Aさんは、駐めてあった駐車場内の白線駐車スペ-ス内から、公道にでるため車のエンジンをかけ右方向に発進しようとしたところ、左方から一台の車が前を横切って行ったので、てっきりこの車も道路に出るのだろうと判断し、その後に続いて前進したところ、前を走っていた車が突然停車し、その直後いきなりバックをし始めたので、なす術もなく逆突されるという被害事故にあいました。
突然停車後の突然のバックであり、クラクションを鳴らす暇もありませんでしたが、相手車は、白線スペ-ス内に駐車するためのバックだったことが判明しました。
さて、この事故。Aさんは、停車時のしかも相手車が後方の確認もせずに一方的にバックしてきたための事故であり、自分には過失責任はないだろうと判断しましたが、相手保険会社の考えは違っていました。
Aさんにも10%の過失責任があるとして、10:90の過失責任割合を提示してきたのです。保険会社の言い分を聞いてみることにしましょう。
保険会社の主張要旨
本件事故は、後退し駐車スぺ-スに入れようとした当方の契約者と、その直後に停車していた貴殿との間に発生した追突事故である。
事故現場が駐車場内であることを考えれば、駐車のために後退してくる車両があることも当然に予見しなければならない義務があった。そして、この予見義務に基づいて、突然前車が後退してきても、これに対応できるような措置を事前にとっておかなければならない措置義務が貴殿には存在したというべきである。にもかかわらず、この措置を怠り、回避行動も取れないような1メ-トルという至近距離で停車していた貴殿にも過失責任は当然に生じるものと考える。
顧問弁護士の意見要旨
保険会社の見解は妥当である。
本件事故は、停車中のA車に契約車が後退して追突した逆突事故であり、基本的には、後方の安全確認を怠った契約車の過失事故と考えるべきである。
しかしながら、Aが駐車枠から発進するに際し、契約車の動静を見れば少なくとも駐車のために後退を開始することを認識すべきであったし、少なくとも認識しえたと考える。であるならば、すでに通路上で駐車動作に入っている契約車の動静を見極めて、同車が後退してきても接触の危険がないように注意して進行すべき注意義務があった。
にもかかわらず、契約車の動静を確認することもなく、また、自車が発進すれば、契約車が自車に気づき、たとえ後退するにしてもいきなり後退することはないだろうと軽率に判断して通路上に出て、衝突の危険が高い位置で停車したことが、本件事故発生の一因となっていることは明らかであるから、少なくとも10%の過失責任を認めるのが相当である。
さて、みなさんは、この事故における両者の過失割合をどのように判断されるでしょうか。
日常的によく起こりうる事故形態であり、誰もが遭遇する可能性のある事故形態だといえると思います。
そもそも、民法709条に規定する「過失」というものの存在の有無は、現実に発生した損害を、その発生に関与した者にどのように公平に配分したらよいのか、という見地から判断がなされるものだということです。過失が存在しないということは、法的関与責任がないということに他ならないわけです。
事故内容から判断して、関与責任ありとすべきであると判断されれば、いかなる理論を駆使して過失ありとするかということでもあるわけです。
では、本件事故において、はたしてAさんに法的関与責任はあるとすべきかということですが、前を走っていた車が突然に停車後、直ちに後退をはじめたが、その後退進路上に停車していたのがAさんの車だったというわけです。
確かに、後退する前車の直後に停車してしまったというAさんの行為は、軽率のそしりを免れないかもしれませんが、だからといってこの軽率行為が、直ちに法的責任を問われる過失行為に当たるのがどうかということは、さらなる検討が必要だということです。
私は、Aさんには、本件事故によって発生した損害の法的関与責任はない。つまり、相手方である前車の運転者の一方的不注意行為によって発生したものであり過失責任はないと判断するわけですが、ではどうやって、その根拠理論を展開していくかということになるわけです。
Aさんは、駐車スペ-ス内から自車を発進させ右方にある出入り口に向かおうとした。そこへ、たまたま、左方から事故相手車が自車の前方を通過して右方に向かった。だからこの車も出入り口に向かうものと速断してその後ろに続いて発進した。この速断は、進行方向に出入り口がある以上、無理からぬ判断というべきものであって、何ら非難に値するものではないというべきです。
相手保険会社は、この発進の時点で、走行場所は駐車場内なのであるから、前車が駐車スペ-スに入れるためにいつなんどき停車し突然後退してくるかもしれないということを予測して発進すべきだったのだ。そうしていれば、前車の直後に停車するということはなかったわけだから、事故は回避できたと主張するわけです。
保険会社の言うように、駐車場という特別の場所を走っている以上、前を走っている車の中には、空いている駐車スぺ-スに入れるための運転操作をするために停車する車もあるだろうということを予測することは可能であり、また、しなければならない義務もあると思います。
しかし、かような予測は可能だったとしても、駐車のために前車が突然停車して突然後退してくることもありうるということまでを事前に予測して、これに対応できる措置を講じた上で走らなければならないのか、ということですが、そこまでの予測義務を出入り口方向に走っている車に課すことはできないと考えるべきです。
保険会社の考えは、「ドロボ-にも三分の理」的発想ではないのか。むしろ、出入り車の激しい駐車場内で駐車スペ-スに入れようとする車は、ハザ-ドランプを点滅させる等の措置を講じて、駐車意思を明確に他車に表示する義務があるというべきで、その義務を怠たり、しかも、後方の安全確認をまったくしないまま突然後退した結果、直後に停車中の他車に一方的に追突した責任は、すべて負わなければならないというべきです。
当ほけん村の結論です。
駐車場内を走っている車は、前車がなんの意思表示をすることもなく、突然停車しその直後突然後退して駐車スペ-スに入れようとすることまでを予測して、これに対応して運転すべき義務はないものと考えるから、かような車に追突されても、その直後に停車していた車に過失責任は生じない。
(平成18年11月16日)