Eric Burdon & The Animals / Love Is
エリック、ズート、アンディー、3人の音楽的過渡期に生まれ出た名盤

収録曲

1 リヴァー・ディープ、マウンテン・ハイ
2 アイム・アン・アニマル
3 アイム・ダイイング、オア・アム・アイ?
4 リング・オブ・ファイヤー
5 カラード・レイン
6 ラブ・サム・バティー
7 時は流れて
8 ジェミニ
9 マッド・マン


あれこれ、胸中の思いを徒然に・・・

やはり、この作品との出会いはアンディー・サマーズがメンバーとして参加しているからだ。
アンディーの音楽キャリアーの始まりは同郷の仲、ズート・マネーと共に始めた、
ズート・マネー&ザ・ビック・ロール・バンドである。
バンドの魅力はズート・マネーのR&Bに根ざした黒っぽいボーカルと、
彼のオルガン、2ホーン、ベース、そしてアンディーのギターである。
デビュー当時、クラブで行われていたライブは”ズート体験”などと言われて、モッズ達が好んで聴いていたらしい。

しかしながら60年代中期になるとビック・ロール・バントを発展させた?
ダンタリアンズ・チャリオットを結成してサイケデリック色の強い作品を発表する事になる。
シタールなどをフューチャーした楽曲等も収録されたところを見ると、
この頃サイケを取り込んだ名盤を次々とリリースするビートルズとリークしている気が何気にしてしまう。
そう、キーワードはサイケデリックである。

60年代に巻き起こったカウンター・カルチャーと言えば、
アメリカ西海岸のサンフランシスコを中心にしヒッピーと呼ばれた人達のフラワー・ムーブメントであり、
モンタレー・ポップ・フェスティバルが開催された67年はサマー・オブ・ラブと呼ばれていた。
ジャニス・ジョップリン、ジミ・ヘンがシーンに登場したのもこの年である。
サイケはフィード・バックやファズ・トーンなどを用いた即興演奏と、
ライブでライティング、スモークなどを巧みに使いLSDの疑似体験を醸し出すステージングが特徴だ。
サイケの言葉ですぐ思い出すのはアーティストは、
ジェファーソン・エアプレイン、ヴァニラ・ファッジ、パパス&ママス、ドアーズ辺りか。

話は反れたが、イギリスのアーティスト達もこの流れに敏感に反応していたらしい。
ズート、アンディーのダンタリアンズ・チャリオットもサイケ花盛りの60年代後半に結成されている。
一方のエリック・バードンは、
60年代前半にR&Bブームの中から誕生したThe Animalsのヴォーカリストである。
「朝日のあたる家」、「悲しき願い」などのヒット曲がスタンダード化されている。
彼らは2枚のアルバムを発表後に、エリック・バードン&ジ・アニマルズと改名するのであるが、
ちょうどこの頃がサイケ・ムーブメントの最中であった。
彼らは音楽活動の場をイギリスからアメリカに移している、ちょうどサマー・オブ・ラブの頃だ。
アニマルズここにあり!と言うが如く、
「サンフランシスコの夜」、「スカイ・パイロット」などのサイケ調の曲をヒットさせている。

アンディー、ズートのダンタリアンズ・チャリオット、
そしてエリック・バードン&ジ・アニマルズもサイケの影響を受けたバンドであったわけだ。
今作『Love Is』はエリック・バードン&ジ・アニマルズのラスト・アルバムである。
アンディー、ズートがアニマルズに参加する事になる経緯はやはり、
同時期に両バンドとも音楽的過渡期に有った事と”サイケ”が共通項になっているのだろう。

ズートに関して言えばエリック・バードン&ジ・アニマルズの前作『エヴリ・ワン・オブ・アス』からの参加になる。
彼が参加した背景を察すると、
アニマルズのオリジナル・メンバーでオルガン奏者のアラン・プライスが脱退し、
アラン・プライス・セットを結成した事で、新たなるキーボード奏者が必要になった事も有るようだ。
アニマルズにはギタリスト、ジョン・ワイダーがいたが、
ズートがダンダリアンズ・チャリオットでは不完全燃焼だったサイケを結実させるべく、
アンディー・サマーズをメンバーとして召集したのであるう。

