80 幾千夜
あなたの影が月に写っていたので、私は急いで月に背を向けた。森に入ってフクロウを探そうとしたけれども、フクロウは一羽も鳴いてくれない。野原で花を探すふりをしようとしたけれども、夜の野原には花など一輪も咲いていない。小川に魚を探すふりをしたけれども、川は暗くて中は見えない。
あてもなく歩きまわった私はある事を思い出して足を早めた。
森の向こうの深い湖。あそこならば月の影が写っているかもしれない。湖に写っている影を眺めるだけならば、私があなたを見ていると気づかれずにすむかもしれない。
私は湖におそるおそる近づいた。静かな水面には月が綺麗に写っている。
でも、湖面の月影を一目見て、私は慌てて湖に背を向けて森に向かって走り出した。
あなたの影に背を向け続けて、幾千夜。あの時、あなたが微笑みかけてくれた気がしたのは気のせいだろうか。