戸田和光 編
例によって、私は多岐川恭の著書を系統だって読んでいない。ミステリを読み始めた頃には、時代小説の執筆が増えてきていたこともあってか、多岐川作品だから読む、ということはして来なかったからだ。
ただ、昭和三十年代デビュー作家のリストを作っていて、笹沢左保をまとめたからは、次は多岐川かな、とは思った。例によって、完全なリストなど作れないだろうが、現時点で把握しているものをまとめておくなら、次はここだろうと思ったのだ。
書名 | 別題 | 区分 | 出版社 | 出版年月 | 文庫 | 備考 |
氷柱 | 長編 | 河出書房新社 | 1958年6月 | ◎ | ||
濡れた心 | 長編 | 講談社 | 1958年11月 | |||
落ちる | 短編 | 河出書房新社 | 1958年11月 | |||
黒い木の葉 | 短編 | 河出書房新社 | 1959年3月 | |||
虹が消える | 残酷な報酬 | 長編 | 河出書房新社 | 1959年11月 | ||
好色な窓 | 短編 | 講談社 | 1959年12月 | ― | ||
私の愛した悪党 | 長編 | 講談社 | 1960年2月 | ◎ | ||
死体の喜劇 | 短編 | 新潮社 | 1960年3月 | ― | ||
静かな教授 | 恐怖の戯れ | 長編 | 河出書房新社 | 1960年5月 | ◎ | |
変人島風物誌 | 長編 | 桃源社 | 1961年1月 | ◎ | ||
悪人の眺め | 短編 | 角川書店 | 1961年1月 | ― | ||
仮面と衣装 | 長編 | 浪速書房 | 1961年3月 | ― | ||
影あるロンド | 長編 | 講談社 | 1961年3月 | ― | ||
手の上の情事 | 短編 | 東都書房 | 1961年3月 | ― | ||
異郷の帆 | 長編 | 新潮社 | 1961年6月 | |||
おとなしい妻 | 短編 | 新潮社 | 1961年7月 | ― | ||
お茶とプール | 長編 | 角川書店 | 1961年8月 | ◎ | ||
イブの時代 | 長編 | 中央公論社 | 1961年8月 | |||
人でなしの遍歴 | 長編 | 東都書房 | 1961年9月 | ◎ | ||
指先の女 | 短編 | 桃源社 | 1961年10月 | ― | ||
絶壁 | 長編 | 毎日新聞社 | 1961年12月 | ― | ||
孤独な共犯者 | 長編 | 早川書房 | 1962年1月 | |||
吸われざる唇 | 長編 | 講談社 | 1962年1月 | ― | ||
牝 | めす | 長編 | 東京文芸社 | 1962年2月 | ||
兵隊・青春・女 | エ短 | 七曜社 | 1962年4月 | ― | ||
女人用心帖 | 長編 | 桃源社 | 1962年4月 | |||
処刑 | 長編 | 宝石社 | 1962年6月 | ― | ||
樹の中の声 | 長編 | 東都書房 | 1962年12月 | ― | ||
夜の装置 | 短編 | 講談社 | 1963年1月 | ― | ||
氷柱・ある脅迫 | 長/短 | 河出書房新社 | 1963年4月 | ― | 再録が大半 | |
愛憎の接点 | 短編 | 東方社 | 1963年7月 | ― | ||
五右衛門処刑 | 短編 | 桃源社 | 1963年8月 | |||
好都合な死体 | 短編 | 東京文芸社 | 1963年9月 | ― | ||
乳色の暦 | 長編 | 桃源社 | 1963年12月 | ― | ||
悪魔の賭け | 短編 | 東方社 | 1964年2月 | ― | 廣済堂版は内容が異なる再編集本 | |
みれんな刑事 | 長編 | 講談社 | 1964年4月 | ― | ||
甘いホテル | 長編 | 講談社 | 1964年11月 | ― | ||
消せない女 | 長編 | 講談社 | 1965年7月 | |||
明暦群盗図 | 長編 | 桃源社 | 1965年9月 | |||
墓場への持参金 | 長編 | 光文社 | 1965年12月 | |||
売り出す | 長編 | 東京文芸社 | 1966年2月 | ― | ||
宿命と雷雨 | 長編 | 読売新聞社 | 1967年4月 | |||
