多岐川恭 著作リスト(若干改訂版)

戸田和光 編


本リストについて

 例によって、私は多岐川恭の著書を系統だって読んでいない。ミステリを読み始めた頃には、時代小説の執筆が増えてきていたこともあってか、多岐川作品だから読む、ということはして来なかったからだ。
 ただ、昭和三十年代デビュー作家のリストを作っていて、笹沢左保をまとめたからは、次は多岐川かな、とは思った。例によって、完全なリストなど作れないだろうが、現時点で把握しているものをまとめておくなら、次はここだろうと思ったのだ。

 ――ただ、作業を始めてみて、これは案外と厄介かも、ということに気が付く。笹沢リストを作った直後、ということもあるのだろうが、先行者がまとめたリストが案外と少ないのだ。もともとが、継ぎ接ぎして作成しているだけのものではあるが、その材料さえ、案外と少ないのである。何より、著書リストさえも見当たらなかった……。国会図書館でさえ著作が揃っていないようで、ベースとするのにも若干の戸惑いも感じてしまった。それでも、それにいくつかの作品を追加するように努めて……。

 そんな次第で、見切り発車版を作成してみたところ、若干の情報提供があって、ほぼほぼ著書リストとしては、これでだいたい合っていそう、という自信が持てた。そんな訳で、タイトルも若干進めてみた。それでも、絶対の自信がある訳ではないが……。

