92 戦乙女
『やっちゃったんだ。あの子』
ここは学校の五階。窓が開いていて、窓際の床に上履きが揃えて置いてある。上履きのかかとに書かれている名前を見るまでもなくあの子の顔が浮かんだ。
周囲に溶け込めなくていつもイライラしていた。正義感が強すぎて、曲がった事に対しては何か言わずにはいられなかったのだ。男子、女子、先生、生徒関係なく。色々と恨みを買っていたけれども本人は自覚が無かったと思う。正しい事は皆が受け入れて当然だと思っていたみたいだから。
私は窓の外を確認したくなかった。でも、何かの理由で上履きを忘れただけかもしれない。そうだとしたら、間抜けすぎる。
『忘れ物をしただけなのに、よりによって自殺と間違えるなんて』
先生はきっとひどく嫌がるだろう。私は恐る恐る窓に近づいた。
バサバサバサッ。
急に大きな羽音がして、何かが窓の外を横切った。真っ白な大きな羽が背中に生えた天使みたいな女の人があの子を大事そうに抱きかかえて飛んでいる。
私は窓に駆け寄って上を見上げた。あっという間に二つの影は雲の上に登って見えなくなってしまった。