前置きが長くなったが今作『Love Is』はエリック・バードン&ジ・アニマルズのラスト・アルバムにして名盤である。
収録曲9曲中、オリジナル・ナンバーは、
エリック・バードン作の「アイム・ダイイング、オア・アム・アイ?」と、ズート&アンディー作「マッド・マン」の2曲だけである。
その他の楽曲はアイク&ティナ・ターナー、ジョニー・キャッシュ、トラフィック、ビージーズ等のカヴァーである。

エリックの「アイム・ダイイング、オア・アム・ダイ?」はエリックとズートが輪唱っぽく歌っているが、
ズートのリズムカルに弾むような爽やかなヴォーカルがメインにおかれている。
声質の異なる二人の歌声の対比が味わい深く、これを聴くだけでスーパー・バンドだねぇ〜って感慨に浸ってしまう。
互いにデビュー当時はR&Bブームの中から生まれてきたが、
この曲を聴く限りではエリックのヴォーカルはブルージーであり、アーシーな質感を持っている。
彼をイギリスきってのブルース・ボーカリストと称する人が多いのも納得である。
アルバム終盤の「時は流れて」で彼のブルース・マンとして偉大さを垣間見ることが出来る。

一方ズート、アンディーのオリジナル「マッド・マン」は、
クォーターマスがオリジナルの「ジェミニ」と連曲もしくは組曲と呼んでも構わない構成になっており、
「ジェミニ〜マッドマン」として扱って方が良い感じを受ける。
「ジェミニ」はダンタリアンズ・チャリオット時代にズート、アンディーがよく取り上げていた楽曲だったらしいが、
2曲を組曲としてまとめ上げる事で圧倒的な存在感を持つサイケ・ナンバーとして結実している。
「ジェミニ」ではヴォーカルがエリックからズートへと摩り替わる部分があるが、
メインに据えられてるのはエリックであり、
彼をメインに据える事でブルース、R&B、サイケの要素が多重に絡み合う名曲に昇華している。

このオリジナル2曲の扱われ方を見ると、
エリック、ズート、アンディーの立場が対等であり、3人の力が拮抗した状態でアルバムが製作されたのだろうと思う。
実のところ私はこれ以前のエリックの作品を殆ど聴いた事が有りませんし、
ズート&アンディーのダンタリアンズ・チャリオットも未聴なのです。
前述の両バンドの経緯などは、私の知っている彼らの歴史のほんの断片と、ネットで得る事のできる情報が全てである。
これらバンドの変遷に関する情報を加味すると、
互いに音楽的指向の過渡期に有ったアーティスト達が集まった分岐点的な作品なのかな?
って言う感慨に陥ってしまいます
Klark Kent氏の情報によると、その後のメンバーたちは、

>エリックは、映画俳優になると宣言しましたが、結局“黒人“になることを諦めきれず、ウォーを結成し...
>ズートは、これ以降はメインに立つ事はなく、玄人好みのミュージシャンのバッキングにまわる傍ら
>コメディ俳優としても活躍し...
>アンディは、キャリアを一旦白紙にし、単身アメリカに渡りギター学校に通い、クラシックギターの腕を磨く。 
>またズートによるとアンディも俳優を考えていたらしい...

奇しくもこの作品が発表された年は1969年である。
’67年にサマーオブ・ラブと呼ばれるフラワー・ムーブメントが、この頃には終焉に向かっていた時期であり。
’70年に入るとフラワー・ムーブメントの象徴ともされるアーティスト、
ジャニス・ジョップリン、ジミー・ヘンドリックスがドラックの大量摂取によりこの世を去っている。
この時期に来て、サイケに傾倒した、元来ブルース、R&Bに根ざしたアーティスト達も、
自らの音楽的指向を見失いつつあったって事なのだろうか・・・。

話はアルバム収録曲に戻すことにしよう・・・。
秀逸な楽曲が並んでいるが比較的ノリの良いアップ・ビート調?の楽曲たち、
「River Deep」、「I'm An Animal」、「I'm dying」、「To Love Somebody」等が、
バンド然としたグルーブ感を持っており魅力的ですが、
私の心を鷲づかみにして放さない楽曲は、それ以外の楽曲です。
「Ring Of fire」、「Coloured Rain」、「As The Years Go Passing By」、
そしてアルバム収録曲中で最も大作の「Gemini / The Madman」です。

