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21世紀を目前に発表された『Brand New Day』の収録曲をオリジナル解説で振り返る! |
・ 収録曲 ・ A Thousand Years ・ Desert Rose ・ Big Lie Small Word ・ After The Rain Has Fallen ・ Perfect Love...Gone Wrong ・ Tomorrow We'll See ・ Prelude To The End Of The Game (End Of The Game) ・ Fill Her Up ・ Ghost Story ・ Brand New Day ・ Windmills Of Your Mind |
・ A Thousand Years霧の中から抜け出るようなイントロでアルバムは幕を開ける。 初めて聞いた印象は、前作のオープニング曲「The Hounds Of Winter」とよく似たものであったが、 今回はそれよりも更に重い...重い... (リズム隊の音色はハイトーンだが) しかし、「Hounds」と決定的に違うのは、おそらく意識的にしたと思われるAメロの単調な反復である。 しかし、この展開は、サビに差し掛かった所で突然変わる。 "I Still Love You 〜 I Still Want You" というスティングにしては恐ろしくシンプルな歌詞だが、 同時に美しいハーモニー... 楽曲的にここまでAメロ・サビのメリハリをつける作風はスティングならではの世界である。 この箇所に差し掛かったところで、改めて私のこのアルバムに対する期待が一気に広がった次第である。 "I Still Love You 〜" の意図する所が単なる2人称だけを指しているのではない、 という事は色々なレビュー等で語られてきたが詳細は私にもよく分からない。 今回のアルバムを制作するに当たっては、過去のアルバム制作時の条件とは全く異なり、 何らかの曲のストック・題材は全く無く、 完全に無の状態から曲を書き始めた、という本人の弁を何処かで読んだ記憶があるが、 この歌詞を見ているとその辺りの環境の変化も影響しているのかもしれない、と感じた。 尚、アルバム発売直後から現在に至るまでなお続いている当アルバムのツアーでは、 この曲がオープニング・ナンバーに選ばれている。 最新アルバムの1曲目をオープニングに用いるのはポリス時代から遡ると、 「Don't Stand So Close To Me」「Synchronicity T」「The Lazarus Heart」 「If I Ever Lose My Faith In You」「The Hounds Of Winter」に続き6度目である。 常に最新の作品をツアーのメインテーマとして持ってくる "現在進行形" スティングの姿勢を私は高く評価したい。 (Klark Kent) 新千年期を目前に発表されたアルバムの冒頭を飾るに相応しい楽曲です。 フル・オーケストラのリハーサル音を思わせる不協和音が響き渡る中、 パーカッション、ギター、ベースのメロディーが、 恰も果てしの無い螺旋階段を一段一段上り詰めていくかの様にリフレインされます。 とても厳粛であり、神秘的な叙事詩として奏でられています。 新たな千年間、 そして果てる事なく続く時間の流れを超越して愛を求め続けると力強いメッセージを発しています。 前作『Mercury Fallig』に於いては内省的な傾向を示していましたが、 今のスティングの意識は外へ外へ、未来へと向かっている事を示している壮大な楽曲です。 アルバム・コンセプトである「ハイブリット・サウンド」のベースを支えているのは、 スティングの未だ尽きない音楽へのポジティブな姿勢であろう。 パラダイス&ランチ的には『BND』のアルバム・コンセプトを「新たな世界を切望する事」と解釈する。 (eiji) イントロを聴いた時、私は『Soul Cages』の世界を思い起こした。 しかし実際にここで語られるのは外へ外へと永遠に繰り返す世界であった。 1000年を1000回繰り返すかのようにオスティナートで繰り返すメロディーは、 永遠に私の胸に刻みこまれる・・・・。 この曲で印象に残ったのは、IStill Love You.I Still Want You.という表現。 実際は"You"は単なるパートナーではなく深い意味をもっているのだが、 これだけストレートな言葉を選んだのは初めてではないだろうか。 スティングの創作活動の中でなにかが変わりつつある事を感じた。 ちなみに、私の妻はこの曲をベスト・トラックに選んだ。 曰く「今まで聴いた事のないスティングのメロディーだ。」である。 (U&MY) ・ Desert Roseアルバム発売前のインフォメーションでは、 この曲「Desert Rose」が今回の目玉曲になるだろう、というような情報が流れていた。 ライ・ミュージックのスーパースターと言われるシェブ・マミとのコラボレーションだが、 ライを取り入れたのは実はスティングが最初ではない。 10年前に日本のドクター・ジョンこと(トッド・ラングレン弁) 細野晴臣氏も傑作アルバム『Omni Sight Seeing』で既にトライしている。 私はライのイメージをそのアルバムで抱いていた先入観でこの「Desert Rose」を聴いたのだが、 こちらはあくまでスティング・ワールドである、というのが正直な感想であった。 (すみません、私ライ・ミュージックについてはよく知らないのですが、 両作品のヴォーカルを聴いて、コブシというかこの独特の唄法が両者共通して聴けたことから、 これが重要な要素の1つではないかと思った次第です) 一度耳についたら離れないシェブの突き抜けた声と歌い回しは、この曲には不可欠なもので、 彼のパート無しではこの曲は成立しないと感じる。 それほどシェブの役割は重要であるが、 私が印象に残ったのは、やはりスティングが歌う(またしても)反復のメロディであった。 サビも同じ歌メロなのだが、バッキングのコードを変える事で曲にヴァリエーションを持たせる、 という手法はポリス時代にも度々見られたが、これは聴き込む毎に聴き手を引き込んでいくという、 いわばスルメ感覚をもたらす効果があると考える。 私も最初に聞いた時に抱いた印象は、前宣伝の割には今イチ地味かな?というものだったが、 どうしてどうして、聴けば聴くほどハマってしまった。 日本ではTVドラマ「YASHA」の主題歌になり、 アメリカでも久々にトップ20入りし、長い間チャートに居座った。 99年10月の来日公演でこの曲のイントロが流れた時のオーディエンスの反響を聞いた時、 私は「Englishman In NY」「Shape Of My Heart」と 並ぶスティングの新しいスタンダードが誕生した、と確信した。 (Klark Kent) この曲はアルバム・コンセプトでもある”ハイブリット”を 最も美しい形で具現化してる作品ではないでしょうか? 現在ライ・ミュージック界で最も重要な人物と称されているシェブ・マミをゲストに迎える事で、 スティングが今まで深く踏み込んだ事の無かったワールド・ミュージックへの扉を開いている。 スティングとシェブ・マミのヴォーカルが対位法的に絡みつきオリエンタルな趣を放っています。 冒頭でシェブ・マミが”この長き間、わたしは探し求めていた。わが美を探し求めていた。” と歌っている様にこの楽曲のテーマは「切望する事」である。 男性の欲望の対象としての女性を歌っている様に捉えられるでしょうが、 それだけに止まらず幻想的な物、魅惑的な物への陶酔、切望と捉えるべきでしょう。 デザート・ローズ(学名アデニウム・オベスム)は、 その名前の通り熱帯の砂漠地帯に生息する美しい花です。 鼻を突く様な甘味な臭いを放ち赤や紫の美しい花弁を持つ花で、 その艶やかな姿は幻想的ですら有ります。 砂漠地帯に住む狩猟民達はデザート・ローズを煮詰めて、 猟の際に用いる痺れ薬?として利用するのです。 美しい花には・・・の例えではないですが、美しい”媚薬”としてのデザート・ローズは、 すなわちスティングの心を捉えている”ハイブリット”そのものではないでしょうか? 中近東の壮大な自然を象徴するかの様に鏤められている「雨」「炎」などのキー・ワードを用いて、 楽曲をプリミティブな力強さと輝きに満ち溢れた物に仕上げたアラビアの一大叙事詩です。 (eiji) スティングの新たな代表曲の登場である。 ライ・ミュージックの重鎮チェブ・マミに、 自由にインプロバイズさせて出来あがったこの曲は久しぶりに格好良い曲である。 やはりスティングは他の共演者に自由を与えた時が一番輝くのではないだろうか。 そして、その共演者が実力者であればあるほど・・・。 また、名作『Nothing Like The Sun』の黄金リズム部隊 マヌ・カッチェ(ds)&ミノ・シネル(per)の復活が嬉しい。 特に80年代後期電化マイルス・デイビスのリズムを支えた ミノ・シネルが※ポリリズム的な効果を与えリズムの奥深さをだしている。 私は本アルバム『Brand New Day』を初めて聴いた時、 『Nothing Like The Sun』の世界を感じたものだが、 それは恐らくこの2人の創り出すリズムが共通しているからだろう。 思うにスティングの目標は電化マイルス・デイビスのサウンドではないだろうか。 つまり、あらゆるジャンルの要素を取り込みながらも自分自身のサウンドとして再構築する。 そして共通するのは"声"。 マイルス・デイビスがバップをやろうがモードをやろうが電化しようが その声("プッ"というラッパの音)だけで人々を魅了したように、 スティングもライ・ミュージックと融合しようが ディズニーを歌おうがその声だけで我々を魅了し続ける。 ※ ポリリズム=複合リズム。 元祖はエルビン・ジョーンズであるが進化させたのはまたしてもマイルス・デイビス。 69年の『Bitches Brew』で完成をみせ、72年の『On The Conner』で頂点を極めた。 (U&MY) ・ Big Lie Small Word続いて流れてきたのはボサノヴァ調に爪弾くギターの音色である。 これまでも、ちょくちょくボサノヴァへのアプローチを披露してきたスティングであるが (古くはStrontium90時代の「Every Little Thing She Does Is Magic」も入るか?)、 自作品の中では今回が最も本格的に取り組んだものではないだろうか? 全編通して聴かれる囁くようなヴォーカルもソレらしく聞こえる。 しかし、そこは一筋縄ではいかないスティング、 4/4〜5/4の交互(9/8か?)という得意の変拍子でこの曲は構成されている。 我々日本人にはなかなか取っ付きにくい苦手なリズムだが(私だけか?)、 なんなく仕上ている演奏力の高さにはいつもながら脱帽である。 また、クリス・ボッティの素晴らしいトランペットが大々的にフィーチャーされるが、 彼のペットも本アルバムではサウンド的に重要な位置を占めている。 