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 87 権力者

 彼は仕事に疲れてため息をついた。いつまでこのような、報われる事のない仕事を続けなければならないのだろう? 試しに引退する事を考えてみる。後継者にふさわしい男は誰だ?
「誰もいない」
 彼はそうつぶやくと、ため息をついた。以前は私の仕事を引き継げる者など誰もいないと思うと自尊心がくすぐられたものだが、今は頼れる者が誰もいないというこの状況に絶望すら覚える。
 まだ若かった頃、権力の座にあった男を引きずり落としてこの座についた。その男はハメられたと悟った後、みっともなく抵抗をした。彼はそれを見てあんなみっともない真似をするものかと密かに思ったものだった。
「何という乱暴な真似をするのだ。そんな事でこの国が治まると思っているのか。私の力がまだ必要なのに」
 確かそんな捨て台詞を残してあの男は去っていった。いや、無理矢理追い出した訳だが。
 今、誰かが私を失脚させても私は黙ってこの部屋から出ていくだけだろう。こんな座を欲する愚か者を心の中で憐れみながら。しかし、そんな気概のある者は誰もいない。誰もだ。

 そんな事を考えていると、部屋の外から誰かが言い争う声がした。一体誰だ?
 バタン。ノックも無しに執務室のドアが開けられ、兵士達を従えた男が入ってきた…。

「成功ですね」
 その男はそう兵士に声をかけられ、肩をすくめた。
「これからが大変だよ」
「奴は往生際が悪かったですね。最後まであんなに怒鳴って、暴れて」
「不意打ちだったからな。まあ、ここだけの話、私はあんな風にはなりたくないがね」
 その男はそう言って兵士と笑みを交わすと、机の上に散らばってしまった書類を集めて、読み始めた。


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