取り分け「Ring Of fire」、そしてブルース・ナンバー「As The Years Go Passing By」は、
このアルバムの白眉と言い切っても良い感じです。
「Ring Of fire」の囁く様な、搾り出す様なエリックの歌には感極まった!
そして「As The Years Go Passing By」にとどめの一発を食らう事に成る。
「As The Year」でのエリックの歌にこそ彼の黒っぽさ=ブルースを感じます。
このアルバムの素晴らしさについて語ってきたが、
はやり見逃せないのはブルース・マンとしてのエリックのヴォーカルの存在だ。
そして面白い事に、
このアルバムはエリックをメインにした優れたブルース・アルバムの面を持っているのと同時に、
3人が取り組んで来たサイケ・ナンバーが「ジェミニ〜マッドマン」で結実している優れたサイケ・アルバムである事だ。
このアルバムは素晴らしい作品ではあるが、
含まれている要素が多彩である、言い換えればそれが散漫な印象を与えかねないとの疑念もある。
どの収録曲も長尺であることも加味すると、聴きこむ事が必要だと思う。
スルメ的な作品としていい味を出し続けると思うんだよな。

「カラード・レイン」についてコメントする事を忘れていた・・・。
このナンバーもエリックのヴォーカルが秀逸であるが、アンディー・サマーズのギター・ソロがとても素晴らしい。
アンディーに限らず、ポリスのメンバーのビフォー・ポリス作品群(サイド・ワーク)を聴くにつれ、
ポリス3人の演奏を楽しむと言うよりは、
メイン・アーティストの素晴らしさに魅了されてしまう私は、ビフォー・ポリスの考察を忘れてしまうわけです・・・。
この「カラード・レイン」以外にも「ジェミニ」などでアンディーが素晴らしいギター・ソロを演奏している。
繰り返しになるがこのバンドにおけるアンディー、ズートの存在は大きいな。

Klark Kent氏の指摘によるアンディーのギター演奏の特徴、演奏機材などについて記載しておきます。

>『Love Is』では、アンディはワウを多用していますが、
>ディレイ + コーラス + フランジャーがトレード・マークとなったポリス時代になるとワウは殆ど出てきませんね。
>「Flexible Strategies」くらいか。
>でも「Gemini」の中間部のディレイを使ったソロ(?)は、紛れも無くアンディの世界ですね。 
>フリップ氏との『Bewitched』収録の「What Kind Of Man Reads Playboy ?」の中に非常に酷似してる箇所があり、
>これを初めて聴いた時、すぐに「Gemini」を思い浮かべました。
>もう一つ興味深いのはズートのオルガン・プレイですが、「River Deep, Mountain High」を始め、
>ギターのハーモニックスかと思うような音を出しています。 
>その後アンディの必殺技の一つとなるハーモニックス・プレイは、案外ズートのプレイから影響を受けたのかもしれません。

最後に収録されているカヴァー曲のオリジナル作品(作者)について触れておきます。

1 リヴァー・ディープ、マウンテン・ハイ 1967年アイク・ティナ・ターナー『リヴァー・ディープ、マウンテン・ハイ』に収録
2 アイム・アン・アニマル 1968年スライ&ファミリー・ストーン『Life』収録
4 リング・オブ・ファイヤー 1963年ジョニー・キャッシュ『Ring Of Fire』収録
5 カラード・レイン 1967年トラフィック『Mr. Fantasy』収録
6 ラブ・サム・バティー 1967年ビージーズ『First』収録
7 時は流れて 古いブルース・ナンバーです。多数のカヴァーがありますが作者はPeppermint Harrisとの説が有力。

パラダイス&ランチではポリス関連の作品を全て名盤として紹介していまが、この作品は正に名盤そのものです。
アンディー・サマーズのビフォー・ポリス作品として収集するのも良いのですが、
エリック・バードン&ジ・アニマルズが残した名盤として、じっくりと聴きこんだ方が良いね。正にスルメ!!
あれこれと長々アルバムを紹介してきましたが、
このアルバムを聴いて私が一番関心を持ったのはエリック・バードンって男の存在だな。
この作品を勧めてくれたKent氏に感謝、感謝。


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