それにしても冒頭からここまでの3曲続けてマイナー調の曲が続く。 決して明るい曲が多い訳ではないスティングだが、ここ数作の中では珍しいパターンではないだろうか。 (Klark Kent) 気だるげなボサノバ調のリズムに乗って自らの奇行を回想しているかの様な不可思議な楽曲。 クリスの奏でるミュート・ペットの音色が効果的にフューチャーされており、 ボサノバだけに止まらずジャズのテイストも盛り込んでいるのですが、 散漫な印象を与えず 同一メロディーの中に溶け込ませているところにスティングのセンスの良さを感じます。 又、スティング特有の楽天的なおふざけソングの様に感じてしまいますが、 ベースに成っているのは彼がテーマとして取り上げる事の多い 「愛を失った者の妄想」とも取れるでしょう。 恋愛が終焉し破綻した人生を送っている人間の奇行の顛末っていう所か? スティングがポリス時代から描き出している人間は”ブロークン・ハート”な人々です。 前述の様に今作に於けるサウンド的な傾向として、 異ジャンルのリズム、メロディーを 一つの楽曲の中に溶け込ませてボーダレスな楽曲に仕上げている点が上げられます。 そう考えると「Big Lie Small World」、「Perfect Love...Going Wrong」、「Fill Her Up」、 そして「Desert Rose」がアルバム『BND』の特色を最も顕著に現している様に思います。 (eiji) トランペッターのクリス・ボッティが素晴らしいミュートプレイを聴かせてくれる。 ミュートとは本来、 弱音器であるがブラス楽器の場合は音を小さくするだけでなく 音色の変化や陰影をつける特殊効果が出せる為に様々な種類が生まれた。 ここではハーマン・ミュートを使用している。 もしこの曲を聴きトランペットの響きに惹かれたスティング・ファンの方がいたら 『Ten Summoner's Tales』に参加した ガイ・バーガーの本邦初デビュー・アルバム『What Love Is』を聴いて頂きたい。 このアルバムではトランペットのオープンとミュート両方の素晴らしい演奏を聴くことができるし、 スティングが数々のJAZZジャイアンツによる名演が残されている "You Don't Know What Love Is"を歌っている。 更にここでピアノを弾いているのが本アルバム『Brand New Day』で ハモンド・オルガン&ストリングスアレンジャー/コンダクター (Tomorrow We'll See,Big Lie Small World)のデイブ・ハートレイである点も興味深い。 しかし、ボサノヴァはスティングの得意な表現であり、 名曲名演も多いが8分の9拍子の演奏はあまり聴いたことがない。 それを違和感なし聴かせるのは演奏力の高さとアレンジの上手さであろう。 ※ボサノヴァの巨匠アントニオ・カルロス・ジョビンと共演した"How Insensitive"は名曲である。 『Antonio Brasileiro』(95年)、『Red Hot+Rio』(96年)等に収録。 (U&MY) ・ After The Rain Has Fallenここでようやく、往年のファンにも馴染み深いテイストを持ったロックナンバーが登場する。 正にスティング節としか言い様がないような曲である。 と同時にアルバム中最もポップなナンバーではないだろうか? イギリス等ヨーロッパにおいては、3枚目のシングルとしてカットされた。 ここに来て初めて熱くシャウトするスティングのヴォーカルを聴く事が出来る。 特にサビ部分のハイトーンはいつもながら素晴らしい。 スティングの声は、昔は高く今は低くなった、と一般的には捉えられがちだが、 実はそうではなく、低音域もじっくり聴かすことの出来るヴォーカリストに成長しただけの事で、 高音域でのヴォーカルは今でも健在なのである。 以前インタビューで本人が語っていた、 「今でも私はRoxanneをオリジナル・キーで唄う事が出来る」という発言を聞くまでもなく、 先日の来日公演でのあの素晴らしい歌声を体験された方なら誰もが納得して頂けるであろう。 それから印象深いのは一聴してわかるマヌ・カッツェのスネアの音色である。 この曲を聴くとスティングがいかにマヌを必要としていたかが分かるような気がする。 もともとは『Nothing Like The Sun』ツアーが始まる前から スティングはマヌにラヴ・コールを送っていたが、 本業であるピーター・ガブリエルとのツアーと重なってしまった為実現しなかった経緯がある。 (その代わりヴィニー・カリウタという超テクのドラマーと出会えたのだが...) 尚、「スティング節としか言いようが無い曲」と言ったが、 参考作品として、日本のバンドThe Boomの中心人物である 宮沢和史氏が98年に発表したソロ・アルバム『Sixteenth Moon』を挙げておく。 このアルバムはポリス・フリークを名乗る彼(スペシャルズではなかったのか?)が、 オマージュも込めてプロデューサーにヒュー・パジャム、ギターにドミニク・ミラー、 ドラムにマヌといういわばスティング・ファミリーの面々を迎え制作されたものであるが、 この中に収録された「Save Yourself」がなんと 「After The Rain」に実に良く似た雰囲気を持っているのだ。 こちらの発売の方が早かったのにもかかわらず、である。 つまり、両者が持つ作風・アレンジが、スティングサウンドとしてのイメージ、 つまり一つの確立されたものとして認識されているように感じた次第である。 (Klark Kent) まずは、ストりー・テラーとしてのスティングの魅力に満ち溢れている楽曲と言えるでしょう。 アラブのお城を舞台に王女と盗賊の刹那な叙情詩。 この楽曲では顔も見た事の無い相手と結婚をしなくてはいけない王女が、 お城に忍び込んだ盗賊に連れて逃げてくれる様にせがむのですが、 彼女の望む真新しい世界への切望も、束の間に感じた愛情も叶う事はないのです。 この物語は深読みをすればスティングと我々ファンの物語でもあります。 ♪No Weapon But His Surprise(いかなる武器も持たず、ただ驚きだけ)♪ 趣の違う作品を次々と発表して我々ファンを良い意味でも悪い意味でも裏切りつつ、 魅了して止まない存在スティング、そして束の間の夢を見させてもらう多くのファン達。 愛の盗賊がスティング、夢見る王女が我々ファンって所でしょうか? ♪夢が壊された後、それでもこの世に愛は存在するだろう♪ この台詞にクールネス・スティングの魅力が凝縮されている様に感じます。 タイトなリズムはソロ初期のスティングを彷彿とさせています。 (eiji) スティング本人も発言しているようにアルバムの中にあって 唯一のストレートなロック・ナンバーである。 しかしながら、決して平凡なロックではない。 ストーリーの面白さと何より必殺のハイトーン・ボーカルが堪能できる。 その健在ぶりを見せつけるかの如く、丸くなったと言われる最近のアルバムでも 必ずこのハイトーン・ボーカルをいかしたトラックを用意してくれるのは嬉しい限りである。 (U&MY) ・ Perfect Love...Gone Wrong前曲の躍動感から一変、またしても闇の世界に引き戻すかのようである。 初めて聞いた時、 この曲は囁くヴォーカルというよりは眠たいヴォーカル(笑)というような印象を持った。 イントロから登場するクリスのペットが実にジャズっぽい雰囲気を醸し出している。 スティングはこれまでもパンク、レゲエ、ジャズ、カントリー、 ボサノヴァ等、異種ジャンルを貪欲に取り入れてきたが、 それらはあくまで媒体として自分の音楽に組み込む、というスタイルであった。 だが今回のアルバムはそれより一歩踏み込んだ感がある。この曲もそう。 この背景には前作と今作の間に、ジャズミュージシャン、 あるいはジャズ寄りのアルバムに続けて参加した影響があるのかもしれまい。 (ジョン・マクラフリン、ジョー・ヘンダーソン、ガイ・バーカー、 デヴィッド・サンボーン、アンディ・サマーズ、そしてクリス・ボッティ) フランス人女性によるラップは、曲の歌詞との絡みが面白い。 後日リミックスアルバムにm‐floのLisaによる日本語ラップ・ヴァージョンも発売されたが、 こちらは原曲で聞かれたような掛け合いのようなものが感じられず、やや残念であった。 当初予定に挙がっていたZeebraがラップを務めていればどんな仕上がりになっていたのか非常に興味深い そういえば、今まで「Bring On The Night / When The World…」や「Englishman In NY」のライヴや 「Demolition Man」「This Cowboy Song」「Roxanne '97」等の リミックス・ヴァージョンでラップは度々聴く事は出来たが、 オリジナルヴァージョンにラップを導入したのは今回が初めてではないだろうか? 尚、来日公演に行かれた方はご存知だろうが、 この曲のライブ・ヴァージョンは、オリジナルには無い歌詞、 メロディ(それもメロディアスな)を後半部に追加挿入している。 (Klark Kent) 楽曲的にはスティング流のヒップ・ホップと呼んでも良いだろう。 ステのフランス語ラップ、クリス、ジェイソンのアーシーなジャズ・トーンが素晴らしい。 ヒップが音楽シーンに与えて影響としてラップにばかりスポット・ライトが当たる傾向がありますが、 アシッド・ジャズのテイストを持ち込んでいるところにスティングのセンスの良さを感じる。 マイルスの’69『ビッチェズ・ブリュー』以降ジャズのロック接近が始まるのだが、 ブランフォード・マルサリスが取り組んだヒップ・ジャズの名作『モー・ベター・ブルース』の、 路線上に有るかの様なスタイリッシュなサウンドを奏でています。 ストーリー的には犬と飼い主の言い争いの様にも捉える事が出来ますが、 それは単なるメタファーにしか過ぎず恋人達の言い争いと考えた方が良いでしょう。 刹那的な恋愛に翻弄された従順な男と奔放な女性との愛情の顛末かぁ? (eiji) 再び、クリス・ボッティのミュートプレイが大活躍する。 この曲の誕生の土壌はマーキュリー・ツアーの "イングリッシュ・マン・イン・ニューヨーク"の中間部のアレンジに既にあったのではないだろうか。 ジャズ+ラップ・ヒップポップは決して目新しい事ではなく、 多くのミュージシャンが※17年前から試みていることであるが、やはりスティングがやると一味違う。 例えば若手ドイツ人トランペッターの2ndアルバム『Chattin With Chet』収録の "Ev'ry Time We Say Goodbye"と聞き比べていただきたい。 私はジャズ好きではあるが、 ジャズと異ジャンルとの融合は一部の例外を除き 本家のジャズ・マンより異ジャンル側からのアプローチの方に魅力を感じる。 超一流のジャズ・マンを起用し、 自身も元ジャズ・マンでありながらもジャズというジャンルで自分を表現するのではなく、 あくまで触媒としてジャズを使うところはスティングのセンスの良さである。 