 いつも以上にお粗末なリストになってしまったけれど、ミスや情報等がありましたら、ご指摘ください。


多岐川恭 著作リスト

書名別題区分出版社出版年月文庫備考
氷柱 長編 河出書房新社 1958年6月
濡れた心 長編 講談社 1958年11月
落ちる 短編 河出書房新社 1958年11月
黒い木の葉 短編 河出書房新社 1959年3月
虹が消える 残酷な報酬 長編 河出書房新社 1959年11月
好色な窓 短編 講談社 1959年12月
私の愛した悪党 長編 講談社 1960年2月
死体の喜劇 短編 新潮社 1960年3月
静かな教授 恐怖の戯れ 長編 河出書房新社 1960年5月
変人島風物誌 長編 桃源社 1961年1月
悪人の眺め 短編 角川書店 1961年1月
仮面と衣装 長編 浪速書房 1961年3月
影あるロンド 長編 講談社 1961年3月
手の上の情事 短編 東都書房 1961年3月
異郷の帆 長編 新潮社 1961年6月
おとなしい妻 短編 新潮社 1961年7月
お茶とプール 長編 角川書店 1961年8月
イブの時代 長編 中央公論社 1961年8月
人でなしの遍歴 長編 東都書房 1961年9月
指先の女 短編 桃源社 1961年10月
絶壁 長編 毎日新聞社 1961年12月
孤独な共犯者 長編 早川書房 1962年1月
吸われざる唇 長編 講談社 1962年1月
めす 長編 東京文芸社 1962年2月
兵隊・青春・女 エ短 七曜社 1962年4月
女人用心帖 長編 桃源社 1962年4月
処刑 長編 宝石社 1962年6月
樹の中の声 長編 東都書房 1962年12月
夜の装置 短編 講談社 1963年1月
氷柱・ある脅迫 長/短 河出書房新社 1963年4月 再録が大半
愛憎の接点 短編 東方社 1963年7月
五右衛門処刑 短編 桃源社 1963年8月
好都合な死体 短編 東京文芸社 1963年9月
乳色の暦 長編 桃源社 1963年12月
悪魔の賭け 短編 東方社 1964年2月 廣済堂版は内容が異なる再編集本
みれんな刑事 長編 講談社 1964年4月
甘いホテル 長編 講談社 1964年11月
消せない女 長編 講談社 1965年7月
明暦群盗図 長編 桃源社 1965年9月
墓場への持参金 長編 光文社 1965年12月
売り出す 長編 東京文芸社 1966年2月
宿命と雷雨 長編 読売新聞社 1967年4月
ふところの牝 長編 東京文芸社 1967年4月
異端の三河武士 叛臣 短編 人物往来社 1967年6月
無頼の十字路 連作 桃源社 1967年12月
江戸悪人帖 連作 桃源社 1968年4月
江戸の犯科帳 江戸犯科帖 短編 人物往来社 1968年4月
江戸三尺の空 仇討ち御用帳 長編 東京文芸社 1968年7月
牝の芳香  連作 桃源社 1968年8月
殺意の海 短編 日本文華社 1969年3月
老いた悪魔 短編 桃源社 1969年4月
殺人者はいない 短編 桃源社 1969年6月
女のいる迷路 短編 桃源社 1969年10月
無頼の残光 駈落ち 短編 桃源社 1969年11月
非常階段 短編 桃源社 1969年12月
ドキュメント戦国 武田騎兵団玉砕す 武田軍団壊滅 ドキュメント 人物往来社 1970年1月
詐謀の城砦 短編 日本文華社 1970年2月
悪女の挨拶 短編 桃源社 1970年4月
牝の感触 短編 桃源社 1970年11月
消えた日曜日 長編 桃源社 1971年4月
柳生の剣 長編 新人物往来社 1971年4月
姉小路卿暗殺 長編 講談社 1971年4月
江戸智能犯 べらんめえ侍 短編 桃源社 1971年6月
深川売女宿 出戻り侍 短編 桃源社 1972年2月
男は寒い夢を見る 長編 桃源社 1972年6月
乱れた関係 短編 桃源社 1972年9月
元禄葵秘聞 長編 講談社 1972年11月
残された女 短編 桃源社 1972年12月
捕獲された男 短編 桃源社 1973年4月
練塀小路のやつら 練塀小路の悪党ども 連作 講談社 1973年9月
射殺の部屋 短編 桃源社 1973年12月
女たちの夜 短編 桃源社 1974年7月
悪の絵草紙 連作 講談社 1975年2月
しくじった償い 短編 桃源社 1975年3月
血の匂い 短編 桃源社 1975年8月
馳けろ雑兵 御先祖様功名記 連作 桃源社 1975年9月
殺人ゲーム 短編 ワールドフォトプレス 1975年11月
お江戸探索御用 悪道の巻 長編 桃源社 1976年6月 合冊版もあり
お江戸探索御用 迷路の巻 長編 桃源社 1976年7月   〃  
犯罪旅行 短編 桃源社 1976年8月
道化たちの退場 長編 講談社 1976年8月
色仕掛 闇の絵草紙 連作 新潮社 1976年10月
開化回り舞台 開化怪盗団 長編 双葉社 1977年4月
紅い蜃気楼 長編 徳間書店 1978年7月
的の男 長編 実業之日本社 1978年7月
怖い依頼人 K・K探偵局 連作 桃園書房 1978年9月
13人の殺人者 短編 講談社 1978年10月
用心棒 長編 新潮社 1978年11月
色あそび お丹浮寝旅 お丹浮寝旅 長編 サンケイ出版 1980年5月
岡っ引無宿 連作 講談社 1981年1月
鼠小僧の冒険 色懺悔 鼠小僧盗み草紙 連作 双葉社 1981年6月
飼われた男 お夏太吉捕物控 お夏太吉捕物控 連作 実業之日本社 1982年3月
暗闇草紙 長編 講談社 1982年5月
首打人左源太 連作 双葉社 1983年12月
追われて中仙道 連作 光風社出版 1984年3月
共犯者は一度会えばいい 長編 実業之日本社 1984年6月
京都で消えた女 長編 講談社 1984年7月
微笑する悪魔 短編 光風社出版 1984年8月
おやじに捧げる葬送曲 長編 講談社 1984年11月
闇与力女秘帖 闇与力おんな秘帖 連作 講談社 1985年7月
偽りの刑場 首打人左源太 連作 双葉社 1985年9月
地獄のカレンダー 連作 実業之日本社 1985年11月
血の色の喜劇 連作 桃園書房 1986年1月
霧子、閃く! 連作 勁文社 1986年2月
片手斬り同心 首打人左源太 連作 双葉社 1987年2月
長崎で消えた女 長編 講談社 1987年3月
仙台で消えた女 長編 講談社 1988年7月
晴れ曇り八丁堀 かどわかし 連作 双葉社 1989年4月
江戸の一夜 短編 光風社出版 1989年11月
春色天保政談 長編 新潮社 1990年6月
居座り侍 短編 光文社 1990年7月
色仕掛 深川あぶな絵地獄 連作 新潮社 1990年7月
昼下がりの殺人 短編 光風社出版 1991年5月
殺意を砥ぐ 短編 光風社出版 1991年8月
紅屋お乱捕物秘帖 連作 双葉社 1991年9月
落花の人 日本史の人物たち NF 光風社出版 1991年11月
罠を抜ける 短編 光風社出版 1992年3月
夢魔の寝床 短編 光文社 1992年3月
心中くずし 紅屋お乱捕物秘帖 連作 双葉社 1992年5月
不運な死体 短編 光風社出版 1992年7月
ご破算侍 短編 光文社 1993年5月
情なしお源金貸し捕物帖 連作 双葉社 1994年1月
江戸の敵 短編 光風社出版 1994年6月
レトロ館の殺意 長編 新潮社 1995年4月
落ちる/黒い木の葉 短編 筑摩書房 2018年7月 一編のみ初収録
ゆっくり雨太郎捕物控 新潮社 1968
雨太郎無頼帖 桃源社 1969
悪い連中 新潮社 1973
魔性 新潮社 1975
ゆっくり雨太郎捕物控 春陽堂書店 1972
ゆっくり雨太郎捕物控 続 春陽堂書店 1973
蔦屋の心中 光風社出版 1980
犬を飼う侍 光風社出版 1981
二人の浪人 光風社出版 1981
からくり茶屋 光風社出版 1982
人形屋お仙 光風社出版 1982
天狗の使い 光風社出版 1982
狙われる奴 光風社出版 1982
ゆっくり雨太郎捕物控 1 徳間書店 1987
ゆっくり雨太郎捕物控 2 徳間書店 1987
ゆっくり雨太郎捕物控 3 徳間書店 1987
ゆっくり雨太郎捕物控 4 徳間書店 1988
ゆっくり雨太郎捕物控 5 徳間書店 1988
ゆっくり雨太郎捕物控 6 徳間書店 1988
ゆっくり雨太郎捕物控 1 (土壇場の言葉) ランダムハウス講談社 2008
ゆっくり雨太郎捕物控 2 (生霊騒ぎ) ランダムハウス講談社 2008
ゆっくり雨太郎捕物控 3 (るりの恩人) ランダムハウス講談社 2008
ゆっくり雨太郎捕物控 4 (人形屋お仙) ランダムハウス講談社 2008
ゆっくり雨太郎捕物控 5 (つららの宿) ランダムハウス講談社 2008
ゆっくり雨太郎捕物控 6 (刀の錆) ランダムハウス講談社 2008
目明しやくざ 桃源社 1973
江戸妖花帖 桃源社 1975
江戸妖花帖 光文社 1992 文庫化にあたり再編
目明しやくざ 光文社 1993 文庫化にあたり再編
肌に覚えが 富太郎捕物ばなし 桃園書房 1980
後家ごろし 四方吉捕物控 光風社出版 1982
毒のある女 四方吉捕物控 光風社出版 1982
四方吉捕物控 1 (後家ごろし) 徳間書店 1992
四方吉捕物控 2 (後家の愉しみ) 徳間書店 1992
四方吉捕物控 3 (肌に覚えが) 徳間書店 1993
お江戸捕物絵図 光風社出版 1989
闇十手 お江戸捕物絵図 祥伝社 1994
鬼十手 お江戸捕物絵図 祥伝社 1995