ふところの牝 | 長編 | 東京文芸社 | 1967年4月 | |||
異端の三河武士 | 叛臣 | 短編 | 人物往来社 | 1967年6月 | ||
無頼の十字路 | 連作 | 桃源社 | 1967年12月 | ― | ||
江戸悪人帖 | 連作 | 桃源社 | 1968年4月 | |||
江戸の犯科帳 | 江戸犯科帖 | 短編 | 人物往来社 | 1968年4月 | ||
江戸三尺の空 | 仇討ち御用帳 | 長編 | 東京文芸社 | 1968年7月 | ||
牝の芳香 | 連作 | 桃源社 | 1968年8月 | ― | ||
殺意の海 | 短編 | 日本文華社 | 1969年3月 | ― | ||
老いた悪魔 | 短編 | 桃源社 | 1969年4月 | ― | ||
殺人者はいない | 短編 | 桃源社 | 1969年6月 | ― | ||
女のいる迷路 | 短編 | 桃源社 | 1969年10月 | ― | ||
無頼の残光 | 駈落ち | 短編 | 桃源社 | 1969年11月 | ||
非常階段 | 短編 | 桃源社 | 1969年12月 | ― | ||
ドキュメント戦国 武田騎兵団玉砕す | 武田軍団壊滅 | ドキュメント | 人物往来社 | 1970年1月 | ||
詐謀の城砦 | 短編 | 日本文華社 | 1970年2月 | ― | ||
悪女の挨拶 | 短編 | 桃源社 | 1970年4月 | ― | ||
牝の感触 | 短編 | 桃源社 | 1970年11月 | ― | ||
消えた日曜日 | 長編 | 桃源社 | 1971年4月 | |||
柳生の剣 | 長編 | 新人物往来社 | 1971年4月 | |||
姉小路卿暗殺 | 長編 | 講談社 | 1971年4月 | ― | ||
江戸智能犯 | べらんめえ侍 | 短編 | 桃源社 | 1971年6月 | ||
深川売女宿 | 出戻り侍 | 短編 | 桃源社 | 1972年2月 | ||
男は寒い夢を見る | 長編 | 桃源社 | 1972年6月 | |||
乱れた関係 | 短編 | 桃源社 | 1972年9月 | ― | ||
元禄葵秘聞 | 長編 | 講談社 | 1972年11月 | |||
残された女 | 短編 | 桃源社 | 1972年12月 | ― | ||
捕獲された男 | 短編 | 桃源社 | 1973年4月 | ― | ||
練塀小路のやつら | 練塀小路の悪党ども | 連作 | 講談社 | 1973年9月 | ||
射殺の部屋 | 短編 | 桃源社 | 1973年12月 | ― | ||
女たちの夜 | 短編 | 桃源社 | 1974年7月 | ― | ||
悪の絵草紙 | 連作 | 講談社 | 1975年2月 | |||
しくじった償い | 短編 | 桃源社 | 1975年3月 | ― | ||
血の匂い | 短編 | 桃源社 | 1975年8月 | ― | ||
馳けろ雑兵 御先祖様功名記 | 連作 | 桃源社 | 1975年9月 | |||
殺人ゲーム | 短編 | ワールドフォトプレス | 1975年11月 | ― | ||
お江戸探索御用 悪道の巻 | 長編 | 桃源社 | 1976年6月 | 合冊版もあり | ||
お江戸探索御用 迷路の巻 | 長編 | 桃源社 | 1976年7月 | 〃 | ||
犯罪旅行 | 短編 | 桃源社 | 1976年8月 | ― | ||
道化たちの退場 | 長編 | 講談社 | 1976年8月 | ― | ||
色仕掛 闇の絵草紙 | 連作 | 新潮社 | 1976年10月 | |||
開化回り舞台 | 開化怪盗団 | 長編 | 双葉社 | 1977年4月 | ||
紅い蜃気楼 | 長編 | 徳間書店 | 1978年7月 | |||
的の男 | 長編 | 実業之日本社 | 1978年7月 | ◎ | ||
怖い依頼人 K・K探偵局 | 連作 | 桃園書房 | 1978年9月 | ― | ||
13人の殺人者 | 短編 | 講談社 | 1978年10月 | ― | ||
用心棒 | 長編 | 新潮社 | 1978年11月 | |||
色あそび お丹浮寝旅 | お丹浮寝旅 | 長編 | サンケイ出版 | 1980年5月 | ||