尚、『Chattin With Chet』には先に紹介した"You Don't Know What Love Is"が収録されているので、 スティング参加バージョンと聴き比べるのも面白いと思う。 ※マイルス・デイビス/『You*re Under Arrest』(84年録音)収録の “One Phone Call/Street Scenes”(Voice=STING)が初めてではないだろうか。 また、eijiさんの報告によるとJAZZマンが初めてヒップ・ポップにトライしたのは、 ハービー・ハンコック/『Head Hunters 』(73年録音)である。 (U&MY) ・ Tomorrow We'll Seeこの曲は秀作!!スティングが切々と歌い上げる ''孤独" は、 ポリス時代に見られたような皮肉たっぷりの身勝手な独りよがりのようなもの (これはこれでたまらん魅力だったのだが)ではなく、 我々に何か問い掛けるかのように迫ってくる。 うっかり見過ごすと、すわ「Roxanne」の続編か?と思ってしまうが、 「Roxanne」では娼婦に対し、1人のショボ僧が問い掛けていたのに対し、 この曲では、 当事者の立場から孤独・悲しさを嘆きつつも同時に内に秘めた誇りを投げかけてくるかの様である。 しかも娼婦ならね娼夫を歌った内容だったとは! (たろちゃんの翻訳、大変参考になりました。有難うございます。) 楽曲的にも素晴らしい。一聴地味な印象を受けるが(今回のアルバムの曲はいずれもそうだが)、 2度、3度聴き返す毎にメロディが脳裏に焼き付いて離れない。 私は昔から「Be Still My Beating Heart」を隠れた名曲と思っているが、 この「Tomorrow We'll See」はそれに勝らぬとも劣らぬ出来である。 ブランフォードのクラリネットも 「Moon Over Bourbon Street」「Sister Moon」を彷彿させる程、切なく聴き手の胸に突き刺さる。 これは名演でしょう。日本公演ではセットリストから外れたのが残念でならない。 (Klark Kent) 大都会で逞しく生きている人々の姿を切々と歌い上げる、 スティングの吟遊詩人としての魅力に充ち溢れている作品の様に思います。 街角に立つ男娼を鮮明に描き出しているのですが、 彼の生き方に賛同する訳でもなく否定する訳でもなく、 一定の距離感をもって描写するところにポリス以来のスティングらしさを感じます。 自らの環境を必要以上に卑下する訳でもなく、 望み薄の成功を夢見ている男娼の囁きを耳にするとちょっとした物悲しさを感じてしまいますが、 その様な状況を男娼の口から語らせる事でドライに描き出しているところに共感を覚えます。 全体にフューチャーされているシンセの漂う様なメロディーやスティングの囁く様なヴォーカル、 そしてブランフォードのクラリネットの音色がとても官能的で、 ストリートの情景をより鮮やかなものに描き出しています。 スティングがポリス時代から歌い続けてきた「現代人の孤独」を、 大都会の片隅のワン・シーンで描いた傑作の様に思います。 我々が蔑んでいる生活がいつ我が身にふり掛かって来るとも限りません。 しかし、どんな状況下に於いても譲れないプライドってのが有るのでしょう。 「ロクサーヌ」に漂っていた悲壮感を感じさせないのは 男娼が持っている確固としたプライドのせいでしょう。 私がアルバム収録曲の中で最も好きな楽曲の一つです。 スティングの隠れた名曲としてファンに支持される作品になって欲しいと思います。 (eiji) スティング・ワールドにブランフォード・マルサリスが品のいいメイク・アップを施す。 しかもテナーでもソプラノでもなく不馴れな筈のクラリネットで・・・・。 ブランフォードも一時期ヒップ・ポップへのアプローチを見せたが、 最近はストレート・アヘッドなジャズに戻ってきた。 彼の最新作『Contemporary Jazz』を聴くとスティング・サウンドとは全くの別物である。 しかし、この2人が共演すると最高の化学反応が起こる。 やはり、 スティング・ワールドはブランフォードのメイク・アップが一番優雅な色気をだすように思う。 では、このスティング・ワールドを検証してみよう。 「別の人生を送るなら、あなただって私みたいになるんだから。」 誰でも精神の奥底には暗黒面をもっている。 光の道を歩くか暗黒を歩くかの分岐点は極僅かな差であると。 この曲は当初、新世紀版"ロクサーヌ"だと思った。 しかし大きな相違点はロクサーヌが第三者として共感できた作品に対し、 ここでは老若男女を問わずすべての人々の胸に静かに突き刺さる。 普遍のもの、最も尊いもの、 最も美しいもの象徴として語られることの多いLOVEも千人いれば千種類の形がある。 なかには正義より強い愛も・・・・。 1000回生まれ変われば1000の人生を歩むのであろうか。 (U&MY) ・ Prelude To The End Of The Game (End Of The Game)当初「End Of The Game」という曲が収録される予定で直前までインフォメーションが流れていた。 ところが土壇場で変更が生じ、同曲はイントロの部分のみを抜き出し、 「Prelude To The End Of The Game」として紹介される形になった。 アルバムの発売が当初の予定より2週間程ズレ込んだ背景には、 この辺りの修正作業があったからなのかもしれない。 