【解説】「フジ住宅内部資料」の公開について
                                                      2016.3.13

 ウェブ上で皆様に提供しますこの資料は、育鵬社の中学校教科書の採択運動をするよう勤務先の会社から強要され、ヘイトハラスメントを受けたことについて、フジ住宅(東証一部上場、岸和田市、1,130人)への慰謝料の賠償訴訟を行っている同社の従業員を支援する「ヘイトハラスメント裁判を支える会」から私たち「子どもたちに渡すな!あぶない教科書 大阪の会」へ、この問題に関心をもつ方々に利用していただくことを目的に提供されたものです。

 「フジ住宅内部資料」は、フジ住宅が従業員全員に、時には連日のように配布した膨大な量の文書の中から、私たち「大阪の会」が調査し、教科書採択運動に関連する重要なものだけを選んだものです。

資料の掲載順序は、最初に配布資料の表紙(たとえばp.1,8,9,12など)を日付け順に載せ、次にその内部に綴じられている教科書関係資料のみを掲載しています。したがって、表紙に目次として記されたすべての資料を載せているわけではありません。

資料に記載されている内容には、個人情報に関するものもあり、フジ住宅の要職にある人物や育鵬社・日本再生機構の関係者、行政関係で公的な役職をもつ人以外の個人名や住所・メールアドレスなどは、プライバシー保護のため墨塗りをしています。また赤字の下線も、資料のうち注意すべき点として「大阪の会」が付けました

 ただし、上記以外の黒色の下線や〇印、また手書き文字などがあります。これは、フジ住宅による教科書運動の中心人物、同社の今井光郎会長による書き入れです

 

1 資料から判明するフジ住宅の教科書採択運動

同社の今井光郎会長は、日本会議に所属する倫理研究所の法人組織・倫理法人会の会員であり、日本会議が組織している教科書運動体「日本教育再生機構」へ会社として資金提供もしています。同機構が採択運動を進めてきた育鵬社の中学校教科書について、育鵬社教科書事業部の吉留哲也が「大阪市については教科書展示場にて数多く教科書アンケートを記入していただければ、育鵬社に採択される可能性が高くなる」と今井会長に告げたことから、とくに大阪市に集中した採択運動をフジ住宅が展開したものです。

今井会長は、男性はフジ住宅の社章を外し、女性は制服を着替えて私服で展示場へ行くよう指示し(勤務時間中、社の車に分乗、パートは時間給を支払う)、育鵬社が良いとするアンケートを記入させるとともに、未記入のアンケート用紙を大阪市内33の展示場のうち32箇所から持ち帰らせ、なかには一度に150枚前後を持ち帰った場合も複数回あり、持ち帰り総数は最低1,232枚を確認できます。

持ち帰ったアンケート用紙は、展示場ごとで形式が少しずつ異なるため、秘書室で分別管理し(このため持ち帰りが多い)、自社でアンケート記入させ(これでは教科書全体を閲覧する展示会の意味がない、育鵬社を推す例文も示された)、再び都合に合わせ展示場を回り投函させました。資料から確認できる投函回数は最低217回(同一人物が1日複数回が常態)であり、 そのうち、他人の書いたものを提出したことが確認できるものもあります。1回の投函・記入で1〜7人分の投函がなされていますので、総アンケート数は600枚以上になることが推定されます。これは、大阪市教育委員会の集計した779件に近づき、その多くがフジ住宅によるものであることが分かります(私たちが請求したアンケート用紙が情報開示されたことにより、より正確に両者の関係が判定できると思われます)。

2 大阪市教育委員会の責任

 大阪市教育委員会の教科書採択は、学校現場などの声を尊重するかつての立場から、ここ数年、6人の教育委員による合議のみで決定する方向へと進んできました。しかし、育鵬社の教科書の採択をめぐっては支持・不支持が拮抗し、育鵬社が今井会長に伝えた時期と推定される5月末にはどうなるか分からず、アンケート数で決める方式が採用されたと推定されます。この方法自体を一概に不当とすることはできないまでも、もしそうするのであれば、公正な方法・ルールのもとで教育委員会自身が厳正に管理する必要がありました。

 しかし、アンケート用紙を大量に持ち帰ることが可能な形で実施したのみならず、氏名・住所の記入さえさせなかったため、大阪市街から大量のアンケートが寄せられ、同一人物が重複して投函する不正や、他人が書いた用紙を投函することも許しました。なぜこのようにずさんで不正な方法を採ったのか、その責任が問われると思います。

 しかも、教育委員会は、上記のようなずさん・不正な方法のもとで投票された用紙を集計し、数値化し、85日の会議の冒頭で報告しました。こうした報告がなければ、採択がどうなったか分からない実質3:2の僅差で育鵬社は採択されています。この僅かな票差に影響を与えないため、傍聴者を閉め出して採択会議を開いたとも考えられます。

 さらにもう一つの疑問は、「大阪市の昨年の教科書採択については、アンケートが決めてとなる」という内容は、教育委員会のどのレベルで共有された情報なのか、という問題があります。いずれにせよ育鵬社にこの情報を漏洩させたのはその関係者であることに間違いなく、結果としてであれ、特定の社のみにこうした重大情報を不公平に流すことになった管理責任は教育委員会自身にあります。

以上、大阪市教育委員会について述べてきた事実は「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」第1条の2「教育行政は…公正かつ適正に行われなければならない」に違反したものです。

3 育鵬社と日本教育再生機構の責任

 育鵬社と日本教育再生機構は、上記のような今井会長以下のフジ住宅による不正な教科書運動のあり方を知りながら(今回お渡しした資料は、すべて育鵬社・日本教育再生機構へも送られています)、その不正な採択運動に積極的に協力し、励まし、自らの教科書が大阪市で採択されたのちには深い感謝の念を伝えています。これは「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」第2条第9項第6号ハが禁じる「不当に競争者の顧客(この場合、教育委員会―引用者による)を自己と取引するよう誘引し、又は強制すること」に該当することを付言しておきます。この件については、改めて公正取引委員会へ提訴する予定です。

                                                        以上

フジ住宅資料トップへ