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 40 言葉遊び


 学校の休み時間。友達がふざけていた。
「ふとんがふっとんだ!」
「かみがかみついた!」
「でんわにはでんわ!」
 私のすぐ後ろの席に座っている桃ちゃんはその一つ一つのダジャレに律儀に反応してコロコロと笑っている。
(つき合いのいい人だな・・・)
 桃ちゃんは最近転入してきた人で、とても明るくってよく笑う。
 桃ちゃんが笑う様子は見ていて楽しかったけれども、私にはとても真似できない。周りの明るい雰囲気を壊さないように私はそっと席を立って廊下にでた。
「もんちゃん」
 驚いた事に桃ちゃんが私の後を追っかけてきた。あまり親しくないのにあだ名で呼ばれたのにも驚いたかも。私の名前は門 裕美(かど ひろみ)っていう。親しい人は名字からもんちゃんって呼ぶ。
「もしかしてうるさかった?」
「ううん、全然・・・」
 雰囲気に馴染めなかっただけ。でもやっぱりうるさいと思っていたのかな?
「もんちゃんも一緒に笑ってくれれば楽しいのに」
「ごめん。あの駄洒落じゃ笑えない」
 私は思わず真顔で断ってしまった。
 桃ちゃんはそれを聞いてコロコロと笑った。本当に笑い惜しみ? のしない人だ。
「でも、わかる。私もこうなったのはすごく最近なの」
 桃ちゃんは笑いすぎて涙をポロポロと出てきてしまったので、ハンカチで拭きながら話していた。笑いすぎ。
「ええ? そうだったんだ」
 桃ちゃんが嘘をつくとは思わないけれど、とても信じられない。
「そうなの」
 桃ちゃんはコクコクと頷いた。
「だからもんちゃんも笑おうと思えば笑えるよ」
「それは、どうかなぁ」
 私はおもいっきり疑わしげな口調でそう言ってしまった。
 桃ちゃんは気を悪くした様子もなくニコニコとしている。
「もんちゃんも私みたいに笑いたい?」
「うーん・・・。私が桃ちゃんみたいに笑ったらおかしく見えるんじゃないかな?」
「大丈夫。笑えば楽しくなるし、そうすれば周りがどう思っているかなんて気にならないよ」
「それってやっぱりおかしく見えるって事?」
「大丈夫。もんちゃん笑えば可愛いって」
 桃ちゃんはやっぱりニコニコしながらそう言った。私はつい、『そうなのかな?』と思ってしまった。
「そう?」
 そう言ってしまって恥ずかしくなってやっぱりやめたといおうとした時。
「話は決まりね」
 桃ちゃんは素早くそう言うと私の肩をポンと叩いてこう言った。
「交代!」
「え?! 何が交代?」
 桃ちゃんは私の問いには答えずに真面目な顔でこう言った。
「この前、私、学校の帰りに妖怪に会ったの」
「え?」
「そうしたら、その妖怪が私に『何か、ようかい?』って」
 桃ちゃんがそう言うのを聞いたら、私は急におかしくなって、笑えてきた。うわ。笑いすぎて涙がでてくる。
 しばらく笑っていたら、授業開始のチャイムが鳴った。私はすっきりした気分で教室に戻った。

 その頃、桃ちゃんは学校から抜け出して近くの神社で使いの竜を待っていた。しばらくして、竜がそっと空から降りてきた。
「お使いは、終わりましたか」
 竜が、桃ちゃんに訊ねた。桃ちゃんが頷くと、竜は『お疲れさま』と言って、桃ちゃんに背中に乗るように促した。
「笑いすぎてすごく疲れた。しかも、これ意味があるの?」
「縁起担ぎですから」
 竜がなだめるように言った。
「『笑う門には福来る』という事で、名前に『門』のつく人に沢山笑って貰うのが恒例行事になっています」
「七福神のお爺ちゃんも、もんちゃんを直接笑い上戸にしてくれればいいのに」
「人間の前に直接姿を現すと、何かと不都合があるみたいですから。それに楽しかったでしょう?」
「笑いすぎて疲れたし、バカバカしい冗談も言わなければならなかったし・・・」
 桃ちゃんは竜にそう言いましたが、竜が桃ちゃんの方をこっそり見てみると、何だかすっきりとした表情をしていたとの事でした。


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