Klerk Kant ( Mysterious Debut )

   1980年発表作品
 
ストリートの雰囲気に満ちている!ラウドなサウンドはポリスの原石を彷彿とさせる!

紹介記事 : パラダイス&ランチ

70年代後半のイギリス音楽シーンを振り返るとパンクの台頭がまず第一に上げられますが、
加えて、この時期イギリス国内に蔓延していたのが、
2次大戦後に海を越えてやって来たカリブ海音楽のレゲエ、スカの裏打ちリズムです。
ストリート・シーンではパンクのシンプルな縦ノリのリズムと裏打ちのリズムが交配され、
新しい音としてロック・オーディエンスに熱狂的に受け入れられていった様です。
スピード感、ドライブ感、縦ノリのグルーブが生み出す高揚感に時代が傾倒していったのでしょう。
ポリスの初期に於ける作風もパンクのエッセンスを全面に出し裏打ちのリズムを取り入れる事で、
ホワイト・レゲエと呼ばれる洗練されたサウンドを構築して行きました。
その後、ポリスは当時の音楽シーンの動向を見極めてニューウェイブの先端を走る事になります。

スチュワートの変名プロジェクトであるKlark Kentは当時のストリート・シーンに満ちていた、
ラウドで泥臭いサウンドを総括、再構築したと言っても過言ではないでしょう。
全体としては初期のパンク・シーンに見られた疾走感の強い攻撃的なサウンドは影をひそめており、
ロック・ステディー〜裏打ちリズム系のサウンドで
心地よいドライブ感に充ちているリズミックで洗練された音に昇華させています。
ポリスの所謂ホワイト・レゲエ(ポリス・ビート)の洗練されたサウンドのベースを支えたのは、
スチュワートの原石を磨き上げスタイリッシュ・サウンドを構築するセンスの良さと言えるでしょう。
シングル・カットされた「don't care」「away from home」「rich in a ditch」で聴く事が出来る、
キャッチーなメロディーにはスチュワートの天真爛漫で破天荒なキャラクターが滲み出ていて心憎い。
レゲエ、スカ、パンクの影響を感じさせる縦ノリのグルーブ感に満ちています。

しかしながらこのアルバムで聞き逃して成らないのは、
「grandelinwuent」「office talk」「office girls」「kinetic ritual」
といったインストゥルメンタル系の楽曲であろう。
ドラミングではスチュワートの最大の特徴とも言える
ハイ・ハット、スネア叩きの真骨頂を見るかの様であり、
それに呼応するかの様にベースがスピード感覚を増しつつ醸し出しているグルーブ感も秀逸である。
ドライブ感、高揚感に満ちているリズム隊に刺激されたかの様に
ギターに於けるリード/カッティングも音数の少ない演奏にも関わらずメロディアスであり
楽曲を更に熱いサウンドへとコラージュしている。
ラウドで土臭さ(ストリートの雰囲気)がにわかに沸き立ち熱気に包まれてしまう!
ギター、ドラム、ベースの織りなすアンサンブルの緻密さはポリスのそれにも匹敵するであろう。

繰り返しになりますが、
パンクの持っている疾走感とレゲエ、スカの縦乗りズムを交配して”ポリス・ビート”を構築したのは、
スチュワートのリーダー・シップに依るものだった事を再認識させてくれるかの様です。

このアルバムはまさにポリス・サウンドの原石である!
ポリスがスチュワートの主導でオリエンタル指向を示しつつポップ・サウンドに接近したとされる、
第三作『ZENYATTA MONDATTA』と聴き比べると面白いであろう。
Klark Kentのサウンドにレゲエ、スカのリズムを取り入れて、
ストリートの土臭さを取り除き、洗練させたら紛れもなくポリス・サウンドではないか!

真新しい音楽の誕生の胎動を体験したい方にお勧めします。

収録曲

/ don't care
/ away from home
/ rich in a ditch
/ grandelinquent
/ office talk
/ guerilla
/ old school
/ excesses
/ office girls
/ kinetic ritual


「office talk」はイギリスでシングル・カットされた、「away from home」のB面に収録されている日本未発表曲。
「office girls」は’79年春に日本でも限定輸入発売された、
オムニバス・アルバムに収録されていたが現在は入手困難な物。
以上の2曲はオリジナル盤には含まれておらず、日本盤のみの特別収録曲です。

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