その18.日本古代史の真実解明を拒み続けている天皇陵
世の中には訳の分からんことが一杯ありますが、古代天皇陵の問題などもその代表的なものの一つといえそうですね。学生時代日本史のあまり好きでなかった人も、大阪府堺市にある日本最大の前方後円墳である「仁徳天皇陵」のことは聞き知っているのではないでしょうか。
ところで、この古墳、現在に至るまでただの一度も科学的な発掘調査がなされていないことを知っていましたか。では、なぜ、第16代仁徳天皇のお墓だといっているのかというと、日本書紀・古事記などにそう書いてあるから、というだけのことなんです。
だから、何一つの物証がない以上、そもそも、仁徳天皇という天皇が実在したのかは勿論のこと、この日本最大の古墳が本当に仁徳天皇のお墓かどうかも今もってはっきりとは分からないということです。
仁徳天皇陵ですらそんな調子ですから他の古代天皇陵は推して知るべしで、一つの例外もなく発掘調査という科学的メスが今日に至るまで入れられていないという事実。日本書紀・古事記・平安時代の「延喜式」などの文献や伝承をもとにして、明治時代に入り、初代神武天皇以下すべての天皇の墓が国家事業として当時の学問水準のもとであいまいなままに指定されていったという事実。
したがって、現在の学問水準からみれば、古墳とその中に葬られている天皇とが一致しているとほぼ確実にいえそうなのは、五本の指に入るくらいしかないという事実。
そして、摩訶不思議なのは、この誰もが異論を挟む余地のない事実が学校の教科書にただの一行も記載されていないという事実。
念のため、千葉県の公立高校で使用されている教科書十数冊を調べてみましたが、一冊の例外もなく、索引に「天皇陵」という言葉すらの記載もありませんでした。ということは、上に述べたような事実はいっさい高校の授業において教えられていないということです。そんなことは、大学の専門課程にいって勝手に学べということかいな。
自国の歴史を学ぶということは、過去の歴史的真実・事実を客観的に認識することによって、現在・将来の国のあるべき姿や自らの生きべき姿を模索するという大事な側面がある以上、これはどう考えてもやっぱりおかしいんじゃないか。私はそう思います。
当然のことながら、この古代天皇陵の問題に関する書物は数多く出版されていますが、井沢元彦著「逆説の日本史@・古代黎明編」(小学館刊)が、きわめて分かりやすくて秀逸だと思います。
井沢氏は、「天皇陵]の問題点として、つぎの三つをまず挙げている。
「まず第一に、『これは確かに〇〇天皇陵だ』と確実に明言できる古墳は極めて少ないこと。第二に、天皇陵の比定(これが〇〇天皇の陵だと決めること)は、明治時代に国が当時の学問水準で強圧的に行ったもので、今日の水準で見ればかなりの疑問点があること。第三に、それにもかかわらず国(宮内庁)は天皇陵に対する発掘調査どころか、考古学者の立ち入りすら一切拒否していること。」(第五章 天皇陵と朝鮮半島編317頁)。
古代天皇陵は、国の文化遺産であり、国民共有の財産ではないのか。私はそう思いますが、宮内庁の考えは違うわけで、「天皇家の祖先の霊を祀る神聖な場所であり、調査研究の対象とすべきではない」(同322頁)というわけです。古墳造営という国家的大事業のために労力を強いられた数多くの名もなき民衆のことを宮内庁はどのように考えているのかな。
井沢氏は、この書物の中で重要な点を二つ指摘している。
その第一は、宮内庁が「天皇陵」を「立入禁止」「学術的調査一切否定」にしている法的根拠はどこにもないということ。「立入禁止」の立て札を立てる以上、何らかの法律(例えば「天皇陵の管理に関する法律」)や政令に基づくものと考えるは当然のことですが、そんなものは一切なく、立入禁止は「法的根拠」に基づくものではなくて、「一般常識」(宮内庁の見解)によるものであるということ(同343頁)。あくまでも天皇家自体のお墓という認識があるからなんでしょう。きっと。
第二は、ここが最も重要なところなのですが、宮内庁が、「天皇陵」の学術的調査を認めない本当の理由として、「天皇陵を発掘すると天皇家と朝鮮半島の関係が明らかになるから」「天皇家の祖先が朝鮮半島から渡来したことの証拠が出てくる恐れがあるから」ということを指摘している点です(330頁)。
天皇をはじめとする皇族のそれぞれの学術的研究テ-マはどうやって誰が決めるのかな。私の知る限り、誰一人として「日本古代史」を専攻する方が出てこないのはいかなる理由によるものなのか。
そこには宮内庁が介在するからではないのか。ぜひ知りたいところです。
一体いつになったら、あいまいなままに眠っている「古代天皇陵」は国民共有の文化遺産であることを堂々と主張して、古代日本史の真実解明のために立ち上がる者が出てくるのでしょうか。
主権在民の現憲法のもとにおいては内閣総理大臣の管理下にある一官庁にすぎない「宮内庁」を説得することはそんなに困難を要することなのか。
宮内庁が、古代天皇陵に眠る真の被葬者を確定するために、学術調査としての発掘を認めるという見解を示すだけで事は前に進むのだから。
考古学者の全国組織である「日本考古学協会」という団体がありますが、この団体の古代天皇陵に対する活動が私の情報入手不足かまるっきり見えてきません。その協会会則には、考古学者として考古学の発展のための社会的責任の遂行を使命とすることを謳っているはずです。
古代天皇陵の学術的発掘調査という日本古代史真実解明のために不可欠の要求は、はたして学問とはまったく別次元のことなのか。その要求は、あくまで政治的なものなのか。
古代天皇陵に関しては行動が伴わず物証のない世界で学術論文を発表しつづけている学者先生方にぜひうかがってみたい、というのが私の正直な気持ちです。(平成16・4・11)
追記
現在、国の定めた指定天皇陵のほかに、天皇ないしは皇族の墓ではないかと推定されるという理由に基づき指定された矛盾に満ちた「陵墓参考地」なる古墳が存在するが、この古墳も宮内庁の管理のもと一切立ち入り禁止で学術調査すらも認められていない。
その代表的なものの一つに、奈良県三輪山の麓に位置する「箸墓」(はしはか)がある。
この古墳は最古の前方後円墳の一つ(3世紀中〜後期)といわれており、邪馬台国の女王卑弥呼の墓ではないかとうわさされている学術的調査価値のきわめて高いロマンに満ちた古墳です。
発掘すればその真偽はすぐに分かること。にもかかわらず、なんらの科学的根拠もなくたんなる文献からの推定で指定した宮内庁の意向のもと、かたくなに真実解明の扉を閉ざしつづけている現実。
やっぱりおかしいな、これは…。
天皇家に対するタブ-。それは遠い過去のものではなかったのか…。
サブぺ-ジへ