 例によって、収録作品の変動がややこしそうな連作は、下部に別に並べた。基本的に、“ゆっくり雨太郎シリーズ”が最大の懸案にありそうだが、他にも、文庫化にあたり再編集されたり、分冊化されたものもあるので、それらをまとめている。
 なお、“ゆっくり雨太郎シリーズ”については、既にまとめた稿があるので、そちらをご確認いただければと思う。

 著書をまとめた時点で、あれこれ気づくこともある(長編が案外少ない、とか)が、これを見てまず思ったのは、こと短編集に関しては、多岐川はかなり恵まれていた作家だったのだな――ということだろう。昭和40年代に、ノンシリーズの短編集をここまで刊行していた作家は、それ程多くない印象があったからだ。鮎川なども、昭和50年以降に刊行された作品が多かったように思うからだ。
 そして、その一方で思ったのが、再刊(一般的には、文庫化)には余り恵まれなかったようだ――ということだろうか。昭和40年代前後に刊行された推理小説の短編集は、笑ってしまうくらいに、一冊も文庫化されていないのだ。推理小説の短編集で文庫化されている(文庫オリジナルの作品は除く)のは、初期の『落ちる』と『黒い木の葉』くらいだ。それも、春陽文庫のイメージがあるから、実質的な再刊は、つい先頃のそれしか思いつかない。長編も、創元推理文庫での選集によって、代表的なものは文庫に入ったが、それでも初刊本しかないものも多い。
 一方で、時代小説については、長編にしろ、短編集にしろ、それなりに再刊されているのが興味深いところだ。少なくとも、平成が始まる頃には、多岐川は時代小説の作家だ、と一般的に思われていた気がする。それでも、だからこそ新刊が刊行されていた、ということを考えれば、それなりに幸せな作家という気もするが、これについては、これ以上の考察はしないでおこう。

 なお、文庫の項は、“―”は文庫化されていないもの、“☆”は文庫オリジナル(文庫しか存在しない)ものを指す。また、“◎”は、創元推理文庫の選集に収められている長編であることを示す。


 こんなリストでも、多少は何らかの参考になると信じて……。


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戸田和光