50 合言葉
海の中に魚の卵がありました。千も二千もあってもうちょっとで孵化しそうです。中でくるくると小さな魚達が動いているのがわかります。
一つの卵の中の稚魚が隣の卵の稚魚に話しかけました。
「僕たち、外に出ても仲良くしようよ」
「いいよ。でも、みんな一斉に卵の外にでるから誰が誰かわからなくなるよ」
「合い言葉を決めようよ」
「いいよ。じゃあ、『海』は?」
「いいよ。じゃあ、『海』!」
稚魚達は嬉しくなってくるくると卵の中で回りました。
その隣の卵も楽しそうだと思って隣の隣の卵に言いました。
「僕たちも合い言葉を決めようよ」
「いいよ」
「じゃあ、『花』ね」
「『花』!」
合い言葉はあっと言う間に卵達の中に広まりました。それぞれが合い言葉を決めたので合い言葉の数はあっという間に膨れ上がりました。それで、誰かが全部の合い言葉をつなげて楽しい歌にしました。
「海と花、風と波、光に鱗に尻尾、目玉、海草、雲・・・・」
千もの卵が合唱し、あまりの楽しさにたまたま側に居た貝も控えめに貝殻をパクパクさせました。
稚魚達が孵化をして卵の外に出てくるのも、もうすぐです。