戸田和光 編
今回は、そもそもミステリではなく、時代小説作家の著書リストである。
何でこんな作家のものを――と思われるかも知れないが、ちょっと春陽文庫について調べていた際に、昭和三十年代の貸本作家の創作ペースを垣間見て、これはこれですごいかも、という気になり、具体的にとりあえず一人着手してみた、というものに過ぎない。
もともと、現在では半ば忘れられてしまった作家ではあるし、当然ながら、先行リストもない。また、時代小説(貸本小説)というジャンルについての調べ方も承知していないから、洩れも多いだろう。ただ、ちょっとすごいな、と思った点について、まとめてみたかったのである。
加えて、調査の参考にしようとしたこの作家のWikipediaの内容が、特に著書リストについて、余りにも信頼性が薄いとしか思えなかったため、その手直しも兼ねて、整理してみたものになる。
そういったこともあり、今回はいつも以上に、リストのあとの呟きの方に力点があったりする。まあ、ジャンルについてもシロウトであるから、そもそもの認識からして間違っている可能性は否定できないが、その点はご理解の上で、ご覧いただければ幸いである。
そういった訳で、いつも以上にお粗末なリストになってしまったけれど、ミスや情報等がありましたら、ご指摘ください。
書名 | 改題 | 出版社 | 出版年月 | 春陽文庫 | 備考 |
阿修羅武士 | 戦国無情 | 大和出版 | 1957年3月 | 1996年8月 | |
疾風どくろ頭巾 | 洸洋社 | 1957年 | |||
なりひら侍 | 大象勝房 | 1957年 | 1995年5月 | ||
黒帯風雲児 | 洸洋社 | 1957年6月 | |||
素浪人大名 | 大和出版 | 1957年7月 | 1969年1月 | ||
はな唄剣士 | 大和出版 | 1957年8月 | |||
若殿今宵参上 | 大和出版 | 1957年10月 | |||
振袖女大名 | 振袖おんな大名 | 大和出版 | 1957年10月 | 1983年10月 | |
鍔鳴り抜刀流 | 大和出版 | 1957年11月 | 1986年6月 | ||
花吹雪無頼剣 | 大和出版 | 1957年12月 | |||
素浪人只今推参 | 大和出版 | 1958年1月 | 1987年6月 | ||
おも影大名 | おもかげ大名 | 白峰社 | 1958年2月 | 1973年10月 | |
江戸っ子大名 | 大和出版 | 1958年3月 | 1971年7月 | ||
妖姫呪文銭 | 白峰社 | 1958年4月 | |||
勇み肌素浪人 | 振袖伝奇 | 大和出版 | 1958年4月 | 1978年8月 | |
美剣士大名 | 若さま太平記 | 大和出版 | 1958年5月 | 1990年12月 | |
変幻振袖若衆 | 大和出版 | 1958年6月 | |||
大江戸暴れん坊 | 大和出版 | 1958年7月 | 1989年9月 | ||
捨扶持一万石 | 白峰社 | 1958年8月 | 1981年6月 | ||
若殿千両笠 | 大和出版 | 1958年8月 | 1989年11月 | ||
若さま七変化 | 若さま紅変化 | 大和出版 | 1958年9月 | 1985年12月 | |
江戸の小天狗 | 白峰社 | 1958/9/1 | 1977年8月 | ||
流れ星小四郎 江戸の小天狗完結編 | 白峰社 | 1958年10月 | +++ | 文庫化に際し合本に | |
江戸の顔役 | 江戸の素浪人 | 雄文社 | 1958年10月 | 1996年11月 | |
塗れ髪剣士 | むらさき剣士 | 大和出版 | 1958年11月 | 1982年10月 | |
恋月江戸ごよみ | 恋月江戸暦 | 白峰社 | 1958年 | 1983年7月 | |
日月剣士 | 白峰社 | 1958年 | 1995年12月 | ||
江戸の風来坊 | 白峰社 | 1958年 | 1976年1月 | ||
江戸の恋浪人 | 和同出版社 | 1959年1月 | 1991年8月 | ||
孤剣士峠 | 白峰社 | 1959年2月 | 1979年6月 | ||
みだれ無念流 | 東京文芸社 | 1959年4月 | 1990年6月 | ||
かげろう使者 | かげろう使者 『村上党縁起』綺談 | 東京文芸社 | 1959年5月 | 1985年9月 | |
剣は流れる | 白峰社 | 1959年7月 | 1980年6月 | ||
風来恋飛脚 | 恋風無明剣 | 東京文芸社 | 1959年7月 | 1984年3月 | |
江戸ぶし変化 | 東京文芸社 | 1959年9月 | 1993年9月 | ||
美女系図 | 白峰社 | 1959年10月 | 1993年6月 | ||
