー達に耳を傾けるだけで、 アンディー流フュージョンの最良の部分は美しいメロディーに尽きる事を再認識させてくれる。 これに続く「ザ・ラスト・ダンス・オブ・ミスターX」(アンディーのオリジナル)はタンゴとスカのリズムが交錯する、 いかにもアンディーらしいナンバーである。この手のアバンギャルドな世界はアンディーの特有の世界か? ギターとリズム隊を拮抗させた作りは「ビック・シング」同様にアンディー流のギター・インストの完成型と言える。 これまでの流れが、ある意味アンディー流ギター・インストの総決算と呼べそうですね。 これに続くナンバーはピアノの巨匠ホレス・シルバーの美しいバラード・ナンバーである「ロンリー・ウーマン」である。 4ビート・タッチで演奏される楽曲がいよいよ登場したって感じですね。 アンディーのギターもメロディーを淡々と奏でており、いわゆるジャズ・スタイルである。 これに続くナンバーはセロニアス・モンクの代表曲の一つ「ウィ・シー」である。 ここでは前曲に続き4ビートでプレイしている。過去にもモンクの楽曲を事有る度に取り上げてきたアンディーですが、 4ビートでプレイするのは、この楽曲が始めてではないだろうか? これらの楽曲に続きアンディーのオリジナル「ランベルスティルトスキン」「夢遊病者」が収録されている。 どちらもアンディー流フュージョンの流れをくむ作品だが、 ギターのトーン(コード)がジャズっぽく聞こえてくるのは気のせいだろうか・・・。 取り分け独自なハーモニー感覚を持ったギター・コードを披露している「夢遊病者」に耳を通すと、 ヴォイシングで語られることの多いセロニアス・モンクを意識しているようにも感じてします。単なるファン心理に過ぎないか? アルバムの最後を飾る2曲はウェイン・ショーターのオリジナルである「フット・プリンツ」そして、 偉大なるジャズ・ベーシスト、チャーリー・ミンガスが、 これ又偉大なるサックス奏者レスター・ヤングに捧げた悲壮感溢れるレクイエム「グッパイ・ポーク・パイ・ハット」である。 「フットプリンツ」はアンディーのブリティッシュ裏街道30年を振り返るようなブルージーな演奏が為されている。 「グッパイ・ポーク・パイ・ハット」はジェフ・ベックやジョニー・ミッチェルがカヴァーしたことでも知られる名曲であるが、 アンディーは多重録音を用いて情熱的なギター・ソロを展開している。 アルバムを締めくくるに相応しい名演が為されている。 この2曲に耳を通すとアンディーの音楽指向が更なるジャズへの傾倒へと向いている様に予感させる。 このアルバムを一言で言い表すとすれば、 やはりアンディー流ジャズ/フュージョンの過渡期に生み出された傑作と言えるだろう。 90年代を通してアンディーが奏でてきた演奏の最良の部分は、やはり美しいメロディーに尽きるだろう。 日頃ジャズを聴かない方々にもこの作品には馴染めやすいのではないかと感じている。 やはり名盤だ。 |
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収録曲 1 Big Thing ビック・シング 2 The Three Maria's ザ・スリー・マリアス (オリジナルはウェイン・ショーター) 3 Afro Blue アフロ・ブルー (オリジナルはアフリカ民謡) 4 Strange Earth ストレンジ・アース 5 The Last Dance Of Mr X ザ・ラスト・ダンス・オブ・ミスターX 6 Lonely Woman ロンリー・ウーマン (オリジナルはホラス・シルバー) 7 We See ウィー・シー (オリジナルはセロニアス・モンク) 8 Rumpelstiltskin ランペルヅティルトスキン 9 The Somnambulist 夢遊病者 10 Footprints フットプリンツ (オリジナルはウェイン・ショーター) 11 Goodbye Pork Pie Hat グッパイ・ポーク・ハット・パイ (オリジナルはチャーリー・ミンガス) |