ビドロとはポーランド語で、「牛車」と「家畜のように虐げられた人々」の意味がある。スタソフの楽譜へのコメントは「雄牛がつながれた大きな車輪の付いたポーランドの荷車」となっている。
自筆の楽譜ではこの曲のエンディングはずっとフォルテシモのままなのだそうだが、「牛車」が遠くへ去って行くのをイメージしてか、スタソフの出版した楽譜にはリムスキーコルサコフの強弱記号指示により、ディミネンドしてピアニシモで終わる。ラヴェルの編曲でも同様である。
しかし、荷馬車や牛の絵はとうとう発見されなかった。ムソルグスキーの自筆の楽譜には最初につけた題名をナイフで削り取り、書き直した痕がある。題名の意味をムソルグスキーがスタソフに問われた時、「我々の間では『牛車』ということにしておこう」と答えたという。つまり、「本当は『牛車』ではなく、『圧政に苦しむポーランド人達』だが、『牛車』ということにしておこう」という意味である。スタソフは真意を知りながら、いわば「政治的配慮」をして、楽譜出版の際にわざわざ「ポーランドの荷車」と説明を付けたのだ。
こういう観点から、発見された「ポーランドの反乱」というタイトルの鉛筆スケッチがムソルグスキーをしてこの作品を作らせたと推理される。ならばギロチンのむごたらしさの描かれる場面は最後まで怒りのフォルテシモがふさわしいかもしれない。