闇法師変化 | 東京文芸社 | 1959年11月 | 1973年4月 | ||
絵図姫人形 | 姫人形絵図 | 浪速書房 | 1959年12月 | 1981年5月 | |
流雲片羽鳥 | 白峰社 | 1959年 | |||
若殿恋しぐれ | 大和出版 | 1959年 | 1982年9月 | ||
風流月夜ばなし | 白峰社 | 1959年 | |||
御家人ばやし | 東京文芸社 | 1960年1月 | |||
続・闇法師変化 | 東京文芸社 | 1960年2月 | +++ | 文庫化に際し合本に | |
巷の素浪人 | 花の素浪人 | 東京文芸社 | 1960年3月 | 1979年10月 | |
変幻去来坂 | 浪速書房 | 1960年4月 | 1988年3月 | ||
白面剣士 | アサヒ芸能出 | 1960年5月 | 1976年6月 | ||
黒風秘文 | 黒風組秘文 | 東京文芸社 | 1960年5月 | 1981年9月 | |
忍者往来 | 東京文芸社 | 1960年7月 | 1971年9月 | ||
夕雲峠 | 浪速書房 | 1960年8月 | 1973年11月 | ||
月の素浪人 | 東京文芸社 | 1960年9月 | 1971年11月 | ||
江戸放浪記 続・巷の素浪人 | (花の素浪人) | 東京文芸社 | 1960年10月 | +++ | 文庫化に際し合本に |
流離の剣 | 浪速書房 | 1960年11月 | 1992年11月 | ||
三代の悲願 | 大和出版 | 1960年11月 | <短編集> | ||
黒百合秘帖 | 東京文芸社 | 1960年12月 | 1973年7月 | ||
蒼い風音 | 大和出版 | 1961年1月 | <短編集> | ||
続・夕雲峠 | 浪速書房 | 1961年1月 | +++ | 文庫化に際し合本に | |
花の無頼剣 | 東京文芸社 | 1961年3月 | 1990年9月 | ||
朝焼け秘帖 | 三匹の鼠 ねずみ小僧次郎吉外伝 | 浪速書房 | 1961年4月 | 1985年3月 | |
かげろう峠 | 浪速書房 | 1961年5月 | 1996年6月 | ||
気まぐれ大名 | 東京文芸社 | 1961年5月 | 1972年10月 | ||
浪人街道 | 浪速書房 | 1961年6月 | 1992年9月 | ||
花の武士道 | 三洋出版社 | 1961年7月 | 1986年8月 | ||
紅蜘蛛系図 | 黒雲岳秘帖 | 東京文芸社 | 1961年7月 | 1982年4月 | |
闇変化 | 三洋出版社 | 1961年9月 | 1987年11月 | ||
妖鬼の街 | 光風社 | 1961年10月 | |||
恋残月 | 三洋出版社 | 1961年11月 | 1977年10月 | ||
月夜の使者 | 三洋出版社 | 1961年12月 | 1994年9月 | ||
まぼろし坂 | 光風社 | 1961年12月 | |||
月夜笛 | 光風社 | 1962年3月 | |||
千両鷹 | 青樹社 | 1962年3月 | 1980年5月 | ||
孤剣街道 | 青樹社 | 1962年4月 | 1977年7月 | ||
鬼面の辻 | 光風社 | 1962年5月 | 1997年7月 | ||
三日月悲帖 | 青樹社 | 1962年5月 | 1979年7月 | ||
霧の城 | 光風社 | 1962年6月 | |||
浪人絵図 | 浪人三国志 | 青樹社 | 1962年6月 | 1996年4月 | |
血汐絵図 | 青樹社 | 1962年9月 | 1996年2月 | ||
無頼の灯 | 無頼の灯 ねずみ小僧行状記 | 光風社 | 1962年9月 | 1997年4月 | |
剣侠一代 | 光風社 | 1962年12月 | 1996年9月 | ||
暗闇大名 | 幽霊谷異聞 | 青樹社 | 1962年12月 | 1986年10月 | |
黒蜘蛛秘文 | 青樹社 | 1963年2月 | |||
残月峠 | 光風社 | 1963年3月 | |||
消えた若殿 | 青樹社 | 1963年4月 | 1969年1月 | ||
秘文 | 黒十字秘文 | 圭文館 | 1963年6月 | 1980年9月 | |
風と奔流の陣 | 光風社 | 1963年6月 | |||
神変天狗侍 | 神変天狗剣 | 青樹社 | 1963年7月 | 1983年3月 | |
江戸群狼記 | 光風社 | 1963年7月 | |||
夜に来た男 | 月夜に来た男 | 青樹社 | 1963年9月 | 1977年12月 | |
ひとり鷹 | 光風社 | 1963年9月 | 1978年2月 | ||
