99 ひとつの願い
ユウと私は小さい頃すごく仲がよかった。
「ミユに特別な宝物を見せてあげる」
ユウはそう言って一冊の本を見せてくれた。分厚い皮で装丁された立派な本で表紙には三つの宝石が埋め込まれている。
「これ、もしかして儀式の時に使う特別な本じゃない? ユウ、見つかったら怒られるよ・・・・・・」
私はそういいながらも本から目を離せなかった。ユウは大事そうに本を抱えている。
「ミユ、『人間族共通のひとつの願い』をこの本に向かって言ってみて」
「えーと、人間の分に過ぎた過大な望みを抱く事のないように望みます」
私がそう言うと、本にはめ込まれた三つの宝石のうち一つが鈍い光を放った。
「うわぁ、すごい」
私がそう言うと、ユウは得意そうに『まあね』と、言った。
「次は僕が言うね」
ユウはそう言うと『家族の為のひとつの願い』を本に向かって言った。
「家族の無事を望みます」
もう一つの宝石が光を放った。
「最後の宝石は『自分の為のひとつの願い』で光るんだよ」
「ユウにはあるの?」
ユウは頷くと、本に向かってこう言った。
「僕は、父さんの後を継いで村長になりたい」
私とユウはドキドキして本を見守ったけれども、宝石は光らなかった。
「おかしいね」
私とユウは顔を見合わせた。
「ユウのお嫁さんになりたい」
私は思いきって言ってみた。宝石はやっぱり光らなかった。
「・・・・・・これ、壊れているんだよ」
ユウと私はそう言って、一緒に本を元に戻しに行った。
それから年月が過ぎて私も大人になった。
ユウは結局商人になりたいと言って、村長にはならなかったし、私も結婚相手は別の人だった。でも、あの時宝石が光らなかったのはそういう事ではなかったのだろう。
今日、ずっと待っていた荷物が届いた。荷物の中身は小さな竪琴。手に取るのがもったいないくらい美しい楽器だった。でも一度手に取ると離せなくなった。
小さいけれども澄んだ音が私の心を静かに満たしていく。