岡っ引無宿 | 連作 | 講談社 | 1981年1月 | |||
鼠小僧の冒険 | 色懺悔 鼠小僧盗み草紙 | 連作 | 双葉社 | 1981年6月 | ||
飼われた男 お夏太吉捕物控 | お夏太吉捕物控 | 連作 | 実業之日本社 | 1982年3月 | ||
暗闇草紙 | 長編 | 講談社 | 1982年5月 | |||
首打人左源太 | 連作 | 双葉社 | 1983年12月 | |||
追われて中仙道 | 連作 | 光風社出版 | 1984年3月 | |||
共犯者は一度会えばいい | 長編 | 実業之日本社 | 1984年6月 | ― | ||
京都で消えた女 | 長編 | 講談社 | 1984年7月 | |||
微笑する悪魔 | 短編 | 光風社出版 | 1984年8月 | ― | ||
おやじに捧げる葬送曲 | 長編 | 講談社 | 1984年11月 | ◎ | ||
闇与力女秘帖 | 闇与力おんな秘帖 | 連作 | 講談社 | 1985年7月 | ||
偽りの刑場 首打人左源太 | 連作 | 双葉社 | 1985年9月 | |||
地獄のカレンダー | 連作 | 実業之日本社 | 1985年11月 | ― | ||
血の色の喜劇 | 連作 | 桃園書房 | 1986年1月 | ☆ | ||
霧子、閃く! | 連作 | 勁文社 | 1986年2月 | ― | ||
片手斬り同心 首打人左源太 | 連作 | 双葉社 | 1987年2月 | |||
長崎で消えた女 | 長編 | 講談社 | 1987年3月 | |||
仙台で消えた女 | 長編 | 講談社 | 1988年7月 | |||
晴れ曇り八丁堀 | かどわかし | 連作 | 双葉社 | 1989年4月 | ||
江戸の一夜 | 短編 | 光風社出版 | 1989年11月 | |||
春色天保政談 | 長編 | 新潮社 | 1990年6月 | |||
居座り侍 | 短編 | 光文社 | 1990年7月 | ☆ | ||
色仕掛 深川あぶな絵地獄 | 連作 | 新潮社 | 1990年7月 | ☆ | ||
昼下がりの殺人 | 短編 | 光風社出版 | 1991年5月 | ― | ||
殺意を砥ぐ | 短編 | 光風社出版 | 1991年8月 | ― | ||
紅屋お乱捕物秘帖 | 連作 | 双葉社 | 1991年9月 | |||
落花の人 日本史の人物たち | NF | 光風社出版 | 1991年11月 | ― | ||
罠を抜ける | 短編 | 光風社出版 | 1992年3月 | ― | ||
夢魔の寝床 | 短編 | 光文社 | 1992年3月 | ☆ | ||
心中くずし 紅屋お乱捕物秘帖 | 連作 | 双葉社 | 1992年5月 | |||
不運な死体 | 短編 | 光風社出版 | 1992年7月 | ― | ||
ご破算侍 | 短編 | 光文社 | 1993年5月 | ☆ | ||
情なしお源金貸し捕物帖 | 連作 | 双葉社 | 1994年1月 | |||
江戸の敵 | 短編 | 光風社出版 | 1994年6月 | |||
レトロ館の殺意 | 長編 | 新潮社 | 1995年4月 | ― | ||
落ちる/黒い木の葉 | 短編 | 筑摩書房 | 2018年7月 | ☆ | 一編のみ初収録 | |
ゆっくり雨太郎捕物控 | 新潮社 | 1968 | ||||
雨太郎無頼帖 | 桃源社 | 1969 | ||||
悪い連中 | 新潮社 | 1973 | ||||
魔性 | 新潮社 | 1975 | ||||
ゆっくり雨太郎捕物控 | 春陽堂書店 | 1972 | ||||
ゆっくり雨太郎捕物控 続 | 春陽堂書店 | 1973 | ||||
蔦屋の心中 | 光風社出版 | 1980 | ||||
犬を飼う侍 | 光風社出版 | 1981 | ||||
二人の浪人 | 光風社出版 | 1981 | ||||
からくり茶屋 | 光風社出版 | 1982 | ||||
人形屋お仙 | 光風社出版 | 1982 | ||||
天狗の使い | 光風社出版 | 1982 | ||||
狙われる奴 | 光風社出版 | 1982 | ||||