現在アルバムに「End Of The Game」がフルで紹介されているのは オーストラリア盤と一部のアドヴァンス・プロモ盤のみである。 他の国はシングル「Brand New Day」のカップリングとして紹介された。 「End Of The Game」は決して悪い出来ではなく、むしろ秀作だと思うのだが、 アルバム全体の流れを考慮した上で割愛したのかもしれない。 結果、本作に収録された「Prelude To The End Of The Game」は、一つの曲として捉えるよりは、 『The Soul Cages』における「Saint Agnes And The Burning Train」同様、 アルバムのインターミッション (小休止部分、あるいはアイスクリームに付いてくるウエハースのようなもの) として考えた方が良いのかもしれない。 (Klark Kent) 獲物を追いつめる狩猟家の視点と、 追いつめられる狐の視点の両方から語られている猟の物語です。 が、この楽曲でスティングが描き出しているのは生死が交わる刹那の瞬間でしょう。 狩りというゲームの中で弄ばれているかの様な生を享受する事、死を受け入れる事を、 美しいギターの調べに乗せて切々と歌っています。 さながら生と死をテーマにした寓話の様にも感じ取る事が出来ます。 楽曲の核となる主要テーマを覆い隠して、 キャッチーなメロディーに乗せて物語を展開する作風は彼の魅力の一つと言えるでしょう。 美しい大自然の描写を織り交ぜながらの物語はビジュアルな魅力に充ちています。 (eiji) ・ Fill Her Upでもって、突然カントリー調のイントロである。ここで納得。 「Tomorrow We'll See」からこの曲への展開はギャップが大き過ぎる。 それゆえインターミッションが必要だったのか?(私が勝手にそう思ってるだけなのかもしれないが) スティングのカントリー・ミュージックへのアプローチは前々作での 「Love Is Stronger Than Justice」(但しサビ部分のみ)、 前作での「I'm So Happy I Can't Stop Crying」に続いてのものである。 また今回のアルバムと前作の間の時期に、 トビー・キース(彼とのデュエットがグラミーのカントリー部門でノミネートされた!)、 ウェイロン・ジェニングスといった、 本物のカントリーミュージシャンのアルバムにスティングは参加している (共にスティングのカバー曲に参加)。 よって「Perfect Love」で私が述べた論法をこの曲にも当てはめると、 今回の「Fill Her Up」は過去2回よりも一歩深く本格的に カントリー・ミュージックに踏み込んだナンバーになるのか?という事だが、 どっこいその予想は見事に裏切られた。 途中から挿入されるゴスペル風の分厚いコーラスはプログレか?とも思える位前衛的な展開で、 その後一気にテンポアップし、あっという間にフェード・アウトしていった。 こういう裏切られ方は実に爽快ですな(笑)。 ジェームス・テイラーがデュエットの相手として参加したのは、 彼の最新作『Hourglass』(名盤です、お勧め!)にスティングが参加した経緯もあるのだろうが、 それ以前からスティングとは、レイン・フォレストのチャリティ・ライブ等で親交は続いていた。 彼は言わずと知れた歴史に残る素晴らしいシンガーソングライターであり、数々の名盤を残しているが、 一方ではこのようなお茶目な曲も大好きなのである。 スティング関連で言えば、 奥さんのトゥルーディーが企画したチャリティオムニバス盤『Carnival !』に 収録された彼のライブ音源でもその一面を垣間見ることが出来る。 素朴な感想 … この曲のAメロはまんま「Lithium Sunset」だと思うのですが、皆さんどうですか? (Klark Kent) とても愉快な楽曲です、幾つに成ってもスティングはおふざけが好きなのね(笑) 『Ten Summoner's Tales』に集録されていた 「Love Is Stronger Than Justice」の雰囲気を感じました。 序盤に於けるトホホなカントリー・ボーイの若気の至りとも言える窃盗を語る場面に於いては、 ゲスト・ヴォーカルにジームス・テーラーを迎えてナッシュビル・スタイルのカントリーを奏で、 後半に於いて少年が自らの愚行を懺悔する場面に於いては、 ゴスペル・ジャズのコテコテ大合唱で彼の愚行を戒めています。 今作の特徴の一つである豪華なサウンドを堪能できる楽曲でもあります。 カントリー〜ゴスペルといったアメリカ古来の音楽をふんだんに使っている点が興味深い。 これは前作『Mercury Falling』のサウンド路線を踏襲したものと言えよう。 ”楽しみ”と”セラピー”を掛け合わせていた前作の充実感、達成感を踏み台として、 更にポジティブな側面を全面に出した趣が『BND』には満ち溢れています。 Fill Her Upがガソリンを満タンにする、彼女を幸せで満たす、 の2つに掛かっているのがご愛敬です(笑) (eiji) これまた得意のカントリーシリーズである。 ストーリーは『Ten Summoner's Tales』の作品群を思わすユーモアに満ちたものである。 ところでゴズペルにのり、 大団円を迎えたこのエンディングは カントリーシリーズの完結を暗示しているのではないかという心配になってきた。 私はまだまだFELL HER UP(満タン)ではない。次回作でも続けて欲しい・・。 (U&MY) ・ Ghost Storyドミニクのナイロン弦ギターをフィーチャーしたナンバーは 今やスティングのアルバムには欠かせない存在で、何れも佳曲揃いである。 (例 : 「Saint Agnes And The Burning Train」「Shape Of My Heart」 「I Was Brought To My Senses」「Lullaby To An Anxious Child」等) 今回もそれらに劣らぬ素晴らしいナンバーが収録された。 ギターリフ、及びユニゾンのヴォーカルパートの、 ♪ ド レ ミ ファ ソ ソ ソ ♪ (キーはE) という極めてシンプルな音階に、 イギリスのトラディッショナル・ミュージックのルーツへの回帰が伺えるようである。 そしてこのメロディは改めて亡き父への想いを回帰する詩にも直結している。 『The Soul Cages』で人間の死について正面から向かい合い (当時愛息を失ったエリック・クラプトンが このアルバムにどれだけ勇気付けられたか語っていたのを思い出す)、 それを乗り越え、『Ten Summoner's Tales』『Mercury Falling』で新境地を開拓したスティングが、 今またここで父親について歌っているのは非常に興味深い。 しかし今回は、より一層赤裸々に素直な気持ちで歌われているような気がする。 その気持ちがそのまま素直なメロディに繋がっているのではないだろうか? こういった明快なメロディはポリス時代には絶対聴けなかった (他の2人が許さなかったのもあるだろうが)ものであるし、 歌詞についてもポリス時代の "皮肉屋" スティングからは想像も付かない。 「Roxanne」が世に出てから21年、ソングライター・スティングはここまで成長したのである。 (誤解のないよう断っておくが、"皮肉屋" スティングのトンがった音楽性は、 別の意味でたまらない魅力でしたよ、個人的にも…) 尚、美しいシンプルなメロディであるが、アレンジはやはりスティング、ヒネくりまくってます。 後半部からはマヌは2、4拍目に付けていたアクセントをずらして叩いている。 ライブでも同様のアレンジが施されており、うっかりすると小節の頭を見失ってしまう位である。 来日公演でも是非聴きたかったのだが、 残念ながらこの曲も「Tomorrow We'll See」同様、セットリストから外されてしまった。 (Klark Kent) スティングの父親が亡くなったのは12月のことだったろうか? この曲でスティングは長い月日を経てやっと父親への思いを告白している様に思います。 スティングの”未だに父親の存在は大きい”と言う発言を思い出してしまいます。 ’91年に発表した『Soul Cages』は、 父親を失った悲しみの深さを敢えて作品の中で表現する事で一種の精神治療をしていた趣が有りました。 父親について、男について語っていたこの作品は叶わぬ夢についても歌われていました。 ’96年に発表した『Mercury Falling』は東洋思想、哲学に傾倒して、 ”愛する者の生死”という真摯な課題ともう一度対峙して全てを達観した様な作風をしていました。 父親の死から『Soul Cages』『Mercury Falling』を経て早10十年、 スティングの心の奥底に眠っていた父への思いが語られています。 父親との疎遠な関係や無関心を懺悔するかの様な告白が続きますが、 ”僕は君をもっと愛するべきだった”と言う台詞に父親に対する愛情の深さを垣間見る事が出来ます。 又、父親への素直な思いを告白したこの楽曲の後に、 ”時計の針をリセットする”と歌う「Brand New Day」が収録されているのは非常に興味深い。 新たな世界に踏み出す為はもう一度過去を振り返る必要性が有ったのでしょう。 (eiji) 個人的には本アルバムのもうひとつのハイライト。 地味な印象の曲であるが、ソウル・ケージ以降の新たに加わったスティング節が満載である。 シンプルなアレンジが空間的な広がりを創り出す。繰り返しライブで演奏されることにより、 代表作になりうる可能性を感じていただけに 今回の日本公演でセット・リストから外れていたことが残念でならない。 オリエンタル風とも童謡風ともいえるギターの旋律にユニゾンで語りかける思いは、 亡き父に対してか。それとも自分自身の人生へか。 もしかして社会そのものへか。いや今は亡き父性すべてに対してかも・・ その解答は聞き手に委ねているのであろう。 ここで語られているのは決して後悔の思いではない。新たな一歩を踏み出そうとする歌。 そう新たな一日、BRAND NEW DAYへと続くのである。 (U&MY) ・ Brand New Dayラストにアルバムのハイライトとも言うべきタイトル曲が登場する。 タイトル曲がラストに収録されるパターンは実は今回が初めてであるが、 前作に収録されていたラスト曲「Lithium Sunset」が 「The Hounds Of Winter」同様アルバムのテーマ曲の意味合いを持っていた事を考慮すると、 今回も前作の流れにちなんだもの、と取れなくもない。 最初に翻訳を読んだ時は、変テコな面白い歌詞だなぁ、と感じたものだが、 これがスティング流の未来に向けてのメッセージだとすると、 やはりいかにも彼らしいなぁ、と思ってしまうのです。 イントロのギターのアルペジオ、字余り気味の歌い出し、6/8拍子、そしてポジティヴなコード進行、 これを聴いてると真っ先に私の脳裏に、ポリス時代に一度もライブで演奏されなかった 「Low Life」(その後ブルータートルバンドで披露されるが)が浮かんだ。 