![]() I Advancd Masked 心象表現 / Andy Summers & Robert Fripp1982年発表 |
個性派ギタリスト二人の共演による深遠なジャム・セッション |
アルバム紹介:パラダイス&ランチ 同時期に音楽的な過渡期を迎えた二人のギタリストが手探りで取り組んだジャム・セッション。 後期クリムゾンを名作『レッド』で解散させたフリップは、 エイドリアン・ブリューを迎えて81年に『ディシュプリン』でクリムゾンを再始動するのであるが、 新生クリムゾンはそれまでのクリムゾンのコンセプトとは相容れない異質な物であった。 後期クリムゾンはハード・ロック的なアプローチを取り入れながらも、 常にアバンギャルドで刺激の強いトーンで人間の心のエッジ部分を鮮明に描き出していた。 それは有る意味に於いて極限状態に置かれた心理状態の描写であり、 端的にクリムゾンがデビュー当時からテーマとして扱ってきた、 <人間の心に住み着いている狂気>とも言えるだろう。 新生クリムゾンのコンセプトはフリップの言葉を借りると「バリ音楽(ガムラン)のロック版」だ。 私なりに少々乱暴な言い方をすれば、 メロディー、リズム、ビートに主体を置いてバンドの運動能力の限界を追求している。 彼らの興味は人間の心に住み着いている<狂気>を如何にパノラマ・サウンドで奏でるかではなく、 多様に絡みつくメロディー、リズム、ビートの、 運動性の追求に関心が移ったと言えるのではないだろうか? 取り分け80年代クリムソンの関心はリズムであり、 ビート・ロックへ接近したと言えるのではないだろうか? しかし、『ディシュプリン』発表当時のフリップはそのコンセプトにまだ確信を持てなかったのだろう。 彼はその迷いを払拭するするかの様に『心象表現』に取り組んだのではないだろうか? 復活クリムゾンの第一弾『ディシュプリン』と一緒に聴いてみると非常に興味深いと思う。 一方のアンディーはどうであったろう。 ポリス4枚目のアルバム『Ghost In The Machine』はシンセ、ホーンなどをふんだんに取り入れて、 重厚なサウンドを築いていた。彼らが初めて取り組んだコンセプト・アルバムであり、 ポリスがパンク/ニューウェイブから現れた一過性のアーティストではない事を知らしめた名盤だ。 しかし、アンディーが本来奏でるはずの空間にはシンセ、ホーンのパートが奏でられ、 単一フレーズの繰り返しをする楽曲が多かった事も有り、 アンディーのギターがそれらのバックに隠れる傾向が強かったのではないだろうか? 彼にとってはストレスのたまるアルバムであったと言うことが出来るだろう。 ギター・インストの作曲に取り組み始めていた頃でもあり、 アンディーの思惑とは方向性のズレが生じていたアルバムであった様にも思える。 (尚、アンディーの発言では『Ghost In The Machine』の中で演奏した数カ所のギター・ソロが、 その後のリード・ギターの演奏に対する熱い思いに繋がったらしい) サウンド的にはフリップがピッキング・ベースで敷き詰めた下地の上に、 アンディーのリードが彩りを添えるべくソロを展開している。 アンディーがリードを取るのは珍しい事だが、 これはフリップが当時『Discpline』でリズムの反復の可能性を追求していた影響や、 アンディーがリード・ギターに目覚めつつあった事が大きく影響しているのだろう。 前述の様にクリムゾンの『ディシュプリン』に類似点を認められる事などから、 一般的にフリップ色が強いと言われているが聴き返してみるとその後のアンディーの作品、 取り分け『The Golden Wire』に近い作風でアンディー色もしっかりと現れている。 又、B面に入っている「Painting And Dance」のギターリフから、 「見つめていたい」の有名なリフが思い付いたという話もある(情報:Klark Kentさん) ちなみに、このアルバムからはタイトル曲「心象表現」がシングルカットされている。 このアルバムは同時期にギタリストとしての過渡期にあった二人が作った深遠な作品と言えるだろう。 ポリス、クリムゾンの素晴らしい活動に比べると、存在意義が問われる面も確かに存在するが、 この作品を機にフリップは『ディシュプリン』のサウンドを更に発展させたアルバム『ビート』を作り、 リズミック、ビートニックな傾向に更に拍車を掛けていく事になる。 私も80年代クリムゾンの作品の中では『ビート』が秀逸だった様に思っている。 一方のアンディーも翌年発表されたポリスの『シンクロニシティー』に見られる、 凛々しいリード・ギター、繊細なピッキング・ギターなど、 このアルバムで後年の彼のギター・スタイルのベースに成っている演奏の一端が示されている。 ポリス・ファンならば、「シンクロニシティー」、「キング・オブ・ペイン」、 「見つめていたい」などにその成果を容易に見て取れるだろう。 個々の楽曲については保科好宏氏のライナー・ノーツを抜粋して転載する。 私の変な思い込みソング・レビューで納得される方はきっと居ないでしょうから(激爆) 基本的なスタイルとして、フリップがピッキング・ベースのギターでサウンドの下地を彩り、 アンディーが自由奔放にリードを奏でてアルバムの色彩を繊細、鮮明な物に仕上げてる。 ・心象表現 典型的なロバート・フリップのギター・スタイルとなっている上昇と下降を繰り返す、 半音展開の歪んだギター・ソロがフィーチャーされたナンバーです。 ・静寂の架橋 実験音楽的な色彩が強い小作品だ。 ・チャイナ・イエロー・リーダー 「チャイナ」の部分をサマーズがほとんどプレーし、 曲の最後の方に入るトランペット風のフレーズを、 フリップがギター・シンセサイザーでプレーしている。 二つの異なったメロディーの中で演奏する事によって達成できた緻密な構造が進行する。 8分の9拍子なんだけど、それに対してロバートが違った拍子でプレーしている。 ・深い森の中で 完全なるギター・デュエットの作品で、フリップがソロを、サマーズがバッキングを担当している。 ・ニュー・マリンバ 全てのギター・パートをサマーズがプレーして、フリップがバッキングでマリンバを担当した作品。 ・ブランコの少女 完全にフリップのソロで、エフェクト音にいたるまで彼が一人でプレーを担当した小作品。 ・ハーディー・カントリー サマーズのエレクトリック・シタールをフィーチャーしたナンバー。 ・神の園 このアルバムで大胆にフィーチャーされているギター・シンセサイザーによるデュエット曲。 ・絵画と舞踏 サマーズ曰く「バルトークに影響された曲で、ロバートが最初の内ちょっとしたソロをプレーし、 その後のメインのソロを僕がプレーした。」と言う完全なギター・デュオ・ナンバー。 ポリス・ファンにとって興味深いのは、あの「見つめていたい」の、 原型のギター・フレーズがここで聴ける事だろう。 ・スティル・ポイント フリップ得意のアルペジオ風コード展開に乗って、 サマーズのギター・シンセサイザー・ソロがフィーチャーされたナンバー。 ・水辺のスケッチ サマーズがバッキングに回り、フリップのソロがフィーチャーされたナンバー。 ・セブン・オン・セブン コード分解を楽しむ様な静かなギター・デュエットによる小作品。 ・心神喪失 前曲からゆっくりと連なり、不安を掻き立てる様な余韻を持つゴングの音と共にアルバムを閉じる。 アルバム・レビュー : Rolling Stone November 1982 もし貴方がギター・ロックと呼ばれるジャンルが、 将来どの様なサウンドを奏でていくのかを知りたいのならば、 躊躇う事無くこの作品に耳を傾ける事をお勧めする。 このレコード『心象現象』の持っているグルーブ感がその答えを示すであろう。 このレコードはポリスのギタリストであるアンディー・サマーズと、 キング・クリムゾンのロバート・フィリップが取り組んだギター・デュオ・アルバムである。 『心象現象』はギター・シンセの信仰者達に対する一つの声明になるであろう。 その理由の一つは、アンディーとフィリップは、 ”新しい技術がもたらしたあらゆる有効なサウンドを意味もなく取り入れて、 自らを誇示する必要もないだろう感じていた(新しい技術への固執が無い)“ 事をこのアルバムは確信させるからである。 その代わりに彼らは楽曲が必要としている要素を熟考し、 それが必要だと考える時にだけ、彼らのあらゆるテクニックを注ぎ込みます。 つまりはバック・ボーンに立ち返り、 彼らの培ってきた演奏スタイルもしくはフレーズ・ストックから音を紡ぎだします。 もちろん、それらの証明は楽曲の中で示されています。 「ぶらんこの少女」に於ける懐かしい感情や記憶を喚起させるパステル調の音像や、 「心象表現」に於けるゆっくりとした色調の変化を表現しているかの様な、 心地よいドライブ感をも感じさせるフィード・バック奏法を用いている点などだ。 アンディーとフィリップは圧倒的な表現力とテクニックで、 普遍的でハイ・スタンダードな感覚を維持しつつも、 全体として非常に穏やかな表現方法を用いている。 「ぶらんこの少女」の主旋律で示されている、 非常に流暢で明確な音色はギターの音というよりも木管楽器の音に近い印象を与える。 その一方で「ハーディー・カントリー」では強靱に主張するリズム・パターンと、 微かな感情の高まりからシンバルの大音響の如くにまで 色調を変えつつ膨張していくメロディーとを拮抗させている。 リズム・セクションを取り入れていないという理由から、 アンディーとフィリップの二人は時折楽曲に衝撃的な音響を与えてはいるものの、 どちらかというと静的な傾向を示している。 しかしながら二人のギタリストは、 楽曲のベースにあるリズム・パターンの繰り返しを基調とした演奏をすることで、 全体として均衡のとれたサウンドに仕上げている。 |
収録曲 ・ I Advancd Masked 心象表現 ・ Under Bridges Of Silence 静寂の架橋 ・ China-Yellow Leader チャイナ・イエロー リーダー ・ In The Cloud Forest 深い森の中で ・ New Marimba ニュー・マリンバ ・ Girl On The Swing ぶらんこの少女 ・ Hardy Country ハーディー・カントリー ・ The Truth Of Skies 神の園 ・ Painting And Dance 絵画と舞踏 ・ Still Point スティル・ポイント ・ Lakeland / Aquarelle 水辺のスケッチ ・ Seven On Seven セブン・オン・セブン ・ Stultified 心神喪失 |