ゆっくり雨太郎捕物控 1 | 徳間書店 | 1987 | ||||
ゆっくり雨太郎捕物控 2 | 徳間書店 | 1987 | ||||
ゆっくり雨太郎捕物控 3 | 徳間書店 | 1987 | ||||
ゆっくり雨太郎捕物控 4 | 徳間書店 | 1988 | ||||
ゆっくり雨太郎捕物控 5 | 徳間書店 | 1988 | ||||
ゆっくり雨太郎捕物控 6 | 徳間書店 | 1988 | ||||
ゆっくり雨太郎捕物控 1 (土壇場の言葉) | ランダムハウス講談社 | 2008 | ||||
ゆっくり雨太郎捕物控 2 (生霊騒ぎ) | ランダムハウス講談社 | 2008 | ||||
ゆっくり雨太郎捕物控 3 (るりの恩人) | ランダムハウス講談社 | 2008 | ||||
ゆっくり雨太郎捕物控 4 (人形屋お仙) | ランダムハウス講談社 | 2008 | ||||
ゆっくり雨太郎捕物控 5 (つららの宿) | ランダムハウス講談社 | 2008 | ||||
ゆっくり雨太郎捕物控 6 (刀の錆) | ランダムハウス講談社 | 2008 | ||||
目明しやくざ | 桃源社 | 1973 | ||||
江戸妖花帖 | 桃源社 | 1975 | ||||
江戸妖花帖 | 光文社 | 1992 | 文庫化にあたり再編 | |||
目明しやくざ | 光文社 | 1993 | 文庫化にあたり再編 | |||
肌に覚えが 富太郎捕物ばなし | 桃園書房 | 1980 | ||||
後家ごろし 四方吉捕物控 | 光風社出版 | 1982 | ||||
毒のある女 四方吉捕物控 | 光風社出版 | 1982 | ||||
四方吉捕物控 1 (後家ごろし) | 徳間書店 | 1992 | ||||
四方吉捕物控 2 (後家の愉しみ) | 徳間書店 | 1992 | ||||
四方吉捕物控 3 (肌に覚えが) | 徳間書店 | 1993 | ||||
お江戸捕物絵図 | 光風社出版 | 1989 | ||||
闇十手 お江戸捕物絵図 | 祥伝社 | 1994 | ||||
鬼十手 お江戸捕物絵図 | 祥伝社 | 1995 |
例によって、収録作品の変動がややこしそうな連作は、下部に別に並べた。基本的に、“ゆっくり雨太郎シリーズ”が最大の懸案にありそうだが、他にも、文庫化にあたり再編集されたり、分冊化されたものもあるので、それらをまとめている。
なお、“ゆっくり雨太郎シリーズ”については、既にまとめた稿があるので、そちらをご確認いただければと思う。
著書をまとめた時点で、あれこれ気づくこともある(長編が案外少ない、とか)が、これを見てまず思ったのは、こと短編集に関しては、多岐川はかなり恵まれていた作家だったのだな――ということだろう。昭和40年代に、ノンシリーズの短編集をここまで刊行していた作家は、それ程多くない印象があったからだ。鮎川なども、昭和50年以降に刊行された作品が多かったように思うからだ。
そして、その一方で思ったのが、再刊(一般的には、文庫化)には余り恵まれなかったようだ――ということだろうか。昭和40年代前後に刊行された推理小説の短編集は、笑ってしまうくらいに、一冊も文庫化されていないのだ。推理小説の短編集で文庫化されている(文庫オリジナルの作品は除く)のは、初期の『落ちる』と『黒い木の葉』くらいだ。それも、春陽文庫のイメージがあるから、実質的な再刊は、つい先頃のそれしか思いつかない。長編も、創元推理文庫での選集によって、代表的なものは文庫に入ったが、それでも初刊本しかないものも多い。
一方で、時代小説については、長編にしろ、短編集にしろ、それなりに再刊されているのが興味深いところだ。少なくとも、平成が始まる頃には、多岐川は時代小説の作家だ、と一般的に思われていた気がする。それでも、だからこそ新刊が刊行されていた、ということを考えれば、それなりに幸せな作家という気もするが、これについては、これ以上の考察はしないでおこう。
なお、文庫の項は、“―”は文庫化されていないもの、“☆”は文庫オリジナル(文庫しか存在しない)ものを指す。また、“◎”は、創元推理文庫の選集に収められている長編であることを示す。
こんなリストでも、多少は何らかの参考になると信じて……。
戸田和光