両者は楽曲的に共通する点が多い。 (残念ながら「Low Life」の歌詞は確認していないので詳細は分かりません。 私の思い過ごしかもしれません。)"字余り気味の歌い出し"、 そう、スティングの歌の特徴の一つとして、 日本人には歌いにくく一聴しただけでは掴み所のないメロディ (音階が上下に広く往来するような感じです)、というのが挙げられる。 前述の「Low Life」や「The Lazarus Heart」「I Was Brought To My Senses」のAメロ等が正にそうで、 「Every Breath You Take」や「Fields Of Gold」や さっきの「Ghost Story」等の分かりやすいメロディアスさとは対照的である。 この掴み所のないメロディが、スルメ感覚に寄与すると同時に、サビにアクセントをもたらし、 曲全体をメリハリのあるものに仕上げているものと感じる。 それから一聴して誰もが分かる、スティーヴィー・ワンダーのハープが実に完璧にマッチしている。 スティーヴィーとのスタジオでの共演は今回が初めてだと思うが、 他のミュージシャンに対して批判的だったポリス時代でさえ、 尊敬するソングライター&ヴォーカリストとしてスティーヴィーの名を挙げていたスティングにとって、 彼の参加は感慨深いものだったであろう。 ずっしり重い「A Thousand Years」で始まり、 カラっと天に突き抜けるような「Brand New Day」で締める、 という今回のアルバムの構成は実に爽快である。 前半6曲はマイナー調、 ラスト3曲は何れもメジャー調の曲で構成されているという事にも気付いたのだが、 そう考えるとやはり、 「Prelude To The End Of The Game」はアルバムの流れを考慮した上での配慮だったのであろう。 (Klark Kent) とくかく元気の出る楽曲です。 スティングらしからぬとても希望に満ちているポジティブな楽曲と言えるでしょう。 楽曲単体として聴いても味わい深い物が有りますが、 前曲「Ghost Story」からの流れで聴くと更にアルバム・コンセプトの一端を理解出来るでしょう。 「Ghost Story」で父親への思いを告白した後、 ドミニクの慈愛に満ちたアルペジオ・ギターの調べが現れ、 それに誘われる様にノスタルジックな感覚を喚起する スティーヴィー・ワンダーの哀調に充ちたハーモニカのメロディーが現れます。 そして二人に導かれるかの様にスティングが歌い出します。 ”そこにいる人達の何人が恋愛問題で傷ついたろう?” スティングが描き出す人々は”グロークン・ハート”を抱えた人達が多いですね。 過去に受けた心の傷を胸の奥に押し止めつつも 真新しい日に歩みだそうと力強いメッセ−ジを発しています。 このアルバムが過去を総決算し新たなるステージへのプロローグ的な意味合いが有る事を考えると、 ”スティングのワールド・ミュージック盤”と称されるこの作品も一つの通過点と考えるべきでしょう。 今作に於ける新たな世界へのステップは非常に素晴らしい! ”時代遅れの男には成りたくない!”という台詞に彼の内なるアグレッシブな魂の存在を強く感じる! スティングのビビットな感性が胸を力強く打つ! (eiji) 神秘的なイントロのなか心地良く響くドミニクのアルペジオ。 そしてスティービーのハーモニカがシャッフルする。 過去を見つめなおし、未来を見据えた開放感がここに有る。 新しい1日を歩む2人。切っても切れない2人。恋人達か?親子か? それにしても、見事に調和するスティービーのハーモニカと 2コラース目からのアグレッシブなドミニクのコード・ワークの気持ち良さはどうだろう。 初めてドミニクのギターを聴いた時に妙に浮いているように感じたのものであるが、 今となってはスティング・ワールドに欠かせぬ存在である。 当たり前の事であるが 「このギタリストだけは絶対に手放さない!」と言ったスティングの目(耳)は確かであった。 追記:本アルバム『Brand New Day』で プロヂューサーが盟友ヒュー・パジャムからキッパーへ交代した。 またマイルス・コープランドとの決別の報も伝わってきた。 もしかしたらGHOST STORY〜BRAND NEW DAYへの流れは 彼らの事を歌っているのでは?と最近思ったりしたが・・・。まさかねぇ。 それにしても、またしても最後の最後にやられた。ここから、1000年続くとは・・・ (U&MY) ・ Windmills Of Your Mindスティーブ・マックイーンが主演した映画『華麗なる賭け』のリメーク版である、 『トーマス・クラウン・アフェアー』のエンド・ロールでも使われている。 原曲はノエル・ハリソンが歌いアカデミー主題歌賞を受賞しています。 この楽曲は日本盤にだけ特別収録されたのでが、 『BND』の構成としては「A Thousand Years」〜「Brand New Day」の流れを重視して、 アルバム全体が循環する様にした方が良かったのではないだろうか? ただし、楽曲の完成度は非常に素晴らしい。 スティングの魅力の一つは、取り分けスタンダード・ナンバーのヴォーカルに出色する点だろう。 彼の嗄れ声が聞こえてくるだけで、 周囲の空気の質感が一変し、その楽曲が生まれた時代まで我々を誘ってくれる。 心の中にある風車の様にスティングの歌声は私の中で果て無く流れ続けている。 (eiji) |
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