闇姫呪文 | 闇姫伝奇 | 青樹社 | 1963年11月 | 1979年8月 | |
悲情の門 | 影法師推参 | 青樹社 | 1963年12月 | 1975年10月 | |
飛騨党始末記 | 青樹社 | 1964年1月 | |||
朝姫夕姫 | 青樹社 | 1964年4月 | 1974年7月 | ||
赤穂浪士 | 春陽堂書店 | 1968年7月 | |||
夕鶴城 | 春陽堂書店 | 1969年3月 | |||
名城物語 | 春陽堂書店 | 1969年12月 | |||
江戸の野獣たち | 1974年9月 | ||||
まぼろし絵図 | 1974年10月 | ||||
気まぐれ侍 | 1991年10月 |
初めに書いておくと、貸本小説社から、どれだけの本が出版されたかを簡単に調べる方法は、なさそうだ。国会図書館ですら、系統だって収蔵されておらず、どれだけ洩れがあるか見当がつかない。このリストは、それらを基本に、あちこちのネット情報を継ぎ接ぎして仮作成したものなので、完成度はたぶん、80パーセント程度ではないか、と思っている。実際、これ以外に、貸本小説として出版されたものが、たぶん、10冊程度はあるのではなかろうか。上記リストの最後(二重線の後)に3冊並べているのは、その把握できていないもの(の中の幾つか)と推測したものになる。春陽文庫への文庫化状況を考えると、これらが春陽文庫に書き下ろされたと考えるより、これらも貸本小説を文庫化したものと考えるのが自然だと思うからだ。
(おまけの傍証。ネットで検索すると、江崎の孫の方が祖父について触れていて“約200冊の時代小説を発表した”と書いている。時代小説以外の読物が20冊弱あって、春陽文庫で再刊されたものが約70冊とすると、オリジナルの小説は100冊余り、と考えて良いのではないか。そうすると、このリストに載っていないものは、あと10冊程度と考えられそうだ。一方、この200冊がオリジナルの冊数とするのは、さすがに考えにくいと思える)
また、刊行年月を確認できたものは、出版年月に記載しているが、出版されたことは二次情報から確実視できるが、本を実見できていないものについては、推測によって出版年だけを入れている。リストとしては不完全そのものだが、それでも、当初の目的である、貸本小説作家の執筆ペースは垣間見えるのではなかろうか――。
で、最初に書いた執筆ペースだが、この不完全なリストの状態でも、昭和32年3月にデビューしてから、昭和38年にかけて、100冊弱の本を、月に1冊よりも早いペースで書いていたことが分かるだろう。大半が書下ろし長編だったから、たまたまこの期間に連続して本になったとも思えず、ただひたすら書き続けていたに違いない。
また、こちらについては調査が全く出来ていないためにこんな形で触れるしかないが、江崎は貸本小説に長編を書いているだけではなく、当時の倶楽部雑誌に、短編小説も掲載している。数多くの雑誌に書いている印象はなかったから、こちらは月に1〜2編くらいだったかも知れないが、ともかく、短編も書いていた。――だが、リストの備考にも触れたが、著書の中の短編集の比率が、案外と低い。雑誌に書いたものが溜まったから一冊にする、という傾向は余り感じられないのである。実物を読んでいないので、短編として書いたものを長編化したりしていたのかも知れないが、であるなら、執筆ペースはやはりすごかったことになるかと思う。
春陽文庫から多くの時代小説を刊行した作家に、この江崎のほか、颯手達治などがいるが、この作家も、それなりのペースで本を書いていたようだ。当時、貸本小説家として売れるためには、数を量産できること、というのが大前提だったのかも知れない。(ミステリ系の作家で、貸本小説をこれだけのペースで書いた作家は浮かばない。敢えて言えば、一時期の九鬼紫郎が該当しそうだが、これは著書の半分以上が時代小説だったから、とも思える。それに、九鬼は新聞連載小説を貸本小説として刊行したものも多かったから、本来の貸本小説作家とは言いにくい気もしている……)
一方で、もう一つの驚きが、これらの貸本小説を、春陽文庫が実にマメに文庫化していったことだろうか。当然、もともとの数が多かったから文庫化した数も増えた訳だが、それでも、100冊程度の著書の7割を文庫化しているのは、なかなかだと思われる。しかも、短編集は敢えて文庫化しない、といった意識があったようにも見えるから、ただ機械的に処理したとも言いにくいいだろう。
言い換えれば、春陽文庫がこれだけの数を文庫にしていなければ、さすがに、無条件で忘れられた作家になっていた可能性も高かったのではあるまいか。
こんなリストでも、多少は何らかの参考になると信じて、とりあえず、上げるだけあげました。指摘があれば、随時直して行きます。
戸田和光